関心高い「食中毒対策」重要なマニュアル作り

学校給食は衛生状態の良い環境を確保しながら、調理をすることが最大のミッション。9月に行われた集団給食の専門展「フードシステムソリューション(F‐SYS)2014」でも、食中毒やアレルギー対策といったセミナーの参加者が目立ち、常に安全対策に関心の高い人が多いことがわかる。それらセミナーから、最新の学校給食事情を探った。

日々の健康観察は点検票で管理を

最新の食中毒は 「ウイルス」が増加

(一財)東京顕微鏡院理事の伊藤武氏は「最新食中毒情報」として微生物による食品危害の実態や問題点について語った。国内における食中毒の発生状況は、かつて主流を占めていた「細菌」を原因とするものは減少傾向で、近年はノロウイルスなど「ウイルス」性の食中毒が増加傾向にある。

「これまでの対策が功を奏してサルモネラや腸炎ビブリオは減少しているが、ノロウイルスやカンピロバクターなどの食中毒が増加傾向にある。また、発生件数に大きな変動はないが、腸管出血性大腸菌は重症化するため注意する必要がある他、ウエルシュ菌やセレウス菌など加熱しても死滅しない菌にも注意を払ってほしい」
減らないノロウイルス保有者は就業制限を学校給食でも多く発生するノロウイルスは毎年約300件発生しており、多くの施設で対策を講じているにも関わらず減少していない。

「ノロウイルスは環境における抵抗性が高く、インフルエンザウイルスがステンレスなどに付いた場合は24〜48時間、布などに付いた場合は8〜12時間で死滅するが、ノロウイルスは室温での状態ならばステンレスで1週間、布で2週間も残っている」
ノロウイルスの予防対策として、(1)人から人への感染と食中毒の両面からの対策、(2)生カキなどの感染リスクの高い食品を喫食しない、(3)石鹸液と消毒薬による完全な手洗いの励行、(4)ノロウイルスに対応したトイレの整備、(5)検査によりノロウイルス保有者を明らかにして就業を制限することが挙げられる。

また、O157など腸管出血性大腸菌食中毒については、「O157は環境抵抗性が高いことから食肉だけでなく野菜や果物への汚染の危険性も考慮する必要がある。O157以外のO26、O111、O103、O145など、ベロ毒素産生菌に対する意識が低いことが課題」と語る。

SYSでのセミナー
9月に行われたSYSのセミナー

ドライ運用の実現で調理従事者への負担減

女子栄養大学短期大学部教授の金田雅代氏と東京医科大学兼任教授の中村明子氏からは「実践につなぐ衛生研修」をテーマに学校給食共同調理場で食中毒を防ぐための対策が語られた。

食中毒防止に向けてドライ運用が叫ばれているにも関わらず、いまだに水浸しの調理場があることを金田氏は指摘。ドライ運用により微生物の増殖を防止し、床からの跳ね水による2次汚染を防止する。

また、軽装により調理従事者の身体への負担が軽くなるというメリットもあるのだ。

ノロウイルス対策は4つのポイントで

また、ノロウイルスをはじめとする食中毒対策として「健康観察」「手洗いの徹底」「トイレの使い方」「温度管理」の4つをポイントとする。

健康観察について中村氏は「体調不良のまま調理作業に従事したことにより、保菌者として食中毒を引き起こしたケースがあった。作業前に健康観察が行われていないと体調不良者を見過ごす恐れがある」とその必要性を語った。

健康観察において重要なポイントは、「日常点検表」をつけることだ。「食中毒発生時に保健所は健康観察票を確認するので、間違いは許されない。平熱より高い体温が記載されていたので確認したところ記載ミスだったことがあった。健康な人が調理するためにもしっかりと健康観察表をつけてほしい」と金田氏は注意を促す。

しかし、健康観察を行っていても食中毒が発生するケースがある。

平成20年には、調理員がノロウイルスに不顕性感染していたが症状が出ず気づかずに従事。

57名の児童が食中毒となった。食中毒を防げなかった原因は40名の調理員に手洗い設備が3台のみで給水栓が手回し式だったことが大きい。

「文部科学省が作成した手洗いマニュアルが調理場に貼られていても実践されなければ意味が無い」と語る金田氏。爪ブラシが汚れていたり、レバー式の給水栓を手で操作するなど手洗いを徹底して管理しないと食中毒発生の引き金となる。

手袋の使用方法のマニュアル化も必要

中村氏は「学校給食の食中毒対策」セミナーでも給食従事者の健康管理や手洗いの徹底を呼びかけた。手洗い設備で求められるのは温水が出る設備だ。さらに、各作業室に手指洗浄消毒設備を設置し、消毒液やペーパータオルの補充も忘れてはならないとする。作業時の使い捨て手袋を装着したまま段ボールに触れたり、下処理作業を行うなど誤った使用が行われているケースがあるが、そこから感染が広がるため、手袋の使用方法のマニュアルの必要性もある。

 

食育の推進は給食と連動させる

 

全学栄・長島会長
全学栄・長島会長

安全な学校給食を作った後は、その学校給食を使った食育の指導が重要となる。(公社)全国学校栄養士協議会会長の長島美保子氏によるセミナーでは、学校給食の果たす役割ついて語られた。

和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、日本の伝統的食文化が見直される一方、食料自給率低下や家庭の食事の欧米化など子供を取り巻く日本の食生活は様々な課題を抱えている。そうした時代だからこそ、「給食を通じて子供や保護者に日本の食文化を伝えていく必要がある。給食が果たす役割は大きく、子供の健全な発達を促すと同時に、食に関する指導を効果的に進めるための教材でもある」と話す。

食育の推進は学校の教育活動全体を通じて適切に行うよう学習指導要領にも記されているので、年間計画を立てて、食の指導において重要な教材である学校給食の献立と連動させた指導の実施が求められる。

また、長島氏は現在、学校給食や食育が抱える様々な課題を3つ挙げた。

【課題1】どのような場面で食育の指導を実施するのか定まっていないため、給食の時間や各教科、特別活動・学活など指導の場面は学校によって異なり分散している。そこで、指導目標や場面などの体系化を図る必要がある。

【課題2】小学校での学校給食の普及率は高いが、大阪府や神奈川県のように中学校で実施率の低い地域がある。学校給食自体が食育の教材だとしながら、肝心の給食が実施されていなければ、食に関する指導を平等に行うことは困難だ。

【課題3】学校教育法において小学校には校長、教頭、養護教諭および事務職員は「置かなければならない」とあるが、栄養教諭は「置くことができる」という位置づけであること。
特に課題3については、所属する全国学校栄養士協議会として「学校給食や食育という観点から、栄養教諭は学校に欠かせない存在という認識を求めていきたい」と強調した。

【2014年11月17日号】

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