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学校HPの一斉リニューアルで学校情報が充実【京都市】
 学校HPの充実を広報活動に役立てる教育委員会が増えるなか、京都市では今年3月、コンテンツ・マネジメント・システム(以下CMS)を採用して市内全市立学校園のHPを全面リニューアル。半年の間に、市民からのアクセス数、学校からの情報発信回数がともに増加するなど、学校HPを活性化させるのに成功している。学校HP研究の第一人者である国際大学グローバル コミュニケーション センター(GLOCOM)の主任研究員/准教授・豊福晋平氏が、同市の取り組みに迫った。


国際大学グローバル コミュニケーションセンター
主任研究員/准教授
豊福晋平氏

アクセシビリティ推進
更新日数は2倍に 

豊福 京都市は今年3月の新システム採用から更新率など大きな変化がありましたね。授業の様子が数多くアップされるようになり、更新日数も昨年から約2倍に増えました。短期間でこれだけ成果をあげたのは大変な驚きです。実際に利用している先生方は、どのように受け止めていますか。

木下 学級担任は、自分のクラスの活動をその日のうちに知らせられるので、とても喜んでいますし、学級担任以外も学年行事等で写真を撮り積極的にHPに載せるなど、いい関わりが生まれています。

佐々木 何回もアクセスする保護者もいますし、地域の関心も高く、毎日の更新を楽しみにしている様子がうかがえます。

豊福 もともと京都市の学校は学校HPへの意識が高かったそうですが、今回HPの一斉リニューアルに踏み切った経緯を教えて下さい。

木下 これまでは各校独自に学校HPを運用していましたが、「トップページを見ただけでは更新されたかわかりにくい」「専門的な知識が必要」、「学校により更新に差がある」といった課題がありました。そんな時、CMSを利用してHPをリニューアルした京都市のHP「京都市情報館」を見て、学校HPにおける課題解消にCMSが役立つのではと考えました。

豊福 CMSと言えば、「どれも同じだ」と考えて市長部局で利用するCMSに学校HPを統合するところもありますが、京都市では学校用CMSを採用しましたね。

木下 行政が発信する全市民向けの情報と学校固有の情報は異なるものなので、CMSに求められるものも当然違ってきます。学校の先生が日々子どもと向き合い、その上でHPに携わるためには、より手軽な操作性も必要です。
 そこで全国の学校HPを研究し学校用CMSを探したところ、学校用CMS「スクール・ウェブ・アシスト」(株式会社エドウェル)が思い描いていたイメージにピタリと重なりました。

豊福 一口にCMSと言っても、学校特有のニーズを意識した機能が反映されているかどうかで、その後の運用に大きな差が現れるものです。学校用CMSを選ぶ際に重視したポイントはありますか。

木下 そうですね。学校のホットな話題をタイムリーに伝えたかったので、簡単に記事をアップできるのは魅力でした。
 また、誰もが使いやすく、見やすいHPにしたかったので、政令指定都市では初の取り組みとして「Webアクセシビリティ」にも対応しました。アップロードの際の外字確認や、目の不自由な方に向けた背景色やフォントサイズの変更も「スクール・ウェブ・アシスト」のオプションにあったので実現できました。

佐々木 センターの管理サーバーで、市内の学校のHPを一元管理でき、管理画面から各学校の活用状況や更新状況が簡単にわかります。ユーザー管理を各学校ができるところも大切でした。京都市の教職員は約8000人。そのすべての人事異動の登録を教育委員会が各学校に反映させるのは煩雑で現実的ではありません。そうした作業を各学校に分散して任せられるのは大きかったですね。

豊福 小・中学校だけで約250もの学校があるにも関わらず一斉にシステムを切り替え、かつ更新頻度も大きく向上させることに成功しましたね。
木下 先生方にお任せしたら勝手にできていた、というのが実感です。ただ、一斉に切り替えると足並みが揃わないことも多いので、現場が戸惑わないよう事前研修や移行作業には力を入れました。

佐々木 研修は1月末〜2月中旬に、主にホームページの掲載内容をチェックする校長・教頭向け(1回2時間30分)と実際にホームページを作成する担当教員向け(1回3時間)の研修を行いました。各校から1人1回ずつ、あわせて約500人を対象にした悉皆研修なので、校長・教頭と担当教員それぞれの作業内容の洗い出しからはじまり、事前の準備は二人で侃々諤々の議論となりました(笑)

