授業名人・有田和正氏とICT活用名人が授業対決

”奇跡”起こせるのは”教育”だけ

 ICTを活用した授業を「授業名人」はどう考えているのか。同じテーマで授業を行うとどのような違いがあるのか――2月16日、東京都内で「授業名人」有田和正氏と「ICT活用名人」奥州市立広瀬小学校(岩手県)の佐藤正寿教諭による興味深い「授業対決」が行われた。主催は愛される学校づくり研究会。

授業対決のテーマは”6年最後の社会科”

 教育界で「授業名人」として知られる有田和正氏。主に小学校で教鞭をとっていた有田氏の著書は、教員ならば何度でも手に取りたい珠玉の言葉が並ぶ名著だ。そんな有田氏に対するのは、ICT活用名人・奥州市立広瀬小学校(岩手県)の佐藤正寿教諭。対決テーマは「6年生最後の社会科の授業」。昨年、有田氏は「考えさせ定着させたかったら、情報は出し惜しみせよ。ICTを活用した授業は、情報を与えすぎ」と厳しく指摘。今回はそのリベンジとして授業対決が実現した。結果として両者の授業はそれぞれ素晴らしいものだったことから、両者の授業の流れを紹介する。

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  佐藤教諭は、日本地図を提示し、日本の東端、西端、南端、北端がどこか質問し、現在の日本の領土面積について質問した。

  次に画面に提示したのは、1880年から2013年の日本の領土面積の変遷を示した棒グラフ(資料「数字で見る日本の100年」より)。この数字の変化から何が読み取れるのかを質問し、話し合いの中で「数字の変化がある部分には、日清戦争、日露戦争、日韓併合、太平洋戦争などが起こっている」こと、なぜ変化が起こったのかについて確認する。

  しかし1945年以降現在まで、日本の領土面積はほとんど変化がない。それは「戦争がなかったから」。1945年から戦争をしていない国は世界で数か国しかなく、そのうちの1つが日本だ。では「なぜ68年もの間戦争のない状態を日本は続けることができたのか」と質問、憲法や日米安全保障条約の意味、役割について触れた。また、戦争の原因は「領土」「資源」が多いことから「排他的経済水域」についても触れ「領土としてみると日本は世界62位だが、排他的経済水域で見ると世界で6位の海洋国家」であり、その順位を保つために日本が何をしているのか、Googleマップで「沖ノ鳥島」を見ながら話し合った。

  「戦争のない状態を今後も続けていくためには何が必要なのか。中学校では地理や歴史、公民などを通して世界の良さや問題点などを様々な角度から学んでいってほしい」と授業を終えた。

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  対する有田氏は、まず「戦後68年」と板書した。

  今、独立国が何か国あるのか、模擬授業の生徒役である当日参加者に尋ね、地図帳を使って調べさせる。それによると、195か国。有田氏は「毎年変わるので最新の地図帳を見ることが大事」と付け加えた。

  では、第一次世界大戦の際、独立国は何か国だったのか。そのうち何か国が戦争に巻き込まれたのか。「難しい質問ですね」と言いながら、第二次世界大戦時の中立国を記した白地図を提示した。それによると、中立国は5か国。第二次世界大戦の際の独立国は65か国で、大戦に巻き込まれたのは、そのうち60か国。犠牲者は約6000万人と言われており、日本の人口の約半分の命が失われている。

  この68年間、戦争は世界で300回以上あったこと、68年経て戦争をしていない国は数か国しかなく、その数か国に日本が入っていることは誇るべきことであり、平和は簡単には手に入るものではなく、平和維持のためには努力が必要であることを授業の流れの中で伝えた。

  授業を終えた有田氏は「東日本大震災において『釜石の奇跡』は教育によって起こった。奇跡を起こすことができるのは教育しかない」とコメント。また、佐藤教諭の授業について、「社会の授業は資料で決まる。佐藤先生はハイテクを使って素晴らしい授業を探し出してきた。今日は授業の流れの中でその資料を自然に使っており、これ見よがしではなかった」と評価した。

  この日の授業をテーマに行われたパネルディスカッションでコーディネータを務めた堀田龍也教授(玉川大学大学院)は、「有田先生が前に立つ瞬間に生まれる空気は、すぐには真似ができない」と名人ぶりを讃えた。「インターネットを使って調べれば表面的な知識はすぐに得られる。しかしその知識を簡単にはうのみにせず、どう解釈すべきかなど『資料を見る目』を養うことが、今後授業で取り組むべきこと。教員にとっての課題は、ICTを活用すべき『必要なとき』を見極め判断する力」と述べた。

【2013年3月4日】