第41回全国学校栄養職員研究大会


教科の本質失わずに
岩手県・水沢南小学校

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  食の指導を通して「心の育成」「体の健康」「社会性の涵養」「自己管理能力の育成」を育む−−学校教育全体を通じてこの実践が行われている岩手県水沢市立水沢南小学校。平成9年度から3年間、文部省指定の栄養教育推進モデル事業を進めてきた学校だ。
 水沢市は急激に都市化が進み人口も年々増加傾向にある地区で、同校は児童数922人と県で2番目のマンモス校。核家族化や両親の共働き家庭が増えるなど、都市部の状況と変わらない生活スタイルが増え、子どもたちの食生活も朝食の欠食や、塾通いによる不規則な食事時間などが問題となっている。
 食に関する指導を実践する上で、もっとも気をつけてきたことは「教科の本質を失わない」ということ。
 「全教科において何でも食べ物に結びつけて授業を行うことは無理があります」と大江幸銅先生は話す。「例えば算数の足し算の時間ににんじんなどの野菜を例に出して指導することは問題ないですが、その時間内ににんじんの栄養素を教えるとなると、その教科の本質からはずれるわけです。まして栄養価については低学年では学習内容に入ってないわけですから、理解も難しくなります」。

 カリキュラム作成にあたって食に関連する教科や単元を4本柱(「心の育成」「体の健康」「社会性の涵養」「自己管理能力の育成」)の学習目標に照らし合わせて洗い出し、教科の選択を行った。また同校では、独自に考えた3つの授業形態で食に関する指導を行っている。1つは授業の導入段階で食に触れる形態。直接その時間の指導につながる内容を導入期に提示して課題を掲げる。そして2つめは展開の部分で栄養指導などを直接を行う形。そして3つめは発展的内容として授業の最後に食に関して触れる形である。授業ででてきた食材をその日の給食の献立にあてはめて目を向けさせたり、次時につなげたりといった方法である。「どの教科のどの単元でやれば本質からはずれずに食に関連づけて学べるか、さらにどの授業形態をとるこができるか、栄養士はどこで指導すればより効果的かということをすべて検討してカリキュラムを作りました」。


 例えば、1年生の道徳の時間「感謝する気持」を育む際に「お世話になっている人」を取り上げ、用務員さんや給食を作ってくれるおばさんについて考え、感謝する気持を育てる。4年生の社会科では、ゴミ問題を学ぶ際に、給食室からのゴミを教材に授業を進める。5年生の社会科の流通では給食室に運ばれてくる野菜のダンボールを見て全国の流通について学ぶ。どの場合も教科の本質からは外れていない。「いかに給食室や給食を教材化し、食に関する指導の4本柱を育んでいくかということが重要でした」と大江先生。
 学校栄養士や養護教諭は基本的にティーム・ティーチングの形で授業に参画している。家庭科の調理実習で調理方法は家庭科の教諭が指導し、卵の栄養素について学校栄養士が話をする。また体育の時間に、養護教諭に睡眠の話をしてもらうといったように授業から逸脱せず、その授業内容を深める形で、栄養士や養護教諭は専門家として指導を行っている。「栄養士が指導する方が、担任の教師が教えるよりもより効果的であると思われるところで指導してもらっています。食に関する指導というと、必ず栄養士が授業に入らなければならないという考えがあると思いますが、必ずしもそうではなく、栄養士が指導した方が担任が行うよりもより効果のあると思われる授業で指導を行ってもらえばいいのだと思います」。

総合的な学習も・食・をテーマに実践
 今年度から移行期に入った総合的な学習の時間については、3年生以上で「食」をテーマに取組みはじめている。「総合的な学習を行う上で、食は非常に取組みやすいテーマであると思います。子ども達が毎日食べているものですし、自分の生活を振り返ることで疑問をもちやすく、課題をみつけやすい。自分達の問題として学習した内容を自分自身に戻しやすいのです。食というのは基本的な欲求のひとつですから、当たり前に考えなければならないことであり、学習としてとても取組みやすい問題なのです。」今年の4月から取り組み始めたばかりなので、今はまだどの学年も課題を集めている段階である。

 今回3年間の研究で築いた実践は今後も継続していくとのこと。「研究1年目の1年生が6年生になった時、はじめてその成果がわかるのではないでしょうか」と大江先生は語る。
(教育家庭新聞2000年7月15日号)