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【九州教育旅行現地視察会】
豊富に広がる体験活動の選択肢

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新しい修学旅行の在り方―首都圏から航空機で九州へ

  近年、首都圏から航空機を使用した公立中学校の修学旅行が行われ始め、その動きは広がっている。行き先は、北は北海道から南は沖縄までと幅広い。なかでも訪問地として多いのが「九州」だ。九州への修学旅行の在り方を考えている首都圏の先生方に、「教育」の観点から九州の魅力を知ってもらおうと8月19日から21日まで「九州教育旅行現地視察会」(主催/九州観光推進機構、企画・協力/教育家庭新聞社)を実施。大分空港から入り、大分県・福岡県・佐賀県・長崎県と3日間で駆け巡り、「行ったからこそ」「見たからこそ」「触れたからこそ」「聞いたからこそ」わかる、九州の魅力を紹介する。

大分県江戸の風情が残り 歴史・文化学ぶ大分

 羽田空港から約1時間半のフライトで、大分空港に到着。最初の目的地はバスで約30分、江戸時代の風情が今に残る城下町・杵築だ。

【城下町・杵築の散策】杵築は、北と南の高台にある武家屋敷に挟まれた谷あいに商人の町が続き、日本唯一の「サンドイッチ型城下町」と言われている。北台武家屋敷では家老屋敷の大原邸を見学。「かまどから出る煙に燻されて、茅葺屋根が保存されています」と話すのは、ボランティアガイドの宇都宮艶子さん。北台武家屋敷を離れ「酢屋の坂」を下りると、商人の町を挟んで反対側に、南台武家屋敷に続く「志保屋の坂」が見られ、武家と商人の住む場所が分かれていたことを実感。

九州教育旅行現地視察会
城下町・杵築の様子が一目瞭然の
「酢屋の坂」

【安心院(あじむ)グリーンツーリズム】宇佐市安心院町では、安心院町グリーンツーリズム研究会が主体となり、「安心院方式」と呼ばれる農家の民泊を行っている。昼食で訪れた「百年の家 ときえだ」も約60軒ある民泊農家の一つ。まるで家族の一員のように子どもたちを受け入れ、郷土料理や竹細工を一緒に作ることで、民泊だからこその感動が生まれる。

【日田市 咸宜園・豆田町散策】続いて訪れた日田市は、江戸時代に幕府の直轄地「天領」として栄えた。廣瀬淡窓が開いた私塾「咸宜園」の復元事業は現在も進んでいる。一足早く見学した10月開館予定の「咸宜園教育研究センター」では、展示物や映像で咸宜園の歴史を紹介。

九州教育旅行現地視察会
日田祇園祭で使用された壮大な山鉾

  咸宜園から徒歩7〜8分の豆田町を、日田ご当地コンダクター・後藤博子さんの案内で散策。江戸と明治が混ざったような街並みがカーブしているのは、侵入した敵を惑わすため。また、日田では7月下旬に祇園祭が行われているが、日田祇園山鉾会館で、実際に祭りで使われた壮大な山鉾を見ることができた。

【屋形船体験・鵜飼い見学】「水郷日田」と呼ばれるこの地は、筑後川の上流に位置し、水量豊かな三隈川が流れ、5月20日から10月末まで、屋形船から400年の伝統を持つ鵜飼いを見学することができる。体験学習のプログラムとしてもおすすめ(食事も可)。

 

 

 

福岡県→佐賀県学び支える多くのボランティアガイド

【大刀洗平和記念館】かつて福岡県筑前町南部地区には、大刀洗飛行場をはじめとする軍事施設が存在した。しかし、昭和20年3月末のB29爆撃機による空襲で基地は壊滅的な被害を受け、子どもたちを含めた多くの命が犠牲となった。そこで、平和の大切さを語り継ごうと、昨年10月に開館。

  館内にはマーシャル諸島のジャングルに眠っていた零戦や、博多湾に沈んでいた九七式などの戦闘機を復元して展示。また、語りの部屋では空襲のすさまじさをシアター映像で上映しているほか、ボランティアグループが戦争の悲惨さを詩の朗読で伝えている。生徒たちがこれを見聞きした時、何を思うだろうか。

九州教育旅行現地視察会
修学旅行で人気の大宰府天満宮

【九州国立博物館・太宰府天満宮】4番目の国立博物館として、2005年10月に開館した九州国立博物館では、

日本文化とアジアの関わりが学べる。短時間で展示への理解を深められるように、ボランティアスタッフが常駐。10人前後に1人同行してくれる。4階の文化交流展示室を誘導しながら展示物の解説をしてくれるので、効率よく見学することができる。また、文化財を保管している収蔵庫や修復過程を見学できるバックヤードツアーもある。

