大阪市の校務情報化 事業1年目の成果
ワンソース・ワンマスタ運用で 教員の校務処理168時間減に

大阪市では平成24年度末に校務用PCとグループウェア、CMS(コンテンツマネジメントサービス)を整備し、平成25年度から小中学校31校で校務支援システムの試験導入を実施しており、8月8日、試験導入による校務の軽減効果について報告した。グループウェア機能や、マスターデータを修正すれば関連するシステムすべてのデータに反映される「ワンソース・ワンマスタ」運用により、校務にかかる時間について、教頭は年間136・3時間、教員は年間168・1時間を削減できた。

”支援体制””運用”を工夫 数値以上の効果を実感
グループウェア・校務支援サービス
の導入成果
大阪市教育委員会公表資料より作成

教育委員会事務局は「大阪市の校務情報化は、その展開手法、運営手法、改善サイクルなど、システム導入だけでなく、その徹底的な使い込みが特徴だ。校務支援システムの導入とともに学校にCIOの配置(教職員から選出)や統合コールセンターを整備するなど教員の支援体制や運用を工夫することで、必ず効果が出ることを全国の教育委員会にお伝えしたい。平成26年6月に発表されたOECDによる国際教員指導環境調査の結果に対して、今回の大阪市の成果データを公表することで、日本の教育現場の課題解決の一助につながればという思いがある。入れて終わりのシステムでは十分な効果が出ない」と話す。

事業目的は以下の3つ。▽学校教育の質の向上、学校経営の効率化・高度化 ▽学校から保護者・地域への情報発信の促進 ▽教員のICTリテラシーの向上と情報セキュリティの強化

校務ビッグデータで可視化・定量化

平成24年9月に「総合評価方式」で事業者を日本電気株式会社(NEC)に決定。大阪市校務支援システム専用のプライベートクラウドを構築し、教員1人1台のPCを整備したのが、平成25年1月。校務支援システムには「EDUCOMマネージャーC4th(株式会社EDUCOM)を導入し、ガイダンス、集合研修、学校巡回研修なども実施した。統合コールセンターでは、電話やメール、FAXなどでPCの基本操作、Officeアプリケーション、校務支援システム、その他システム、周辺機器類のトラブルシューティングから修理手配まであらゆる質問に対応しリモートサポートも行っている。情報漏えいなど事故のない職場づくりのため、情報セキュリティに関する「管理規定」「対策基準」「実施手順」も策定した。

グループウェア、連絡メールやCMSなどのコミュニケーションツールは3月に全458校(小・中・高等学校、特別支援学校)に、校務支援システムは31校(小学校20校・中学校11校)の試験校に導入。

現在、教職員及び教育委員会1万6605人・校務用PC1万2257台が24時間365日でサービスを利用している。毎月5〜6000万件のインターネット利用があり、誰が何時に何回どのサービスを利用しているのか、各PCがどのソフトやデバイスを何回利用しているのか、どのPCがどんなサイト閲覧、デバイス接続があり、ウィルス検知との関連性等を常にチェック。資産の管理と運用管理をシステム的に行い分析することで、校務の課題や対策等ベストプラクティスが可視化され、まさに「校務ビッグデータ」が実現できており、今回のような効果・成果の「定量報告」も可能にしている。

「入力は一度だけ」「転記作業ナシ」に

大阪市では試験導入校31校にアンケート、528名からの回答結果を分析した。

それによると、校務支援システムの導入・活用により、教頭の校務は年間136・3時間、教員の校務は年間168・1時間効率化を図ることができた。特にその効果は「通知表作成」と「日誌・週案作成」において顕著に見られ、通知表作成については、教員は42・2時間、日誌・週案については28時間が軽減。教頭は、日誌・週案において76・7時間が削減されたという。

グループウェアについては、試験導入後3か月で、校長・教頭の利用が100%に、教員は97%になった。繁忙期には、約1万4000人の教職員から日に3万4000アクセスがある。

新しいCMSについては1年間で全小中学校428校が移行を完了。毎月学校HPを更新している学校が86%になり、土日も含め毎日更新している学校も増えてきている。

大阪市では、自宅から操作ができるテレワークサービスも導入している。セキュリティ対策を行っているPCであればインターネット経由で校務を行うことができる。

これによりUSBメモリによる個人情報の持ち帰りをなくし、情報漏えいリスクを低減することが目的だ。試験導入校では34%が、全校では23%がテレワークを活用している。

