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校務支援システム・学校CMS【豊田市教育委員会】

豊田市教育委員会

 愛知県・豊田市では、平成18年度中に豊田市内全小中学校103校全教職員3000台の校務用PC配備を完了しており、平成22年度から校務支援システムと学校CMS(学校ホームページ作成システム)を導入、約半年という短期間ながら学校での活用が円滑に進んでいるという。導入から活用までの経緯を豊田市教育委員会教育センター所長の井上良三氏、教育センター指導主事の中原瑞樹氏・同成瀬修司氏に聞いた。

≪校務支援システム≫ 円滑な運用のポイントは ビジョン・組織・サポート
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教育センター所長
井上良三氏
教育センター指導主事
中原瑞樹氏
教育センター指導主事
成瀬修司氏

  スムーズな導入と活用には、学校現場への配慮と教育センターのマネジメントが必要だ。その要となった井上所長は、かつて市役所の情報システム課でグループウェア導入に携わった。

  「行政の情報化はそれなりに進んでいるものの、学校の情報化の進捗には課題が多い。当時学校現場では手書き書類が圧倒的に多く、同じ児童生徒の名簿を何重にも作る必要があった。この手間を軽減することが学校教員の時間確保に役立つのではないかと考えた」と話す。

  そこで平成19年度には学校の情報化を進める主旨の方針をまとめ、それに従って校務システム推進委員会(以下、推進委員会)を立ち上げ、検討をスタート。推進委員会の構成メンバーは、校長、教頭、事務長、学習情報部会の代表などだ。

  「まずビジョンを策定し、組織を作る。組織には学校の管理職を必ず構成員として入れる」ことがポイントだという。

  推進委員会では、短期間かつ効率的に導入するために、学校用に特化した校務支援システムを検討。学校において様々な業務の合間に効率的に使えること、教員が安心して気軽に使えるよう、サポートが手厚いことなどがポイントとなり「エデュコムマネージャーC4(シーフォース)」((株)EDUCOM 以下、「C4」)を導入した。

  豊田市ではもともと、同社の保健システムが入っており、サポートについては既に一定の評価を得られていた点も評価された。

管理職ぐるみでビジョンを策定 ゴールを決めて段階的に導入

劇的に業務改善

  校務支援システム導入後、半年程度であるにも関わらず、豊田市では「グループウェアの導入で業務が劇的に改善した」という。

  例えば教育委員会からの連絡文書一通でも、市内全103校に送るには手間と時間が必要だ。しかし「C4」の文書配布機能を使えば、教育委員会から各校へのお知らせは一回、しかも短時間ですむ。

  各校では、これまで紙ベースで回覧していた文書を全員が短時間で共有することができ、保管文書としてファイリングするまでの時間も短縮した。

  また、これまで豊田市では、メールアドレスは各校につき1つのみであったが、教職員全員がアドレスを持つことができるようになった。これまでは個人宛のメールもすべて学校代表アドレスに送るシステムであったため、メールを開封しないと誰宛てのメールなのかわからないという状況も解決、連絡が迅速・確実になったという。

  さらにメール配信は、メニューから「□□校・○○先生」をチェックするだけで送ることができる。メールに不慣れな先生でも使いやすくなった。

  予定表は、教育委員会、三河地区の学校全体、各学校、個人の予定表がすべて共有でき、調整も迅速になった。

機能を限定し 理解しやすく

  豊田市のスムーズな運用にはいくつか理由がある。

  まず、推進委員会が中心となり、市の方針を各校に落とす流れを作ったこと。

  「学校の中心はやはり校長。校長が市の方針を学校に伝えることで、情報担当者が孤立せず安心感を持って取り組むことができる」という。

  推進委員会では、どんなことを実現したいか、についての目的を明確にした。「目的を実現できる機能を選択して導入する、という流れがあれば、学校現場にも導入メリットを説明しやすく理解を得られやすい」からだ。

  導入方法については、半年単位で計画をたて、到達ゴールを細かく設定した。校務支援システムに関しては、グループウェアのみの導入からスタートし、使える機能も限定した。個人連絡(メール)、掲示板、配布文書、予定表などシンプルなものから始めたことは、スキルの幅が広い教員にとっても新しいシステム導入の際の抵抗感を少なくすることに役立った。

