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115校全教室に電子黒板を導入・調査研究事業がスタート
全校の担当者一堂に3日間で集中研修
 平成21年度補正予算で実施される「電子黒板等を活用した教育に関する調査研究」事業がスタートした。本事業では、該当する研究校全クラスに電子黒板を導入し、その活用効果を図る。11月11日から13日の3日間、本事業に参加する全国47都道府県と16政令指定都市から115校の担当者計128名が教員研修センター(つくば市)に参集し、研修が実施された。研修内容は、本研究実施校の役割についての講演、文部科学省による施策の説明、校内研究の進め方と活用研修、演習、授業デザイン作成、成果発表など。学校100校以上の全教室に電子黒板を導入するモデル事業は、今回が初。その活用効果と報告内容が、今後の電子黒板導入を左右する。中川一史氏(放送大学教授)は、「115校の役割は、本調査研究により、成果を上げ、広げていくことにある」と述べる。

電子黒板の活用効果を検証

 本研修では、調査研究校の担当者に対し、授業での電子黒板等の効果的な活用、デジタル活用指導力の向上と「わかる授業」の実現、授業の質の向上を図り、新しい授業デザイン構築のための最新の知識・技術を習得する。受講者らは本研修内容を踏まえ、各地区でリーダーとして活動を行う。

 115校には、今後順次全教室に電子黒板が導入される。そのスケジュールは教育委員会ごとに異なる。補正予算により予算は既に確定しており、現在導入が進行中だ。予算と実際の入札結果については差額の出る場合も多く、各校はその差額分をさらなる機器整備やコンテンツ整備に充当することも可能となる。
   ◇  ◇
 研修2日目は、4グループに分かれ、グループごとにコンテンツが割り当てられ、演習を行った。当日活用されたコンテンツは、「理科ねっとわーく」(担当 岩ア有朋・鳥取県教育センター研修主事)、「デジタル掛図」(担当 佐和伸明・千葉県松戸市立馬橋小・教諭)、「国語デジタル教科書 小学校版/中学校版」「わくわく古典教室」「英語ノート」(担当 佐藤幸江・横浜市高田小・教諭)、「NHKデジタル教材」(担当 寺嶋浩介・長崎大学大学院准教授)など。演習後はそれを元に授業デザインを構築、グループ内で模擬授業が行われた。最終日には、グループごとに発表された授業アイデアを全体で共有する。

 研修中、受講者は常に付せんを持ち、質問事項や意見、要望をメモ、それをホワイトボード上に貼りこんでいった。講師はそれらを整理、最終日にまとめて質問に答える。参加者からは、「ICT支援員の今後の見通しについて知りたい」「研究事業のための専用サイトが必要」「115校の交流と情報交換を継続したい」という声が上がった。

各教科で展開される
豊富な授業アイデア


「天体の動き」説明にも力が入る

 以下は当日発表された模擬授業のアイデア。
@「からだのなぜ」(理科ネットワーク)から、「3Dプロジェクション―食べ物の通り道」を活用した教員は、口から入った食べ物がどこをどのように通って排出されるかを説明。「3Dプロジェクション」では、食べ物の通り道がシミュレーションできる機能があり、子どもたちは視覚的に確認、知識を確かなものにすることができる。

A理科を選択した教員は、「宇宙と天文」(理科ネットワーク)から、金星の満ち欠けの原理について問いかけ、子どもたちに「地球から金星がどのように見えるのか」予想、発言させる。結果と理由は、教材を用い、電子黒板上で説明する。


GISで前方後円墳の形を確認する

A社会科を選択した教員は、グーグルを使い、前方後円墳の形を確認する。その後、「新しい社会 デジタル掛図」(東京書籍)の資料や動画で前方後円墳について学び、知識の定着を図った。

B「国語デジタル教科書」(光村図書)から「アップ&ルーズ」を選択した教員は、教科書の写真を使って導入、アップとルーズについて確認してから「アップとルーズにはどんな違いがあるのか」について、赤いライン、青いラインを教科書に引かせる。答え合わせは電子黒板上で行う。教科書と提示されているものが同じなので、共有しやすい。発表者は「考えを共有しやすく、理解しやすくなると感じた。重要な箇所を指摘する能力がつく」と評価。

C動物の骨格の写真を何枚か見せ、何の動物の骨格か、そう考えた理由は何かを発表させる、導入での試み。

D5年理科「天気と気温の観察」を選択した教員は、「デジタル掛図」から授業冒頭に様々な雲の写真を提示し、その名称を予想させてから、実際の名前を確認した。

重要なのは「授業デザイン」 サブリーダーの育成を
長崎大学大学院 准教授 寺嶋 浩介氏

 ICTは授業のそれぞれの段階で活用できる。

 導入では、「注意喚起、目標の明示、前提条件確認」など。展開では、「新しい事項の提示、練習機会の提供、既習事項のフィードバック」、まとめでは「学習成果の評価、保存」など。

 「電子黒板の導入」「デジタルコンテンツの導入」だけで学力が向上するわけではない。最も重要なのは、授業デザイン。ICT活用の「場面」「意図」「留意点」の配慮を意識していくことが必要。それを他学年、他教科も含めてその活用効果などの情報を共有、1人の先生の実践で終わらないよう、、広げていくことが重要だ。

校内研修は順を追って

 簡単な操作に慣れること、活用目的と方法の理解をまず先に進めていく。次に、通常の授業設計を考えながらコンテンツを選択する。教科や単元によりどこで何をどのように取り入れれば有効か、どのタイミングで何を大きく見せれば効果的かを考えて『授業デザイン』をする。

 リーダーは、まずサブリーダーを育てていくこと。取り組みに消極的な教員に対しては、困難を感じている部分に寄り添うと同時に、管理職から全学級の授業公開の義務付けなど、外堀を埋めることも必要。

報告の手法も重要に

寺嶋氏は、成果報告の留意点について「子どもの目が輝く、などの反応が変わるだけでは事業成果報告内容としては不足。『〜を狙いとしたときにICT活動で〜を行うことで授業目的を遂げた』という報告の仕方をしていくこと。また、学習の達成度について、証拠を残すこと、教材準備にかかる時間を従来と比較し、新しくできるようになったことなど内容の充実についても報告するなど心がける必要がある」と述べた。

【2009年12月5日号】


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