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「共同学習」ベースに学ぶ
「生徒」「教師」「管理者」用スタンダードを
日本教育工学会第20回全国大会開催

日本教育工学会第20回全国大会 日本教育工学会第20回全国大会(20周年記念大会)が9月23日(木)〜25日(土)に東京工業大学において開催された。20周年記念企画では、前文部科学大臣・遠山敦子氏が「これからの学校と大学−確かな学力と教育の情報化、大学教員に求められること」と題する基調講演を行なった。
 また、特別講演はInternatlomalSocletyforTechnologyjnEducatlon(以下ISTE)理事・マリリン・パイパー氏による「Thinkingforward:TheoryandApplication』ofInformationaneCommunicalionLlteracyinSchools」。
 パネルディスカッションは氏の講演を受け、「教員のICT活用指導力の目標と研修のあり方〜米国のISTEの事例を参考にして」がテーマとなった。


「高度なIT人材」
  育成に尽力せよ

 遠山敦子氏が平成13年文部科学大臣として就任した当時は、「教員の資質の重要性」や「学校システムをもっと柔軟に」など、外部からの要請が次々と起こる「疾風怒濤の時代」であった。「21世紀に向けてどうあれば良いのか、『人間力戦略ビジョン』の中味を提案、方法論まで書き込んだ。今後は『人材教育』に力を入れるしか道はない。日本教育工学会には、『高度なIT人材の育成』の実現に尽力頂きたい。日本人の理系における修士課程・博士課程修了人数は、諸外国に比べ、少ない。論文だけで終始せず、実際に役立つ教育のためによい研究をし、実践に移して欲しい」と述べた。


特別講演】 教育ICT化・米国
  「成功の秘訣」
─ Ms.Marilyn Piper

 パイパー氏は現役の教員として、米国ISTE理事を務めている。ISTEとは、教育の情報化に向け、米国スタンダードを設置している団体だ。氏は、ICTが教師にとって、また生徒にとって、如何に力を発揮するものか、具体例を交えて講演した。
ISTE理事・ハイパー氏
ISTE理事・ハイパー氏

 「21世紀のスキルとこれまでの伝統的なスキルとの溝を埋め、テクノロジーを生かした教育環境を整え、そのプロセスを学校が自信を持って進めるためには、二つテーマがある」と、「プロジェクト・ベースド・ラーニング」「生徒・教員・管理者各々にとってのNETSの基準」を揚げた。

 プロジェクト・ベースド・ラーニングとは、「同で意味のあるプロジェクトに取り組む」習のこと。達成感が得られ、思考力・認識力も高いものを見に付けられると米国では考えられている。

 「一斉学習のウエイトは、米国では低い。プロジェクト・ベースド・ラーニングは、科目を超えた学習が可能になり、『情報収集』『整理』『考察』『構築』『成果物の制作』『発表』という4段階それぞれにおいてディスカッションする場が与えらるというメリットがある。そこでは教師はコーチであると共に学ぶ側でもある」と述べた。

 また、ICTのスキルに関しては、生徒が既に獲得している非常に高いスキルを見込んでプログラムを作る必要性を説いた。米国では、既に生徒の能力を活用したプログラムを実験、その効果が公表されている。これは生徒・教師双方にメリットがある取り組みであり、その成功のためには「ハードやソフト、ネットワークなどのテクノロジー、学校現場の中における適切なサポート、この取り組みを通じた専門性の成長・啓発の保障という3つの柱が成功の秘訣」と述べた。中でも「適切なサポート」の確保が難しく、この有無が成功を左右するという。ISTEでは、地域の教育委員会や専門家が所属しており、サポートを行なっている。

 もうひとつの重要な活動が「NETS」と呼ばれるスタンダード(規準)作りだ。規準には生徒用・教師用・管理者用があり、それぞれ6種類のテクノロジー・スキルが明文化されている。

