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21世紀を生き抜く人材を育む教育環境を考える

21世紀型スキル

“たくましく生き抜く力”テーマに教育フォーラム ―日本青年会議所

  公益社団法人日本青年会議所(相澤弥一郎会頭)は、12月18日、「たくましく生き抜く力を育むための教育フォーラム」を開催した。同会では「たくましく生き抜く力実践委員会」を立ち上げ、活動しており、当日は「21世紀型スキル」をテーマにどのような人材を目指したスキルなのかについて見識を深めた。協力は、インテル、JTB法人東京、シスコシステムズ、東京書籍、マイクロソフト。

起業家になる教育が必要

  基調講演でジョンE・デイビス氏(インテル副社長)は、「成熟した国において製造業の職数は急激に減少している。一方で技術革新を舞台に生まれてきたGoogleやyahooなどの新しい企業が増えている。問題はこれら新しい企業が製造業数の下降線を補うほどの数には至っていないという点。今後は『起業家になるための教育』が必要であり、それを実現する設備投資や教育が必要」と述べた。

  デイビス氏は、「問題解決能力」や「コミュニケーション能力」などの21世紀型スキルについて、「今必要なのは、国や大陸をまたがってコミュニケーションし、問題を思考・判断、解決するために協働していける力。教育によってそのような力を身につけさせるためにも、世界を舞台にできるツールの提供は重要」と話す。

PISA調査で課題明らかに

  文部科学省大臣官房広報官の杉浦久弘氏は2009年のPISA調査結果について「調査結果は前回より上昇した。一方で課題がより明らかになった。基礎力は向上しているが、情報を取捨選択、編集する活用能力については今後さらに後押ししていく必要がある」と述べた。過去問題と同一問題を抽出して比較する調査においては、現在の子どもたちの正答率は上昇しており、その観点から考えると「学力は向上している」と分析できる点にも触れた。

後れをとる日本

  国際動向については、インテル、シスコシステムズ、マイクロソフトの3社が報告した。

  インテルでは、21世紀型スキル育成を視野に入れた授業開発と教員の指導力向上を目的にインテルティーチプログラムを提供している。2年前に同プログラムをスタートしたポルトガルでは既に児童と教員のPC保有率はほぼ100%であり、90%の教員がトレーニングを終えている。アルゼンチンでは、国家プロジェクトとして児童向け教育PCを60万台、中学生向けに130万台調達し、教員向けトレーニングやコンテンツの充実に取り組んでいる。

  オーストラリアでは7年以上にわたり24億AUSドルを投資しており、学校には30万台のPCと高速ブロードバンドを提供している。2009年のPISA調査でトップとなった上海では170万人がインテルのプログラムを受講済で、進捗のスピードが速い点が特長だ。それに対して日本では2001年からインテルのプログラムを実施しているものの受講者は約3万5000人で、全教員の約3%程度。インテル社の柳原氏は「進捗の早い国の共通点は、教育改革の中に教員研修が重要な要素として組み込まれており、官民連携が進んでいる。教育改革には政策が必要」と話す。

  ネットワーク関連で最先端技術を提供しているシスコシステムズの櫻井氏は「産業界は、グローバルな環境でコミュニケーションをとりながら問題を発見・解決する『できる若者』を求めている。ITソリューションを意義ある提案とするためには広範な知識が必要。理系的な見方ができ、かつ英語でコミュニケーションをとれる人材が必要。多様性を楽しめることも大切。同一労働同一賃金はグローバルで考えるともはや無理。ライバルは日本国内の若者ではなく世界の若者」と述べた。

  マイクロソフトは日本において、21世紀型の先進教育環境づくりとして青山小学校(東京都)への支援や横浜市と横浜サイエンスフロンティア高校への支援を行っている。また、21世紀型スキルを育成するICT活用支援として、教職員向けICT研修のEラーニングや教材の提供、フォーラムの実施、教職員ICT活用実践コンテストなどを実施している。同社文教ソリューション本部長のミシュラ・マニッシュ氏は、前サンフランシスコ州立大学総長であるハヤカワ氏の言葉「すばらしい先生は決して教えることをしません。そのかわり、多くの学びにつながる環境をつくりだしています」という言葉を引用した。