*…*…*

試験導入校では、「グループウェア」「校務支援サービス」「コミュニケーション」それぞれにつき、どのような作業が軽減できたのか。

■グループウェア(連絡掲示板、個人連絡、会議室、施設備品予約、予定表、週案・時数管理、学校日誌・各種日誌)=「個人連絡」「連絡掲示板」「会議室」「書庫」等による情報展開・情報共有を図ることで、職員朝礼や職員会議の回数を減らすことができた。会議時間も短縮した。

■校務支援サービス(出欠管理、成績処理、通知表作成、指導要録作成、調査書作成、名簿作成、いいとこみつけ、健康診断、体力テスト)=「ワンソース・ワンマスタ」運用を徹底することで、名簿管理、出席簿、成績処理、通知表、指導要録までの流れが一元化され、「入力は一度だけ」、転記作業なしが実現。これにより、手書きによる書き直しのリスクや重複作業、転記ミスのチェック、出欠日数の検算などの作業から解放された。なお校長の承認印の電子化は、平成27年度中に実施される予定。

■コミュニケーション(学校HP作成、保護者メール送信)=これまでの学校HPシステムは更新の際に事前申請手続きが必要であったこともあり、更新は年に数回程度にとどまっていた。現在は、数分間程度で記事の更新ができることから、日々の子供の様子を発信しやすくなった。また、保護者メール送信を活用して更新を知らせる仕組みも実現した。

修学旅行や運動会、林間学校などをリアルタイムに情報発信をしている学校もあり、「毎日見るのが楽しみなHP」が増えた。閲覧数もひと目で分かる。

導入効果 実感は数値以上

効率化が図られた時間を教員は何に活用したいと考えているのか。

小学校教員、中学校教員ともに「授業準備や教材研究にかける時間を増やすこと」がトップ。次に、放課後の補習など、子供と触れ合う時間を増やすことが2位。3位は、小学校教員が「子供の作品やノートを見る時間を増やしたい」、中学校教員が「部活動の指導にあたる時間を増やしたい」であった。

校務効率化時間、教頭=年間136・3時間/教員=168・1時間減についてどう思うかについても聞いた。

小中学校教員は、「すべての数値において、まだまだ効率化が図れると思う」「今は使う機能に偏りがあるため、グループウェアや校務支援サービス、学校HPシステムなどをもっと使いこなしたい」と回答。

小中学校教頭は「数値以上にもっと効果が出ているという実感がある」「出席簿の月末集計点検作業等の際、翌日には教員に戻さなければならないというプレッシャーから解放され、時間では計れない効果がある」、小中学校校長は「試験導入校で2年目を迎え、以前と比べてさらに効率化が図られている」という。

また出欠管理や所見「いいとこみつけ」の校務などはもともと教室で行っていることから、教室でも職員室と同じ作業を行うことができる端末・環境が必要であるという意見もあった。

今後、大阪市では、試験導入校の成果を全校458校1万6605人に拡充するため、学校業務の更なる改善を図るとともに、大阪市教育版「熟議サイト」の新設による知見・情報の共有、テレワークの利用促進による情報セキュリティの向上、学校HPの充実による積極的な地域・保護者への情報発信も強化していく考えだ。

教員・CIO・教頭・校長の声

■小学校
教員PC操作が必要なため、結果的にICTスキルが向上している。週案は時数計算が不要になった。CIO=保護者に信頼される通知表作りに、これまで以上に注力できるようになった。グループウェアに職員朝礼資料をアップできるので、準備の効率化が図られた。教頭=通知表の所見・評定の転記ミスのチェックが不要、一覧表での確認ですむようになり、大幅な効率化が図られた。校長=ファイルサーバの利用によりUSBメモリの利用数が激減し、ウィルス感染や個人情報漏えいリスクの低減につながっている。

■中学校
教員=机上の山積みだった紙書類が減った。仕事にスピード感が出てきた。保護者対応に時間を割くことができるようになった。CIO=行事の企画・運営に時間をかけられるようになった。情報の共有化が自校内・他校間でも容易になった。教頭=出欠簿、週案等の掲載ミスのチェック作業がなくなった。校長=HPが簡単に更新できるようになったので、保護者への情報発信が強化され、保護者の学校理解が促進されている。

【2014年9月1日】

関連記事

↑pagetop