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防犯特集〜池田小
学校・地域・保護者で安心安全な環境を

環境整備と防犯意識向上が必要

大阪教育大学付属池田小学校
津田一司副校長


 平成13年10月8日午前11時。大阪教育大学附属池田小学校に不審者が侵入し、児童や教員計23名を殺傷した。
いつ思い出しても心痛む事件だ。津田副校長は当時教務主任として勤務中だった。以後、積極的かつ慎重に、池田小の防犯・安全対策を実施してきており、その手法は私立公立問わず全国の小中学校の範となっている。
その一言一言は、重い。同小では具体的にどのようなことを行い、進めてきているのか。

環境整備は人の眼の「補完

 不審者侵入に対して最も効果的なことは、「学校に入らせないこと」と津田副校長は述べる。池田小の「正門」は現在、小中高共にひとつに統一、そこに警備員を配置している。事件当時の正門は、当時の事件を風化させないようそのまま残してあるが、高さ1メートル半しかないため、3mのフェンスに赤外線センサーを設置した。また、フェンスの網目も細かいものとした。

 監視カメラの設置は全部で10数台。学校周辺に配置しており、監視モニターは2箇所で、24時間記録している。これは侵入者への抑止効果が狙い。また、人だけに反応する画像解析システムも3台導入した。

 池田小の事務室は、外部に張り出した形になっており、郵便物や宅配便などは校舎に入らずに受け取りが出来るようになっている。扉は二重にし、来校者用扉はオートロックだ。登下校時以外は施錠されており、児童生徒の登下校時は教師が立つ。「やはり人の目の監視がポイント。そこに情報機器などをうまく利用して補完しています」。

IDカードで入退室管理

 池田小では、保護者も教職員もIDカードを所有している。入退室時に読み取り機にカードを当てると「何時何分に○○入室」と記録される仕組みだ。記録・チェック後、オートロックの施錠が外される。保護者は茶色、来客は赤、教職員は青と、「目」での確認もできる。

防犯マニュアル整備〜防犯訓練は重要

 事件勃発時、全校放送もなく誰からの指示もなかった。それが一番の反省点、と池田副校長は述べる。現在教職員の防犯訓練は、年間4、5回行っている。「事件以後これまで20回以降行ってきました。何度やっても満足いくことはなく、連絡がスムーズにいかないなど新たな問題点が出てきます。非常時、人は目の前のことに没頭してしまい、とっさにとれる対応は、経験したこと知っていることだけ。不審者を想定した訓練は非常に重要です」。児童にも別途訓練を実施、1年生では交通安全教室を、2年では防犯ブザーの扱い方を、4年ではCAP研修などを行っている。

携帯メールを活用〜迅速に連絡を

 池田小では、平成15年より携帯メールの運用を開始している。「事件当日、保護者に連絡できたのが午後11時過ぎ。既にテレビに事件が報道された後でした。そこで、携帯メール配信による連絡を取り入れました。電話による連絡網だと、どんなに頑張っても1クラス15分はかかりますが、メール連絡網だと、700家族への連絡が1人で約12分程度ですみます」。

 また、登下校時にもメールを配信。児童らは電波バッチをつけており、連れ去りの抑止力が期待できる。

危機意識育み、地域に愛される学校活動を

 現在登校時間にあわせ、保護者が立ち当番をしている。そのほか、安全パトロールの実施、救急救命講習会の実施、安全マップ作りの第一人者、立正大学の小宮先生を招いての情報交流や救急通報センター見学など、様々な取り組みを行っている。

 登校時の立ち当番では、「何が」「どこで」「いつ」あったのか、「今どうなっているか」「通報者の名前・電話番号」の5点を通報のポイントとして周知徹底させている。また、「安全防犯パトロール」のステッカーを保護者に配布、自転車の前かごにつけている。

 「附属の場合、広範囲な地域から通ってくるため、地元とのかかわりが弱い面があります。池田小の子どもらが地域に愛されるためにも、池田市の活動に学校全体で関わったり、地域の方々を学校に招くなど、地域との関わりを常に意識した活動を行っています。例えば、地元の小学校の保護者がパトロールをしていたり登下校時に見回りをしていたら、いつもありがとうございます、と声をかけたり、可能なら自分もその活動に関わるようにと保護者に声をかけています」。子どもの安全を守るには大人の意識が重要だ。


防犯特集〜子どもの安全確保
学校・地域・保護者で安心安全な環境を

地域の安全が子どもを守る

国立淡路青少年交流の家所長
戸田芳雄氏


 前文科省・戸田芳雄氏(国立淡路青少年交流の家所長)はかねてより子どもの安全教育≠ノ深くかかわっている。戸田氏に、最今の状況と子どもの安全確保について聞いた。

 かつては数年、数十年に一度しか起こりえなかった事件が毎日のように起こっている状況です。人格人権をないがしろにした事件が多いことを鑑みると、これからは、子どもたちはもちろん大人も、経済効率を優先するのではなく、心を耕し、人格人権を尊重する「安全文化」の創造を考える必要があります。