PISA結果は各国の努力の成果

  コーディネータの三宅なほみ氏は「PISA結果は、各国の努力の成果が数値に表れたものとして捉えるべき。これをもとに教育施策を振り返り見直していく必要がある。日本も、全世界的視野に立って教育のこれからを考えることが重要。そのために、小学校、中学校、高等学校、あるいは日本というローカルで何ができるかを考えるべき。IT化によって記録をとりやすくなることは非常に重要。教え方、学び方について常に課題を発見・分析・解決に向かうことができる」と述べた。

 

“21世紀型スキル”は時代の要請から


「影響力を持つ」 人材の育成を

  インテル社の宗像義恵氏(取締役副社長)は、同社が求めている人材について「『旺盛なチャレンジ精神、ポジティブ思考、明確な目標と戦略の立案、影響力』を持つ人材。変化激しいマーケットを見極め新しいビジネスチャンスにつなげる能力であり、それが21世紀の社会で求められる基礎能力。21世紀型スキルの中でも最重要スキルといわれているのが、ICT活用力、コミュニケーション力、協働力、リーダーシップ力、問題解決力、そして創造性。そのような人材育成のためには、産学官と地域が連携して社会の進化と連動する新しい学力観に対応した学校教育を」と述べた。

「読んで覚える」から調べて考える教科書に

  東京書籍の渡辺能理夫氏(編集局取締役)は「学習すべき内容が順番かつ体系的に盛り込まれているものが教科書。新しい学力観『社会の変化に対応して主体的かつ創造的に生きていくために必要な資質や能力』に対応し、教科書も『読んで覚える教科書から自ら調べて考える教科書』になった」と述べる。渡辺氏は新学習指導要領に対応した小学校6年生社会科の教科書の絵2枚を提示した。1枚は、思い思いの学習をしている様子が描かれている寺子屋の様子。もう1枚は明治初期の学校で、教師が掛図を示しながらこどもたちにカタカナを教えている。2枚の絵を比較しながら考える学習内容だ。「デジタル教科書は、寺子屋のような個別学習や協働学習にも、近代化にちなみ進んだ一斉学習にも活用できる」と話す。

21世紀型スキルを学校行事から育む

  JTB法人東京の大塚雅樹氏(取締役マーケティング部長)は「答えのない問いを共有する時間が重要」と述べる。同社で提供している「学校行事評価システムSEAS」は、「学校行事」において、問題解決能力やコミュニケーション力など6つの指標から、その行事の成果を「見える化」することができるシステムだ。既に学校に根付いた「学校行事」から「21世紀型スキル」を育む方法の提案といえる。

ジグソー法で「協働力」育む

  新しい学力観の育成について三宅なほみ氏は、協働力育成のための教育手法「ジグソー法」を提案する。「ジグソー法」とは、全体課題「なぜ今日本の自動車産業はハイブリッド車で勝負しているのか」を設定し、3チームに分かれて(1)環境面 (2)普及台数 (3)技術力 それぞれについて調べる「エキスパート活動」を行った後、(1)、(2)、(3)の各チームから1名ずつ選出した班に組み換えて話し合う活動だ。この活動により「知らないことを一斉学習ではない形で知る」、「お互いの知識を出し合って情報交換し、新しい見識を練り上げる」「さらに新しい疑問や課題にたどりつく」という過程を体験できる。現在10教委・小中高6教科で授業実践に取り組んでおり、協働学習の事例の積み重ねを進めている。詳細は大学発教育支援コンソーシアム推進機構へ。

