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セキュリティ ―札幌市教育委員会

校務用PC8000台一括配備
ユーザー認証と暗号化はUSBキーで

 札幌市教育委員会では昨年度補正予算で、全小中高等学校の教職員に校務用PCを1人1台、計約8000台配備した。札幌市ではセキュリティポリシーで「物理認証」「パスワード認証」の2因子認証が義務付けられている。物理認証システムには、生体、ICカード、USBタイプのキーなどがある。それらのセキュリティ認証システムの使い勝手を何校かのモデル校で検証、その結果成果が高かったとして昨年度2月より札幌市の全教職員に配備されたのが、USBキーを使った学校情報セキュリティ認証システム「ハードロッキー職員室」(以下、「ハードロッキー」)(株式会社JMC)だ。同システムのモデル校であった札幌市立しらかば台小学校と札幌市立南白石小学校に導入の経緯と効果を聞いた。

「ハードロッキー」導入で校務を安全に

しらかば台小学校 情報管理 郷健志教諭

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▲ しらかば台小学校
情報管理 郷健志教諭
 郷健志教諭は昨年4月の同校赴任とほぼ同時期に情報管理担当として実証実験に携わった。
 実証実験の内容は、新旧機種混在で校務用PCを全教職員分そろえ、グループウェアやサーバを導入、「ハードロッキー」を全校務用PC分配備しての使い勝手だ。
 「校務用PCの配備だけでは、これまで使っていた私物PCの使い勝手が悪くなった、という印象を持つだけ。そこで、ファイル共有により仕事の効率化を図ることができるし、セキュリティシステムの導入で、盗難にあってもデータは安全であるという認識を浸透させていく必要があった」。
 「ハードロッキー」は、家の鍵のように、キーを挿さないとPCを一切使うことができず、学校サーバにもアクセスできない仕組みだ。ファイル共有やデータの暗号化、コピー制御、持ち出し制御、ログ管理やアクセス制御などもできる。
PC
▲ ハードロッキーを挿入すると
校務用PCを使うことができる
 導入はスムーズに進んだ。
 「ハードロッキーの自動ログイン機能によりIDを入れる必要がなくなったので、特にPCに不慣れな教員にとっては一般的な入力認証より楽だったようだ」と郷教諭は述べる。
 キーを挿すことで校務用PCを使えるようになり、サーバにアクセスできる。キーを挿していても入力が一定時間なければタイムアウト(時間設定は当初5分、その後15分に変更)し、データにアクセスできなくなる。ファイルサーバに保存されたデータは暗号化されているので、より安全な環境が構築できる。
 データ共有により業務の効率化も進んだ。校外学習など各種申請書や学年だよりなど、昨年度のデータをすぐに参照できるようになった。定型文を使うことでチェック項目も少なくなり、決済が早くなった。賞状のプリントアウトなども、年度当初、総務が作った名簿データを活用できるので、すぐにできる。
 同校では成績一覧についても完全電子化を進めている。昨年度の成績がPC上から確認でき、子どもの成績のアップダウンがひと目で分かるようになった。
 教職員の意識も変わった。校務用サーバのデータを利用する際にはキー認証をしなければならないことから、「これからアクセスする情報は重要なものであり公的なものである」、と「襟を正す」姿勢が生まれてきたという。「実証実験により、PC環境がそろっていなくても、最新機種ではなくても導入が可能であり、稼働することが分かった。また、懸念されていたUSBキーの紛失や破損についても問題はなかった。電子化に伴い物理認証システムの導入は必要なこと。システムが整備されることで、重要情報も安心して活用することができる。校務の情報化は、それぞれに密接な関係があるので、ある程度一気にシステムを整える必要があると改めて感じた」と、振り返る。
札幌市では校務用PC配備と同時にネットワークに直接接続して使用するファイルサーバを各校に導入することでデータの共有化を簡便にしているが、「札幌市のような大規模自治体では市教委サーバ整備だと導入価格負担が大きくなりすぎる面があり、補正予算である今回は学校ごとのサーバ購入となった。しかし市教委でのサーバ導入に移行することで、教職員の異動の際のデータ共有がより簡便になる可能性がある。何年か後には、そのようなシステムに移行できることが理想。センター化されるほど、認証の必要性も高まる」と、さらなるネットワークの活用の可能性に言及した。

南白石小学校 情報担当 日戸靖彦教諭

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▲ 南白石小学校 
情報担当 日戸靖彦教諭

 南白石小学校の情報担当・日戸靖彦教諭は、札幌市のソフトやハードの導入について検討する「札幌市小学校情報教育連絡協議会(以下、連絡協議会)」に立ちあげ当初から関わっている。
 同校では、2009年よりクラス担任各1台・計12台を校務用PCとして実証実験をスタート。既にデータ共有が進んでいたため、移行はスムーズであった。私物PCは校務用サーバにアクセスできないため、ごく自然に私物PCの持ち込みは減ったという。
 「ハードロッキー」の利点については、「札幌市内の校務用PCならば、ハードロッキーですぐにアクセスできる。研修もほとんど不要で、すぐに活用が始まった。小学校の場合、一声かけられてすぐに席を立たなければならない場面が多いが、キーを抜くだけですぐに席を立てる面も便利」と述べる。
 校務用PC1人1台配備に伴いネックとなったのがインターネット接続であったが、「ハードロッキー」により、インターネットに接続し、必要な情報を収集すること、校務用サーバに安全にアクセスすることが同じPCで可能となり、使いやすさが向上したという。同校では来年度から通知表の電子化を予定している。
 「通知表の転記作業には誤記入のチェックなどにかなりの労力が必要。その校務を軽減し、出欠管理や成績管理などを一括でできるものとし、よりきめ細かいフォローができる通知表としたい」
 札幌市の今後の情報化については、「情報化に詳しい人材が管理職に増えてきた。今後は、情報化に関しても校長会からのリーダーシップがより期待できる。連絡協議会と校長会、教頭会などで積極的に情報交流していきたい」と述べる。
◇   ◇
 稼働率が高くなったことで、新たに生まれた問題もある。
 現在札幌市では100Mの光回線が敷設されているが、校務用PCの導入により稼働率が一層高くなったため、回線が太くなったわりに速さを感じにくいという感想も届くという。また、教室や自宅で作業をしたいという希望もある。
 今後は、これらニーズを満たすことができるより強固なIT基盤の構築が望まれる。

【2010年9月4日号】


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