 パイパー氏は、NETSの規準をクリアした20人が行なったプロジェクト・ベースド・ラーニングの例を上げた。テーマは「ワシントンの州議会議事堂のバーチャルツアー」。

 写真を集め、構成を考え、制作、ワシントン州の公式HPにアップし、公開。他校の学習にも役立てられた。その後、議事堂は地震で一部破壊され、この作品は貴重な記録となり、州より感謝状が贈られるというサプライズもあった。

 パイパー氏は「これからの教育改革は、生徒の声やスキルを無視できない。彼らの意志を反映させていくことが必要である」と述べた。


ICT「成長する」教師に必要
 
−永野氏
教師は思った以上に「遅れて」いる
 −平松氏

パネルディスカッションはパイパー氏の講演を受け、「教員のICT活用指導力の目標と研修のあり方〜米国のISTEの事例を参考にして」がテーマとなった。パネラーは永野和夫氏(聖心女子大)、村瀬康一郎氏(岐阜大)、南部昌俊氏(上越教育大)、平松茂氏(岡山県教育委員会指導課)の4名。指定討論者には、大谷尚氏(名古屋大)。

 永野氏は「ICTは成長する教師にとって必要不可欠の道具。教師は、子どもらが情報や情報手段を学習場面で活用する授業を実践できると同時に、自ら情報を活用できなければならない。また、授業でのICT活用を求める以前に必要なのが、本人にとっての意味づけ」と述べた。岡山県教委の平松氏は「先生方は予想以上に遅れている。一度でも研修内容がつまらないと、もうこなくなる。自分は変わりたくないし、学校を離れることもできない。研修は、こちらからの訪問が必要である。内容的には、優しく見せて納得できる、ということが必要である」と現場の代表として辛口のコメントをした。

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時代のニーズ受け 新学部設立
先進的研究公開・初の試み 東洋大学

松尾友矩学長

松尾友矩学長

 大学の教育内容における情報公開がますます求められているが、東洋大学では、9月16日、同大学における先進的な研究内容を公表した。これまでも大学の研究内容について毎年情報公開を行なってきたが、先進的な取り組みに特化した研究内容の発表は初の試み。

 1887年、私立哲学館として創立した東洋大学だが、現代のキーワードを盛り込み、新しい学科・センターを続々と構築中だ。

 設置認可申請中であるライフデザイン学部は。05年から06年にかけ、開講予定である。ライフデザインとは、「QOL」(Quality Of Life=生活の質)に基づき、自らの姓名の営みを含めた21世紀の生活をどうデザインするかについての教育研究を行う。ライフデザインの3本柱は、介護福祉や社会福祉、保育および児童福祉を中心とした「生活支援学科」、身体および身体活動に関する教育や日常生活動作能力の維持回復のための実践指導者育成を目指す「健康スポーツ学科」、ユニバーサルデザインの発想を元に社会インフラを企画・開発・教育・評価する人材育成を目指す「人間環境デザイン」。

 また、来年度開講予定である「工学部機能ロボティクス学科」はロボットとの共生社会を創ることを目標とする。このほか、政策提言できるセンターを目指す「先端政策科学研究センター」、環境と共生しながら持続していく社会の実現を目指す「国際共生社会研究センター」、21世紀を「心の時代」と捉え昨年9月に発足した「インタラクション・リサーチ・センター」、今年8月より開始する「地域産業共生研究センター」、今年より発足、5年間で研究成果を出す「先端光化学応用計測研究センター」など、現代のキーワードがふんだんに盛り込まれた学部・学科・センターが次々に発足、次世代に発信できる大学教育・研究を目指している。

 東洋大学では社会貢献事業として、高校生及び社会人対象の「講師派遣」も行っている。高校生のための「総合的な学習」支援プログラムは「高校生の自由と責任」「IT革命と情報化社会」「地球と環境」など23プログラム。社会人対象としては15プログラムある。講演料・交通費など講師支援に関わる費用は無料。

 問い合わせは東洋大学生涯学習センター 電話03−3945−7637またはsyogai@hakusrv.toyo.ac.jpまで。



【2004年10月9日号】