  メールは個人への連絡、配布文書は教育委員会から各校への連絡、など学校向けの運用ルールを作成し、使い方に迷わないようにした。

研修も手厚く 迅速にサポート

  例年、豊田市では夏休みの研修を40回程度実施しているが、校務支援システムの研修は、そこに3分の1程度の割合で組み込み、校長、教頭、情報担当者、希望者などを対象にした研修も繰り返した。

  特に重きを置いたのは管理職研修だ。管理職を通して有効性や方向性を各校に伝える、という点を徹底し、その後各校で、ICT支援員にあたる情報教育指導員が各教員に研修するという流れを確実に作る。情報教育指導員は平成12年度から導入しており、約10年の実績があるため、学校現場からの信頼が厚い点も特長といえる。

  校務支援システムについては、「全教職員3000人が一斉に使えるようになるとは思っていなかったにも関わらず、予想以上に浸透が早かった」と話す。

  その理由は「使える機能を限定したために理解しやすかったこと、電話一本でサポートが迅速に対応するという積み重ねが安心感につながった点が大きい。昨年度導入し、夏休み期間に研修、後期から活用を始めたが、今年度から新たに活用し始める先生も増えた。これは、他の人が使っている様子を見て使い勝手の良さを共有できたから」と話す。

  ヘルプデスクへの質問は、年度更新時の4月当初に集中するが、5月の連休明けには日に数件程度に落ち着く。「問合せの激減ぶりは、異動したばかりの教員も短期間でシステムに慣れることができる、ということ。全員一斉に使わなかったとしてもそれなりの効果が上がるのがグループウェアの特長。ここである程度慣れ、次の段階に進みたい」と述べた。

通知表電子化は モデル校から

  「次の段階」とは、「校務の情報化本来の目的」と言われている出席簿や通知表などの電子化だ。

  「通知表の電子化については、平成20年度に小中学校で検証済。小学校では出席簿や成績管理の機能が特に評判が良かった。中学校ではエクセルを使った成績処理が浸透しており、すぐに活用することができた。教務主任の仕事が劇的に楽になり、すぐに導入したいという声も多かった」という。

  そこで今年度は、モデル校8校で取り組む。現在基本名簿を整理中で、本年秋には豊田市初の「通知表電子化」が完成する予定だ。

  さらに、給食センターとの連携も本年度中に予定。

  豊田市では給食センターから給食が各校に配ぜんされる。各校は、クラスごとに食数を給食センターに事前報告する必要がある。

  従来はFAXや電話で行っており、集計に時間がかかっていた。これを校務支援システムと連携し名簿を共有することで、アレルギー対応など除去食の報告も含め、迅速に報告することができる。

≪学校CMS≫使い勝手重視で導入 全教員で更新する

  豊田市では昨年7月、新しい学校CMS(学校ホームページ作成システム)の導入を決定、11月から活用を開始した。

  学校CMSはこれまでも使っていたものの、操作性が複雑、サーバとのスペックが不一致でスムーズに稼働しないなど問題があった。そこでシステム更新期に再選定、5種類を比較。軽くて簡単に使えるという基準から「スクールWebアシストC4」((株)EDUCOM 以下、「SWA」)を導入した。

  校務支援システム同様「機能を限定」し、かつ研修を厚くすることでスムーズな活用が進んでおり、ヘルプデスクへの質問は、以前のシステムと比較し、約20分の1になった。逆に更新率は上がり、数か月を経過した時点で市内の約半数の学校がほぼ毎週更新していたという。

  「本来は自由度の高いシステムであったとしても、導入時に全ての機能を説明すると、途中で混乱してしまう。そこで導入当初はひな型を作成、シンプルな機能とし、研修受講者全員がすぐに活用できることを目指した」という。

  使い慣れていくうちに「こんなことがしたい」という要望が現場から上がるタイミングで、研修を実施、新しい機能を説明している。

  「学校HPのひな型を提供することは、独自性を大切にしたい学校のスタンスと相入れないと感じる人もいるかもしれない。しかし、どこに独自性を出すべきかを改めて問うことで、共通理解を図ることができる。保護者が見たいのは、学校での毎日の子どもたちの姿。それは写真と短い文章でも十分に伝わる。今必要なのは、全教員が気軽にアップできること。『SWA』は携帯電話からも更新できるため、校外学習中でも発信できる」
アクセス数もすぐにわかるので、更新する教員らにとっても励みになる。