木下 もちろん、すべての方々が100%納得することは難しい。HPに詳しい先生からは、ある程度画面上のレイアウトが似通うことに対して、独自性が出せなくなって残念だという意見もありました。ただ、これからは専門的知識を持った先生だけでなく、より多くの先生方が学校情報を発信できる仕組みが必要になると考えています。

豊福 自治体によって事情も異なりますが、京都市が採用した学校用CMSは、学校HPを皆で更新していくファーストステップとして間違っていないと思います。トップページ一つとっても、自由度が高すぎると記事の充実という本来の目的が散逸して、ついトップページの制作に凝りがちです。見るべきところは記事で、毎日情報を出す点に焦点化したことは素晴らしいことです。

スムーズな運用めざし
研修時間は
シッカリ確保


情報化推進センター
担当課長
木下和実氏

豊福 他の地域では研修時間の出席率が悪かったり、研修時間を短縮せざるを得ないなど、担当者の苦労も絶えないと聞いていますが、京都市は研修時間を2〜3時間と長めに確保されましたね。

木下 不充分な研修だと実際に運用を始めた後で問題が発生し、教育委員会も対応に追われることになります。せっかく忙しいなか時間を割いて来てもらう以上は、しっかりと時間を確保して取り組んだ方が効果的ではないでしょうか。
 予算面でも最初から研修費用を含んで導入することを必須と考え、「操作研修」、「マニュアル」、「導入後の問合せ先」の3つを大事にしています。

豊福 一斉に切り替えるとなると移行作業も簡単ではないと思いますが。

佐々木 そうですね。研修後から3月中旬までの1か月間を移行期間にして、新しいHPへ昔の記事を書き移す期間としました。

木下 実はこの移行期間が一番叱られました。「こんな忙しい時になんちゅうことさせんねん」と(笑)。しかし、運用を開始してからは「教育委員会が整備したものにしては珍しく良い仕事してくれた」と喜んでもらえました(笑)。本当に嬉しかったですね。導入してから4か月後のことです。

豊福 半年もしないうちに、管理職からそれだけの評価を得るのは凄いですね。

木下 研修の際、管理職の方には、主に「参加意識」「責任」の2つの点を訴えました。今までは、管理職が知らない間にアップされていたことも多々あったと思います。それが、学校用CMSを採用することで、記事をアップするためには必ず管理職の承認が必要になるので、それまであまり接点がなかった管理職も、ごく自然に参加することとなります。手間以上に携われる喜びのほうが大きかったように感じます。

佐々木 これまである程度のルールはあっても、組織として内容を確認・決裁できる仕組みが整っておらず、教育委員会が1つ1つ内容をチェックしていましたが、「スクール・ウェブ・アシスト」導入後は、必ず管理職が記事をチェックするので、情報発信に対する管理職の意識も高まりました。この4か月間の管理職の情報発信を集計すると全体の書き込みの約35%にも上っています。

豊福 それはとても高い数字ですね。複数の先生が記事を書き始めると雰囲気もまた変わってきます。普段から誰が書いているのかをシステム的に把握できるのは助かりますね。


情報化推進センター
主任
佐々木啓之氏

伸び悩みを解消し
情報発信は3倍に

木下 アクセス数も増えました。3月から6月までの導入4か月で、市民からのアクセス数は1・3倍(約68万件↓約87万件)、学校からの情報発信回数は、約3・7倍(3762回↓1万3955回)でした。

豊福 それは大きな変化ですね。学校用CMSを入れて成功すると、もともと熱心だった一部の学校は順調に伸びますが、それ以上に大きく伸びるのは、意欲は持ちつつも技術的または時間的に手が回わらず伸び悩んでいた多くの学校です。京都市の急激な伸びからもそうした学校用CMSの特長がみてとれます。

木下 私達としては、凝ったHP制作に時間を割くより子どもとの時間を増やして欲しい。HPを作る技術は本来、先生には必要ないものです。当初は少なからず反発もありましたし、私も同じ立場だったら反発したかも知れませんが、今のアクセス数や情報発信回数の伸びを見ればその効果がわかってもらえます。

