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◆対談◆清水康敬氏 × 永野和男氏
財団法人上月スポーツ・教育財団
「情報教育」次は「各教科」で実践を
 財団法人上月スポーツ・教育財団(理事長上月景正・コナミ株式会社代表取締役社長、以下、上月財団)では、「上月情報教育研究助成事業」の募集を11月1日より開始した。本年で通算18回目を迎える同助成事業が教育現場でどのような役割を果たしてきたのか。今後どのような役割を果たすべきか。第1回から審査委員として関わる清水康敬氏(東京工業大学 監事・名誉教授、同財団理事)と、永野和男氏(聖心女子大学教授、同財団評議員)が対談した。(上月スポーツ・教育財団は平成17年に上月情報教育財団、上月スポーツ財団、上月教育財団の3財団が統合された)


上月スポーツ・教育財団理事
清水康敬氏

清水 上月財団が情報教育に関わる助成をスタートしたのは平成4年です。当時どのような実践に助成をしていくべきか方針を固め、「情報教育」に特化した初の助成事業「上月情報教育振興助成等事業」としてスタートしました。

 財団ではこれまで、300を超える件数、総額2億5千万円余りを情報教育に関して助成してきました。このような「教育研究費」は学校現場にとって、簡単に手に入るものではありません。その意義は非常に大きいものでした。

永野 平成4年の学習指導要領から「情報教育」がカリキュラムとして取り扱われましたが、現場への定着はまだまだ途上にありました。
 当時文部省は主に機器を中心に教育環境を整備していましたが、先生の日々の授業活動についてまではフォローしきれていませんでした。そこに、上月財団の情報教育に対する助成が、しかもかなりの規模でスタートしたことは、情報教育の位置づけに大きく貢献しました。

清水 それは、平成12年、上月情報教育財団が文部科学省(当時は文部省)より設立許可されたことからも分かります。
 文部科学省では情報教育に力を入れ始めており、科研費による助成も先生を対象に行っていましたが、学校現場の実践に対する助成はそう多くはありませんでした。上月情報教育財団が現場の先生の活動を支援していくということが高く評価され、その重要性を文部科学省も認めてくれた、ということです。

助成の特徴

清水 上月財団の助成は「情報教育」をキーワードとして明確に出している点に特徴があります。コンピュータを使うだけではなく、子どもの能力を伸ばすためにコンピュータを含めたICT環境を活用していくこと。それが可能になる取り組みに対して助成を行っており、審査でもその点をかなり精査しています。
 また、主な助成対象を初等中等教育に関わる先生方としており、現場の先生やそれを指導、取りまとめる指導主事を対象としています。

永野 個人の実践よりもグループによる活動を支援している点も大きな特徴です。
 備品の整備ではなく、教材を作成するなどソフト面の充実や、学校や地域の活動を助成し、人を育てることにつながる横軸の広がりを重要視しています。グループや地域を超えた学校間の取り組みは、情報教育の底上げにつながりますからね。情報教育の推進は、1人の先生がやれば良いというわけではありません。

清水 助成期間が2年間であること、助成金を2回に分割して支給しており、1年目の中間報告の後に残額を支給するという方法も特徴です。これは、中間報告で軌道修正をした際に助成金を既に使ってしまったという状況を避けるための工夫です。

永野 中間報告には、審査委員がその取り組みに対してアドバイスを行い、情報教育の目的に適った活動にしていく役割があります。専門家である審査委員とコミュニケーションを取るからこそ、助成を通して人が育つ、という構造です。

清水 さらに、「今回は助成対象にはならなかったものの、あと一息」、という取り組みにも奨励金を出すことで、先生方の頑張る気持をサポートしてきました。初等中等教育では、研究費というものがほとんどありません。たとえ10万円でも、奨励金という形で、自由に使える研究費を獲得することによって、学校長や周囲の目も変わってくるという効果なども期待できるでしょう。


聖心女子大学教授
永野和男氏

確実に成果

清水 平成4年当時、現場の先生にとって「情報教育」に関する理解が十分でない状況でした。助成を開始して本年で18回目ですが、当初は「情報教育」とはどのような活動を指しており、何が成果なのかを啓蒙していくことが中心になりました。目指す「情報教育」にふさわしい内容になるまで、ほぼ10年かかったという印象です。