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フューチャークラスルーム

21世紀の学習空間を体験

新しい学習の実現には 新しい学校環境

ICT教育
▲ 多様な授業形式に対応できるレイアウト
ICT教育
▲ 大画面に教材を投影できる

 学生・児童・生徒などの学習者自身が主体的・能動的に学習に取り組み、協働しながら学習に取り組む「新しい教育・学習スタイル」が注目されている。教師と生徒による双方向の授業、グループワークによる主体的な生徒主導の学習形態、1人1台のICT端末を持つことによる個々の学習と集団学習との連携を効果的に実現する新しい教室空間が必要とされていることから、内田洋行では、各種実証研究等を通じて得られた知見を基に、未来の学校のあり方をモデルとした「フューチャークラスルーム」を同社大阪支店内に開設した。フューチャークラスルームでは、実習や演習等様々な場面に対応できるよう、ICT機器や机、椅子、照明等のレイアウトを簡単に変えられるようにした。また、学校形態に合わせた机の配置、空間の変更方法、マルチスクリーンによるコンテンツの投影方法などが与える効果を検証することができる。

  また、従来サイズの教室でもICT機器を効果的に配備できる、自立型の空間構築システムや、電源が一元管理できるシステムも実際に見ることができる。さらに、東京本社や北海道支社、九州支店、その他教育機関と遠隔地を結ぶことで、遠隔授業の実証も可能だ。

 ▼「フューチャークラスルーム」主な特長=3面マルチスクリーン/全壁面ホワイトボード/電子黒板装備/LED照明で照度・色温度を調光/レイアウトフリー/手元でのシステム制御/ワイヤレス画像投影/講義収録・評価システム/遠隔講義・「USTREAM」配信/高速無線LAN

 ▼問合せ=内田洋行Tel03・3555・4027

 

 

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P検とJNK4が産学連携

小・中・高向け情報活用能力育成 モデルカリキュラムを提供

 パソコン検定協会(以下、P検)と情報ネットワーク教育活用研究協議会(ジェー・エヌ・ケー・フォー=以下、JNK4)は、産学連携して小・中・高校の情報活用能力育成モデルカリキュラム(新情報教育目標リスト)を作成した。

  これは新学習指導要領に対応し、学校で教えるべき情報活用能力を網羅したもの。P検が呼びかけ、費用を負担し、JNK4及び所属する有志によって開発された。両者はこのモデルカリキュラムを教員や教材制作者などに、授業設計や教材開発、評価などで活用して欲しい考えだ。

  カリキュラム開発の理由についてJNK4の永野和男教授は、「21世紀を生き抜く力として情報活用能力は不可欠。新学習指導要領では情報活用能力は教科の目標に埋め込まれており、教科のねらいは縦軸、情報活用能力は横軸として設計されている。しかし学校現場では教科のねらいが強調されがちで、情報教育イコール『ICTを活用』との誤解も多い。そこで、情報教育の側面から体系的な構造を示す必要があった。PISA型学力でも情報活用能力は重要。文章や図表を読み取ったり情報の信頼性を吟味したりする『情報を見抜く目』、情報技術の特性を知ったり活用したりする『情報を処理する知恵』、情報モラルと関連する『情報を扱う心』を育成することが大切」と話す。

  カリキュラムには、「情報活用の実践力」「情報の科学的理解」「情報社会に参画する態度」の項目ごとに、小学1年生から高校生までの目標と学習項目例が記述されている。例えば「問題解決における情報活用」では、小学5、6年で「自ら課題を見つけ見通しを持って活動する」ことが求められる。そのための学習活動として「インターネットを使った情報の検索の方法を知る」「課題に対して仮説を立てる」「見通しを持って調べる計画を立て、手順を整理する」「立てた計画で課題を解決できるか、実施可能かを検討する」「自分の意見を持ったり、課題を見つけたりする際に、他の人の意見も参考にする」があげられている。

  今後P検は、児童生徒を評価するためのツールとしての問題開発を行い、来年以降のP検に投入する計画。モデルカリキュラムはP検及び「火曜の会」HPで公開中。
 P検=http://www.pken.com/top.html 
 火曜の会=http://kayoo.org/

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【2011年1月1日号】


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