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【デジタル教科書】“視線”が集まり 話し合いが活発に

仙台市立袋原小学校

 宮城県仙台市教育委員会では、新学習指導要領実施に伴い、国語のデジタル教科書を全小学校全学年分に、算数のデジタル教材を高学年に配備し、学力向上に取り組んでいる。仙台市立袋原小学校(大江広夫校長)における1年生国語科での授業を取材した。

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児童の視線を集めやすく意見交換も活発になる

 この日の授業は「のりもののことをしらべよう」(東京書籍「あたらしいこくご」1年)の中の「フェリーボートの役目と工夫」についての読み取りだ。授業者は金枝智子教諭。「昨日は『客船』のお勉強でしたね。どんな船でどんな工夫がありましたか?」と尋ねると、児童からは「たくさんの人が乗る船」、「客室が豪華」、「食堂も立派」等の声が上がる。それを受け、金枝教諭は「今日は『フェリーボート』についてです」と、デジタル教科書の挿絵にあるフェリーボートの写真をデジタルテレビに大きく提示。「どんなことができそう?」と問いかけた。

  「車が100台くらい入りそう」、「客船より小さそう」と、すかさず意見が上がる。ひとつの画面を共有しているため、話し合いが、よりスムーズに進みやすいようだ。

  「客船より小さい」という意見から、前時に学習した客船の挿絵を提示。「客船」と「フェリーボート」の規模の違いがひと目で分かる。「客船は6階建、フェリーは2階建」であることを皆で確認した。

  金枝教諭が、本時の目当て「フェリーボートがどんなことをする船でどんな工夫があるのか」を板書して範読、各自で読みの練習後、「読んでくれる人?」と聞くと、こちらもたくさん手が挙がる。指名を受けた児童は、デジタル教科書の本文を拡大提示した画面を見ながら顔を上げて元気に読み上げた。

  児童は金枝教諭の指示に従い、フェリーボートの「役割」については赤、「工夫」については青いラインを各自、教科書本文に書き込んでいく。

  答え合わせはデジタル教科書上で行うので、違いもすぐに分かる。児童は自分が教科書に引いたラインと提示画面を熱心に見比べていた。

  読み取った内容は、ワークシート上にまとめていく。金枝教諭は、ワークシートを拡大機で大きく印刷したものを黒板に提示、まとめの指示や作業を行っていった。

  読み取りと整理を終えた後は、デジタル教科書にある写真や動画教材の視聴だ。「車が船に入っているところが見たい!」、「トラックや自転車も入るの?」と、資料教材を楽しみにしている様子だ。

  動画を見ながら「マンションの駐車場みたい」、「バイクもある!」と、様々な感想が上がる。金枝教諭は動画視聴中、適宜止めながら、「ここが客室で、ここが休憩する場所ですね」、「写真に写っているフェリーボート『はやぶさ』は、北海道から3時間50分で青森に到着します」と、児童とやりとりしながら説明を加えていった。

言葉の“理解”助ける動画教材

定着・発展促す 動画教材の効果

  今年度から同校に赴任、初めてデジタル教科書を活用し始めたという金枝教諭は、当初、国語という文章からの読み取りを大切にする教科で視覚に訴えるデジタル教材を使うことに抵抗があったという。しかし「のりもののことをしらべよう」の単元には、「フェリーボート」「客室」など1年生にとって言葉だけではイメージを持ちにくい単語がたくさんあることから、毎回のように使うようになったそうだ。「文章の内容を読み取るだけでは理解しにくい教材の場合、動画や写真などデジタル教科書の豊富な資料は、児童の理解に役立つ」と話す。

  本年度より同校に赴任した大江校長は、ICTの授業活用について、「前任校では得意な人が中心となって使っていたが、本校では、全教員が活用している。デジタル教科書は、教科書と同じ画面をデジタルテレビに大きく映して全体で共有できるため、授業の進行がスムーズになる。また、動画などで見たことのないものを見ることができ、感動を共有したり視線が集まりやすくなり、話し合いや意見交換が活発になる」と話す。

学校の雰囲気が どんどん変わる
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フェリーボートの「役割」に赤、
「工夫」に青い線を引く
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動画を途中で止め、適宜補足していく

  佐藤貢教頭は、「デジタル教科書の活用で子どもたちは明らかに変わった。デジタル教科書をきっかけとして改めて授業研究を進めることで、授業が、より楽しくなり、しっとりと落ち着きが生まれたのでは。今年度からは自作のデジタル教材も増えてきた」と述べる。具体的な活用法については「デジタル教科書や教材は、発達段階に応じて使い方が異なる。低学年では、最後に映像を視聴する楽しみを持ってくることで、最後まで集中力が持続しやすいようだ」と話した。
同校研究主任の鈴木整次教諭は、「初年度はまず使うことから始め、各学年で授業を見せ合うなど研修を実施、今年度もICT活用による成果と課題について研究を進めている。仙台市では校務用PCを授業でも活用し、テレビに接続して使っているが、授業中は職員室のPCが全てなくなるほど活用率が上がった」と述べる。

  仙台市教育委員会では、スクール・ニューディール政策によって全小学校・全普通教室にデジタルテレビを配備しており、国語のデジタル教科書を全学年分、算数のデジタル教材を高学年分に導入。ICTの配備を担当する「教育指導課」と「確かな学力育成室」が連携し、ICTの利活用による学力向上に取り組んできた。モデル校は平成21年度5校、平成22年度3校の計8校。袋原小は平成22年度からの研究推進校の1つだ。

  高橋俊隆指導主事は、「昨年度より国語のデジタル教科書を活用していたが、学校現場から継続してデジタル教科書を活用したいとの声が多く、今年度も継続しての措置を決めた。子どもたちの学力向上に明らかに効果があり、雰囲気がどんどん変わっていく様子が分かった。導入して良かった」と話した。

【2011年12月5日号】


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