 子どもが小さければ小さいほど犯罪にあう、と考えられがちですが、実態は校種が高いほど、事件が激増しています。
 未就学児童で起こった事件は666件で、そのうち学校で起こったものは17件と、全体の2%。小学生になると2万6699件と増加、うち学校での事件は約2%の621件。中学生は7万4870件。うち学校は621件と、やはり2・3%程度。高校及び19歳以下では、なんと25万4191件で、校内での事件は4・1%の3070件です。これらの数字から「中学生や高校生は大丈夫」という認識は誤解であることがわかります。この数字で分かることは、学校以外で起こっている事件の多さ。地域を安全にしないと、学校の安全は保てない、ということです。
地域で共有できる

不審者情報等を〜ネットワーク構築を

 「安全安心な学校づくり」や「安全・安心な子どもの居場所づくり」のためには、学校関係者の努力のみではなく、地域の方々の協力が欠かせません。これまでのPTAによる組織的な活動等に加え、例えば「学校ガードボランティア」などの名称で保護者有志の方々が校内や通学路を巡回する取り組みを行なっている地域や、警察官OBの協力で「シルバーポリス」という組織をつくり、子どもの登下校時や在校時などの安全確保のための巡回を行っている地域も見られます。

 通学路は大人の目が届きにくく子どもは様々な危険にさらされがちです。このため、学校付近の商店等が「安全モニター」となり、不審者の早期発見に協力している地域があります。地域の特性を生かしつつ、不審者情報の共有など学校や通学路の安全確保を目的としたネットワークづくりです。

 ネットワークには、活動の核となるコーディネータが必要です。例えば校区単位では担当教職員が、広域的なものでは教育委員会が、それぞれ地域の警察等と連携しながら運営をしていきます。

 「子ども110番の家」の取り組みに協力いただいている家庭や商店が増えています。通学路で子どもに危害が加えられている状況を踏まえ、一層の協力をいただきたいですね。

学校と警察の連携を積極的に

 学校と地元警察署、教育委員会等と警察との間で十分な連携を取るために、関係者間で協議会を設置したり、定期的に意思疎通の会合の開催が必要です。また、今後、学校や教育委員会等から要請があった場合、それぞれの状況に応じて警察によるパトロールの強化を図るとともに、その周知も行うことが効果的です。学校と警察が連携した防犯訓練や防犯教室の実施も今後積極的に行っていくべきといえるでしょう。


防犯特集〜通学携帯
学校・地域・保護者で安心安全な環境を

地域に密着した「安全」を提供

株式会社ネットジーン
大知昌幸氏

 登下校中の児童の安全確保が求められるなか、株式会社ネットジーン(東京都)の子どもの見守りサービス「子どもの安全・安心ネットワーク『通学ケータイ』(以下、通学ケータイ)」が7月13日、モバイルプロジェクト・アワード2006(主催 MCFモバイルプロジェクト・アワード審査委員会・モバイル・コンテンツ・フォーラム)で優秀賞を受賞した。契約(依頼)者のみの安全確保が中心とされてきていた従来の類似サービスにあって、「学校が組織として児童の安全を管理することが出来るトータルソリューションパッケージ」として評価された。また、この7月には奈良県の県警指定の防犯グッズにも指定された。同社大知昌幸氏にその特長を聞いた。

 「『通学ケータイ』は、学校を含めた地域の安全をどう確保するのか、を念頭に開発したものです。携帯電話を利用した緊急通報システムのほか、GPS機能を活用した状態把握システムや、児童の到着を知らせる登下校通知システムを実装しており、現在私立小学校などで利用が進んでいます」。

 『通学ケータイ』は、保護者のパソコンや携帯電話から子どもの位置情報を確認することができる。携帯電話は機種を問わないので、従来使用しているものをそのまま使うことができる。
 「デジタルに頼りすぎることなく、アナログな部分も大切にしているのが特徴です。安心や安全というテーマは、テクノロジーにのみ偏っては駄目、というのが実証実験を重ねての結論です。ただ、子どもの見送りや集団下校などアナログ的な活動は、毎日は難しい。その隙間はデジタルで補っていくという考え方です」。

 『通学ケータイ』は、学校に着いたとき、子どもがワンボタンで「ついたよコール」が、帰るときにも「帰るよコール」ができる。教師も目で子どもたちが出席していることを確認、出席していない子どもだけをチェックして「○時○分現在登校確認」と一斉に保護者にメールを配信することができる。
 ブラウザで生徒の位置情報やスクールバスの状況、入退室履歴も確認できる。保護者は、自分の子どもの遅刻や欠席など申請もメールですることができる。「地域の実情に合わせ、保護者や学校のニーズをくんでからソリューションを提供する」点が強みだ。「そこに子どもや教師の意思が介在することで、保護者が安心するのです」。

 同社が提供するソリューションは防犯のみに限らない。広く「安心」「安全」を捉えており、先生が学校の活動状況をメールで写真なども添付して保護者に伝えることも「安心」のひとつとして提供している。

 「『通学ケータイ』という名称ではありますが、携帯電話を使わないソリューションの提供にも取り組んでいます。携帯電話は使わせたくないという地域や学校には、出席カードを用いたソリューションも進んでいます。交通会社と提供し、今どこの駅を通過中なのかが分かる仕組みや、タクシー会社と協力することでお助けコールを押すと最寄のタクシーがかけつけるというシステムなど、ケータイ電話にこだわることなく安全安心なソリューションを提供していきたいと考えています」。

『通学ケータイ』
株式会社ネットジーン
 
03-5328-3673

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【2006年8月5日号】


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