学校HPの活用で
学校評価の充実へ

  豊福 学校HPは、基本的にその地域の世帯数以上にアクセス数はあがらない性質のもの。これからは、より記事の質が見られるようになります。今後のポイントの一つは、学校評価にあります。現在、ほとんどの学校で、親のもとに一方的に通知がいき、判断する情報が少ないまま回答するしかありません。そこで、これからは学校HPを有効に使って日頃から情報発信していくことが求められています。

木下 保護者は学校HPを通じて日頃の学校の活動がわかり、疑問点があれば質問し、学校もそうした保護者に応えていく。そうなると、保護者や地域も学校活動への参加意識が変わってきますね。古くから京都市には、子どもの教育のためにお金を持ち寄り、日本初の小学校である番組小学校を作るなど、学校を中心に都市が形成されてきた土壌があります。昔とは違うICTの技術で学校がさらに開かれ、より良い学校づくりに役に立ってくれたらいいですね。

佐々木 学校の活動が保護者や地域に伝わらないと、どうしても学校が孤立してしまいます。より開かれた学校運営のためにも、デジタルデバイドに気を留めながら、学校HPの良さを活かして学校評価、学校運営協議会の取り組みの一助になれればと思います。

 豊福晋平氏=学校HPの運用管理や組織体制づくりなどについて幅広く研究。学校HPコンテスト「J│KIDS大賞」実行委員のほか、全国の学校HPの更新状況等を毎日2回、検索ロボットを利用してチェックする教育情報サイト「i-learn.jp」管理人を務める。

◇ ◇ ◇

学校経営に生かす学校HP運用を  −国際大学 豊福晋平准教授に聞く−

 開かれた学校経営が進む中で、より積極的な学校情報の提供が求められている。一方で、学校評価に取り組む学校からは「何度アンケートを実施しても毎年同じような結果になる」と悩む声も聞かれる。そこで期待されるのが、京都市で大きな成果をあげた学校用CMSの利用だ。国際大学グローバル コミュニケーション センター(GLOCOM)の豊福晋平氏(主任研究員/准教授)に話を聞いた。


京都市内学校・園HP更新状況
上図:HP更新率(90日間の更新日数の学校平均)
下図;過去90日間のHP更新率(グラフ内数値は学校数)

 これまで学校HPを運用するには、担当者に意欲があっても専門知識が求められたり、ページ作成や運用に多くの手間や時間がかかるため、きわめて高い負担感が課題とされてきました。そうした状況を劇的に改善するのが学校用CMSです。

 学校用CMSの利点は大きく3つ。@誰もが手軽に記事を投稿できるので担当者の負担が減るA担当者だけでなく複数の教員が参加できるため色々な視点の情報が発信できるB記事掲載を管理職が承認・決裁するルールが明確になり、組織として情報発信に責任がもてる点にあります。つまり、学校HPの運用に際して技術的・時間的な悩みはなくなった訳です。

 しかし、いくら良いシステムを利用しても、学校HPの充実に欠かせないものが1つだけあります。それは、「学校HPを学校経営に効果的に取り入れよう」とする管理職の動機付けとマネジメントです。その点で、今回お話しを聞いた京都市は、しっかりとした動機付けの上で優れた学校用CMSが利用されると、学校から外部に提供される情報量が劇的に向上(図表)する好例です。

学校HP運用で 「学校評価」を有効に 

 学校評価が行われるようになった今、すべての学校でより適切な情報提供が求められます。保護者をはじめ、様々な利害関係者が限られた情報を咀嚼して適切に評価するのは難しいもの。曖昧な印象評価や風評の影響を排除し、むしろ踏み込んで学校の意図を理解してもらい、取り組みの成果と照らして評価してもらうには、日頃から学校HPを通して情報を発信しておく必要があります。いわばすべての学校にHPを運用する「動機」があると言えます。

 学校経営に学校HPを利用する動きはまだ始まったばかり。大阪府堺市、東京都世田谷区、愛知県一宮市など先行して取り組む自治体からは、少しずつ成果が報告されるようになりました。特に広報専門の担当者がいない学校では、組織的に学校情報を日々手軽に発信するツールとして学校用CMSの利用は今後さらに広がるでしょう。今後は情報発信の「量」に加えて、各学校の特色が伝わってくる「質」の充実にも期待しています。

【2009年12月5日号】


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