【特集】“和食”が持つ力を再発見

 昨年、「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ世界無形文化遺産に登録された。学校給食においては、米飯の回数が少ない学校は週3回以上、週の過半数以上実施している学校は週4回程度と新たな目標が立てられ、和食を中心とした学校給食が浸透してきている。和食が世界遺産となった今、次なる課題は家庭における和食の継承ではなかろうか。昨今、官民を挙げて和食を見直す動きが様々な場所で行われている。

<全調協食育フェスタ開催>調理師の卵らが活躍 ふるさとの味を伝える

全調協食育フェスタ
楽食弁当をプレゼンする中川学園の学生ら
日本列島の雑煮
いくらをざっとゆでた“とと豆”をトッピングした「越後雑煮」(新潟市)
日本列島の雑煮
かしらいもを入れた白みそ仕立ての「白みそ雑煮」(京都市)
日本列島の雑煮
干し焼えびを乗せた「焼きえび雑煮」(鹿児島市)
提供された雑煮6種のうち3つを紹介
日本各地には、餅の形、汁の味が異なった地域の様々な味がある

全国の雑煮で地域の和食を学ぶ

 全国の調理師学校関係者による"おいしく学べる食育イベント"「第4回全調協食育フェスタ」が、2月25日・26日に都内で開催され、9255名が来場。「Shoku‐ikuでふるさと発掘!」をテーマに、全国の調理師学校の発表やコンクール、自治体・企業の食育活動などが披露された。

 1日目には「第29回調理技術コンクール全国大会」が行われ、全国の調理師学校約1万7000人から地区予選を通過した146名が出場。日本料理・西洋料理・中国料理全部門から1名のみ選ばれる内閣総理大臣賞には、東京誠心調理師専門学校の藤井尋也さんの「春霞」が選ばれた。

日本列島の雑煮を紹介 味・餅の違いを試食

 新たな試みとして「日本列島お雑煮あれこれ」が設けられ、沖縄県を除く全都道府県の雑煮をパネルで展示。さらに、特徴的な6つの地域の雑煮の試食が行われ、長蛇の列となった。

 試食提供された雑煮は、北海道函館市の「ごっこ(ホテイウオ)の雑煮」、山形県酒田市の「具だくさん精進仕立ての雑煮」、新潟市の「越後雑煮」、岐阜県高山市の「飛騨雑煮」、京都市の「白みそ雑煮」、鹿児島市の「焼きえび雑煮」。

 味つけは味噌、しょうゆ、餅は角餅、丸餅、丸小餅など、地域の特色あふれる味を来場者は堪能していた。

 26日に行われた「食育フェスタ版調理師学校ガイド」では、新潟調理師専門学校、国際学院高等学校、琉球調理師専修学校、長野調理製菓専門学校、中川学園調理技術専門学校が、食育の活動紹介などをプレゼンテーション。

専門学校生が考案した 楽食弁当をプレゼン

 5校の中で唯一学生が発表に挑戦した茨城県水戸市にある中川学園調理技術専門学校は、5校で構成されるいばらき専門カレッジリーグと、茨城県歯科医師会による「弁当プロジェクト」について発表。

 同プロジェクトでは、食べ方の経年変化に沿って「機能を育てる」「機能を維持する」「機能を補う」の3つの視点で、専門カレッジリーグに所属する学校が弁当を考案した。

 同校は「機能を補う」ための"楽食弁当"の献立を作成し、家族みんなが食べられる新しい「味・形・食感」を求めた。新しいチャレンジを得た学生らは「食べていただく方への思いやりの気持ちが大切と実感した」という。

初の食育文化功労賞に さかなクンら2名

  また、今回主催者である(公社)全国調理師養成施設協会が初めて「食育文化功労賞」を決定した。

  食育に貢献した人の中から東京海洋大学客員准教授などを務めるさかなクンと、食育ジャーナリストの砂田登志子さんが第1回目の受賞者となった。








<ごはん食推進フォーラム>ごはんで日本を変える 「和食推進室」を提案

 ごはんを中心とした和食の素晴らしさを改めて見直そうと、農林水産省は2月26日に「ごはん食推進フォーラム〜世界に誇る、私たちの和食〜」を都内で開催。講演やパネルディスカッション、給食のパネル展示などを通じて、和食の魅力が伝えられた。

■民族の知恵 和食の底力―小泉武夫氏

ごはん食推進フォーラム
ごはん食のメリットを討議
ごはん食推進フォーラム
学校給食の見本も展示

 東京農業大学名誉教授の小泉武夫氏は「‐民族の知恵『和食の底力』‐」を演題に講演。日本人のお米離れが進む中、優れた事例として高知県南国市の学校給食の取り組みを小泉氏は挙げる。