教育委員会は学校をサポートする組織

  103校に対応するシステム導入は、予算申請、研修、活用促進とスムーズな導入運営にたどりつくまでには様々な課題がある。それを短期間でクリアできた理由は何か。

  「かつて豊田市の教育研究所は、学校教員出身者のみで構成されており、予算を申請したり確保したりすることに対して不慣れな組織であった。それが教育センターに変わり、行政職も配備されたことで、関係部局との連携をうまく取ることができる組織に成長した」という。「教育委員会は、学校がスムーズに稼働するためにサポートする組織。教育行政課、保健給食課、財政課、情報システム課などあらゆる課と連携することで、今後も学校の情報化を支えていきたい」

■豊田市のICT環境

 平成21年度の補正予算で各校につき1台の電子黒板、スクリーン・書画カメラ・プロジェクターをセットにしたワゴンカートは、中学校3クラスにつき1台、小学校2クラスに1台整備した。デジタルテレビは、1フロアにつき1〜複数台整備済。


円滑な導入のポイント

 豊田市が短期間でスムーズに校務の情報化に成功した理由は何か。長年、学校現場から学校の情報化に取り組んでおり、校務支援システムの導入に早くから着手した水谷年孝氏(春日井市立大手小学校 校長)と教育コンサルタントの大西貞憲氏(NPO法人元気な学校を支援し創る会 理事)に、そのポイントを聞いた。

最初に「実現したいこと」を明確に

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大西貞憲氏
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水谷年孝校長

水谷 導入して1年もたたずこれだけの成果を上げている成功事例はなかなかありません。春日井市の導入経緯とも共通点があります。13年前から教育ネットワーク作りに取り組んでいますが、早期に成功に至った理由は、現場の意見を反映できる組織作りに注力したこと。組織ぐるみで明確なビジョンを示すことができれば、学校は動いていきます。中でも学校管理職は、組織づくりの成功には欠かせない存在です。

大西 成功の秘訣の第一歩は、学校長の理解を得ること。教育委員会にしろ学校にしろ、一担当者の視点で進めると、どこかで失敗することが多くなります。「学校長が理解し、方向性を示す。それに従って教務が先導して現場を動かす。システム的にわからないことは、ICT支援員や学校の情報担当など詳しい人がフォローする」という仕組み作りがうまくできていますね。

  トヨタショックで予算が激減する中、導入機能の限定、モデル校からのスタート、ICT支援員の活用、関係部局との連携など、無理なく無駄なく進めており、コストパフォーマンスの高い好事例といえそうです。

水谷 春日井市では、予算のない中、研修には時間をかけました。目的は、得意な人が100%使うことではなく、全員が20%ずつでも使うこと。スーパースターを作ってしまうと全体が進まなくなる、という事例を見てきましたので、スーパースターの素質のある方には縁の下の力持ちとして重要な役割を担って頂きました。

大西 校務支援システムの導入は全国的に進みつつありますが、たいていは「どんな機能を入れるか」という話から始まってしまう。しかし、最初に話すべきは、「何を実現したいか」。それをシステム作成者に伝えれば、どんな機能が必要なのかが自然に明らかになり、システム構築を担当する企業も、工夫しがいがあるのです。

◆通知表の電子化は スモールステップで

大西 通知表の電子化は、先生にとって非常に仕事の負担が減るシステムです。しかし一気に進めようとすると、負担が増えてしまう。ここにジレンマが生じます。通知表が手書きから印刷に変化するギャップにも抵抗があるでしょう。これらのギャップを導入担当者が理解して段階的に進めている点は、これから校務支援システムを導入する自治体にも参考になりますね。

水谷 春日井市でも、教育情報の共有から始め、通知表の電子化は最後でした。出席簿から成績処理まで電子化を進め、それに慣れると、最後にこれを手書きで写すことについて先生方が疑問を持ち始めたんです。そこで初めて通知表を電子化したため、無理なく進めることができました。

大西 通知表の個性とは何か、本当に重要なのは中身ではないか、それを先生方が実感として理解できるまでのスモールステップを演出した、ということですね。春日井市と豊田市の共通点ですね。

◆学校HPの目的を 果たせるシステムを

大西 学校HPに関しては、子どもたちの日常の姿を伝えることを主眼にして、システムを導入した点に注目したいですね。

水谷 学校の当たり前の姿を見せることは、保護者に安心感を与えることにつながります。それに気づいた学校は、教員全員で学校の日常を積極的に伝えるようになります。

【2011年6月6日号】


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