永野 近年は応募内容のレベルがずいぶん上がったと感じていますが、初期には、申請内容について「これが情報教育か否か」の議論もありましたね。今では「情報教育」の視点が現場に徐々に浸透し、確実にその成果が表れてきています。

清水 そうですね。申請内容はかなり具体的になりました。
 情報教育の目指す子どもの能力育成や教員の指導力向上のためのツール作り、高等学校に関しては「情報の科学的な理解」を促すための取り組みなど、情報教育の視点が明確になりましたし、3、4年ほど前から社会的にもクローズアップされてきた「情報安全教育」に関してもユニークな実践が目立ちます。

永野 助成を通じ、じっくり教育実践に取り組み、その成果を全国大会や地区の研究会などで発表する先生が増えている点も成果といえます。

期待する応募

清水 新学習指導要領では各教科に「情報教育」の観点がかなり盛り込まれました。これは大きな変化です。情報教育の重要性はより一層増してきたといえるでしょう。

永野 現場の先生方にとって、「コンピュータさえ使っていれば良い」という誤解がまだ残っている「情報教育」ですが、真の目的は、「子どもの情報活用能力の育成」にあります。
 新学習指導要領で各教科の中に「情報教育」の内容が具体的な活動として埋め込まれたことで、各教科の専門家が情報教育の視点を持って広げていく段階に進みました。課題を解決するために必要な情報を収集し、編集、それを自分のものとして新たなものに作り変え、伝達していく能力の育成のためには、「各教科の学習活動の中で」定着させる仕組みが必要です。

清水 今後、積極的に助成していきたい実践としては、新学習指導要領に沿った情報教育の新しい形をすべての先生に理解して頂ける取り組みであること。
 情報活用能力とは「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」の3つを指しています。それぞれの能力を子どもにどう身につけさせるのか、それが実践にはっきりと盛り込まれていることが重要です。

永野 今後は、各教科の専門家が新学習指導要領の中に埋め込まれている「情報活用能力の育成」に焦点を当て、活動を展開していってほしいですね。

清水 これから文部科学省の補正予算によってICT環境が整備されます。この環境を生かせる教員のICT活用指導力の向上が必要ですから、効果的な研修についての実践も注目しています。
 ICTは、効果的な教科指導のためにツールとして使う場合と、各教科の中で子どもの情報活用能力を育成するというふたつのアプローチがあります。例えば小学校英語活動は、ICTの活用を効果的に使うことができる良いチャンスといえます。教員のICT活用能力も高まり、子どもたちの情報活用能力を高める可能性を秘めています。今後は、これら2つの目標を達成するための取り組みが増えてくることを期待しています。

永野 ハードウェアに気遅れすることなく、全ての教員が積極的にICTを活用すべき時代が来ることを視野に入れていく必要がありますから、先生自身の情報活用能力の育成は重要な課題です。

清水 もうひとつ注目すべき点は、高等学校の教科「情報」が「社会と情報」と「情報の科学」の2教科に再編されたこと。これから、高等学校でも情報教育を如何に成功させるかの模索が始まります。レベルの高い様々な活動が展開されていくことを期待しています。

永野 中学校での情報教育の実践も課題のひとつ。中学校は、時間数がタイトで実践を進めにくい傾向があります。教科を超え、校種を超えた中高連携のモデルプランが出てくると良いですね。

永野 情報教育を支援していかなれば、日本の未来は危機に瀕します。様々な課題が目白押しの中、どう情報を収集し、判断していくか。先生が教えてくれた知識を覚えるといった学習だけでは、情報社会は生き抜けません。情報に対する態度や情報活用の手法を身につけていくことが重要です。その部分を積極的に助成、同時に啓発も含めたサポートを続けていきたいですね。

清水 2015年は「情報教育」30周年。今後の10年間を視野に入れ、「情報教育」の次のステージに向かって取り組み、子どもたちが次世代を生き抜く力を身につけるためのサポートをしていきたいと考えています。

第18回 上月情報教育
研究助成 募集中

 財団法人 上月スポーツ・教育財団では、第18回「上月情報教育研究助成事業」の募集を11月1日より開始した。初等中等教育における情報教育に関する優れた研究や教材の開発、学習指導における実践などに対して助成するというもの。助成件数 15〜20件程度。助成金額は1件あたり30〜150万円程度。締切は11月30日(必着)。応募詳細

【2009年11月7日号】


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