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第42回 【教職員のメンタルヘルス】解決への手法と周囲の心得

若手職員ほど組織連携で守る 学校のチーム力向上にも効果

夏季休業が終わる頃「学校が始まると思うと何となくイライラしてしまう自分がいる」と同僚が打ち明けてくれました。この思いは特別支援学校の教員であれば、誰もが一度は感じた経験があることでしょう。特別支援学校では命の危険と闘う子どもたちと生活し、保護者に寄り添う教育が行われています。赴任1、2年であればよりストレスを感じる9月のスタートとなることもあります。

特別支援学校教員のフォロー

■全校あげ予防に取組む

メンタルヘルス対策で一番大切なのは「予防」です。文科省の「教職員のメンタルヘルス対策」(最終まとめ)でも示されているように、病気休職者の9割が精神疾患で、その割合が最も高いのが特別支援学校です。強いストレスを感じるのは業務の質、事務的な仕事、学習指導、保護者への対応及び同僚との人間関係だと報告されています。

つまり職場の予防対策により、精神疾患で休職、退職する同僚を減少させることができるということ。子供、保護者、私たち自身、学校、そして行政にとっても大きな損失を防ぐことになり、その解決の糸口は職場の中にあります。

■ストレスチェック体験を

平成26年公布の労働安全衛生法の改正で、従業員50人以上の事業所はストレスチェックと面接を義務づけられました。教育現場での実施率は高いとは言えず、県から指導が入る状況もあるようです。先生方はぜひ体験し、健康への気づきとセルフコントロールのために活用して下さい。
 社会的な健康度、心身の健康度、生活の健康度、性格傾向について分析し、アドバイスされることで、改めて自分を客観的に見つめ直し、生活改善のポイントが整理できます。また専門家のフォローや校長等の理解や配慮につながるよう、行政によるシステム作りが重要でしょう。

■伴走者が心強い存在

かつて筆者が小学校から中学校教員に異動して、初めて学年会議で林間学校の担当者に指名された時、相当な負担と不安を感じたことを思い出します。その時に手を差し伸べてくれ、一緒にその仕事の遂行を手伝って下さった先輩が、なんと心強かったことか、今も鮮明に覚えています。

■個と全体のスキル向上

私の職場では夏季休業中にグループエンカウンター等の研修を行います。子供の自分作り、仲間作り、社会性の向上等の指導のためです。新任、赴任1〜2年の教員が自然に多くの教員と交流し、相互理解を深め、自己開示して聞いてもらう体験を積み、安心感を持てているように感じます。個のスキルの向上と共に、職場で一番大切な人間関係作りに役立っています。

■ラインケアとチーム力

教職員の健康管理について管理職、教職員間では認識にずれがあります。大規模校やいくつかの校種が集まる特別支援学校では、一人ひとりの状態の正確な把握は難しいと思います。しかし在任2年以内の休職者数が特に多いことから、新任の教員が気にかけてもらっているという実感を持てるよう、主幹、主任と連携して組織力でフォローする必要があります。

ラインケアはともするとネガティブサポートとなり、ケア自体がストレッサーとなる危険性も意識し、不祥事防止研修にメンタルヘルス予防研修を組み入れ、柔軟に研修の機会を保障する工夫も大切です。

メンタル不調を訴え受診した20歳代の、最も多い受診のきっかけは「生徒指導」です。困難な事例が多い現状だからこそ、共働の中で初期対応の大切さ、スピード感のある対応、報告連絡相談等の大切さを丁寧に教えましょう。事例に誠実に向き合い、学校というチームで解決してゆく経験を積ませることが、若手職員を守ると共に学校のチーム力向上につながります。

特別支援学校における若手職員への配慮事項
〜SCや管理職からの聞き取りより
@クラス担任の組み合わせ・・・誰と組ませるかがとても重要。全員がほぼ満足できる配置を目指す
A事務の軽減とスキルアップ・・・事務処理システムや会計を丁寧に何度でも嫌な顔をせず教える
B登下校時の雑談、立ち話、ケース会・・・趣味の話、チーム支援でため込ませない、孤立を防ぐ
C相談しやすい環境・・・萎縮させない言葉かけ、考えをくみ取る姿勢、思いを共有してつなぐ
D特別支援教育への学習意欲、真面目さを評価・・・良い取り組みをすぐ評価、不安なままにしない
E具体的な事例から学ぶ・・・担当している生徒への対応ですぐ役立つことを支援。自信をつける
F落ち着ける時間、空間の確保・・・車の中、教室、職員室の一角、特別教室、音楽、お茶会

 

 

筆者=神保るり(じんぼ・るり)日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事(協会認定カウンセラー)、教育支援室専任教諭(教育相談地域コーディネーター)、特別支援学校教諭を経て、現在は公立中学校総括教諭

 

【2017年09月18日号】

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