  学問の神様として知られる菅原道真公を祭った太宰府天満宮と博物館は、動く歩道「虹のトンネル」で結ばれており、博物館の見学と天満宮の参拝は修学旅行でも人気のコースとなっている。

九州教育旅行現地視察会
集落の復元が見られる
吉野ケ里歴史公園

【吉野ヶ里歴史公園】福岡から佐賀に移動した一行は、弥生時代後期の集落が復元されている、吉野ヶ里歴史公園を訪問。弥生時代の遺跡の中でも日本最大級となり、北墳丘墓には本物の甕棺と遺構面が発掘された当時の状況で展示されている。

  また、体験プログラムとして、勾玉や土笛づくり、火おこしなどの「ものづくり体験」、弥生人の衣装に着替えて行う、布つくりや舞いの稽古、楽器製作と演奏などの「弥生なりきり体験」が修学旅行生に人気。

【佐賀城本丸歴史館】藩主が政治を行い、生活していた本丸御殿を日本で初めて復元し、展示室等に利用。木造復元建物としては日本最大規模の2500平方メートルを誇る。その入口となる「鯱の門」は天保9年(1838年)当時の姿で、佐賀戦争の時に撃ち込まれた銃弾跡が残る歴史の証。

  ここで佐賀城や佐賀の歴史について分かりやすく解説してくれるのが、常駐するボランティアガイド。一之間から四之間まで続く外御所院は、襖を外すと1000人が入れる320畳の大広間となり、佐賀藩の公式行事が行われていた。

長崎県炭鉱の島「軍艦島」で地球の資源を考える

九州教育旅行現地視察会
軍艦「土佐」に似ていたため
「軍艦島」と呼ばれる

【グラバー園】坂の町・長崎を象徴するように、南山手の小高い丘にあるグラバー園。国指定重要文化財の旧グラバー住宅や旧リンガー住宅など、異国情緒が漂う洋館が並び、四季折々の花が咲き、緑に包まれた園内を展望広場まで上ると、長崎港や三菱重工長崎造船所などを一望できる。

【長崎歴史文化博物館】4万8000点もの資料が展示され、長崎の歴史と文化を学ぶことができる。市内の中心部にあるので、長崎の歴史や伝統工芸を博物館で調べてから史跡を巡ると、学習効果が高いだろう。
長崎奉行所立山役所の一部を復元した長崎奉行所ゾーンと、長崎の海外交流の歴史を紹介した歴史文化展示ゾーンからなり、入り口がいくつかあるが、最初に奉行所概観を見学するのがおすすめ。奉行所に続く入口の石段は当時のもので、江戸時代からこの地にあったことを実感できる。

【軍艦島】長崎港から約19キロメートルの沖合いに位置する端島は、島全体が塀に囲まれ、高層鉄筋アパートが立ち並ぶ外観が軍艦「土佐」に似ていたため、「軍艦島」と呼ばれるようになった。炭鉱の島として栄え、最盛期には5300人の住人がいたが、1974年の閉山後は無人島となり立ち入りが禁じられた。その軍艦島への上陸が昨年許可され、日本の近代化を支えた島の姿を30数年ぶりに見られるようになった。

九州教育旅行現地視察会
平和の泉から平和祈念像を眺める

  島を案内してくれたのは、NPO法人軍艦島を世界遺産にする会の理事長で、かつての島民・坂本道徳さん。「栄えていた島に、今は誰も住んでいません。資源の価値が無くなり、私たちは島を出ていきましたが、資源が無くなったら日本や地球を出ていくのでしょうか。軍艦島は未来の日本や地球の姿です」と語る坂本さんの言葉が心に響く。

【長崎原爆資料館・平和公園】修学旅行で長崎を訪れる学校が多い理由の1つは、「平和学習」が行なえるから。8月9日に投下された原子爆弾により多くの命が奪われたが、長崎原爆資料館では、その被害の大きさを改めて思い知らされる。資料館で原子爆弾の被害について学び、語り部と共に市街地を巡る「さるく体験」は、大きな気づきが得られるだろう。平和公園では、平和を願って折り鶴を献納する学校も多い。

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※学校名、肩書きは当時のものです。

【2010年9月18日号】

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