 同市では各学校に電気炊飯器を導入。給食の時間になると各教室に置かれた炊飯器のご飯が炊き上がり、子どもたちは炊飯器からご飯をよそっておいしそうに食べるという。

炊き立てごはんが育む健康な心と体

   「南国市では地元の食材を活用し、ごはんを中心とする給食を続けた結果、(1)子どもが健康になった、(2)成績が良くなった、(3)いじめが無くなった、(4)食べ残しが無くなったなどの成果が見られた」と語り、全都道府県に和食推進室を設置し、和食の力で日本を変えていくべきだと提案する。

ふるさとのごはん食をコンビニで展開

 (株)ローソン商品物流本部 米飯部部長の福田浩一氏による講演「コンビニ飽和時代に生きる‐価値創造‐」では、おにぎりや弁当に国産食材を使用した「郷土(ふるさと)のうまい!」シリーズなど、コンビニのごはん食に関する展開事例が紹介された。

■みんなで考える 和食の未来 パネルディスカッション

 日経BP社 日経レストラン編集長の戸田顕司氏をモデレーターに、講演を行った2氏に加え、女子栄養大学名誉教授の足立己幸氏と日経BP社ecomom編集長の久川桃子氏がパネリストとなり、「みんなで考える 和食の未来」についてパネルディスカッションが行われた。

ごはんで成り立つ 基本の一汁三菜

 足立氏は、バランスの良い食事を摂るための手法として「3・1・2弁当箱法」を紹介。日本の食文化の知恵である"一汁三菜"に栄養学の基礎である量の概念を取り入れたもので、自分にとって適量の食事摂取量となるサイズの弁当箱を選び、主食・主菜・副菜の料理を3・1・2の割合で詰めていく。

  「一汁三菜はごはんがあることを基本として成り立っています。それは日本人の食事に根付いた文化であり、淡泊な味のごはんだからこそ、どんなおかずにも合い、料理の組み合わせの核となります」と足立氏はごはんの魅力を語った。

ごはん一杯26円 経済的な食材

  モデレーターの戸田氏によると、日本人のお米の消費量は昭和37年度をピークに激減しているという。

  ごはん一杯あたりのお米の値段は約26円と経済的な食べ物で、この優れた「ごはん」という食材を、どうして日本人は食べなくなったのかと疑問を投げかけた。

  また、和食を取り入れた理想的な「朝食」「給食」「お弁当」のメニュー展示も行われた。学校給食栄養士協議会の協力で展示された給食メニューは、ごはん(主食)、けんちん汁(汁物)、鯖味噌焼き(主菜)、小松菜とにんじんのごま和え(副菜)、季節の果物(デザート)、牛乳。日本の伝統的な調味料や気候風土にあった旬の食材を生かした和食が給食の献立として紹介された。

<日本全国 郷土食シンポジウム>次世代が誇るものに

日本全国 郷土食シンポジウム
学校・家庭・行政の連携で、学校給食にも継
続して郷土食を提供してほしいと話す江原氏

  農林水産省が主催する「日本全国 郷土食シンポジウム」が、3月7日に東京家政学院大学で行われ、日本各地の取り組みが、基調講演、分科会、パネルディスカッションを通して紹介された。

  このシンポジウムは、郷土食をテーマにした「和食」と「和食文化」についての理解向上と普及を促そうと行われたもので、栄養士など約200名が参加。

  主催者あいさつで農林水産省食料産業局食品小売サービス課外食産業室長の山口靖氏は、「日本の豊かさを支えているのは郷土食であり、その活動を発展させるきっかけ及びネットワーク作りとしてほしい」と述べた。

  続いて、東京家政学院大学名誉教授で「和食」文化の保護・継承国民会議副会長を務める江原絢子氏が、「『郷土食』普及のための提言」について基調講演を行った。

  郷土食の成り立ちには各地域の自然環境、文化的環境など様々な背景がある。例えば青森県のせんべい汁は、やませによって稲作が難しい県南部の粉食文化が発達して形成されたもの。沖縄に多い昆布料理は、北海道が産地の昆布が北前船で運ばれた、など様々な文化が織り込まれている。

  学校給食で提供しているケースも増加しているが、江原氏は今後の発展について、「何より大事なのは学校・家庭・企業・行政の連携で、積み重ねて継続すること、地域の次世代が誇りを持つ内容であること、広いネットワーク作り、地産地消の流通の仕組みが重要となってくる」とまとめた。

【2014年3月17日号】

<<健康・環境号一覧へ戻る