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全教室に書画カメラを整備 ―藤岡市教育委員会

 群馬県藤岡市では昨年度補正予算で、書画カメラ(実物投影機)「L‐1ex」(エルモ社)を小学校全11校162教室に導入した。書画カメラの全クラス配備に最優先で取り組んだ理由とその後の活用について、藤岡市教育委員会学校教育課の齋藤俊明氏に聞いた。

 

藤岡市教育委員会学校教育課 指導係長 齋藤 俊明氏

“討論”できる学級づくり

 齋藤氏は「現場の声を反映し要望が高かったものを最優先で整備した」と話す。一昨年度のPC室更新時に書画カメラを4台配備した学校からは、「各教科で効果的なので全教室にぜひ欲しい」と強い希望があった。そこで補正予算では、書画カメラの全教室配備を最優先に予算要求。そのとき説得資料として役立ったのが、現場教員が中心となって作成した書画カメラの事例集「HotEducation」(写真)だ。これを見た教育長らが授業での有効性に理解を示し、書画カメラの全教室配備が実現した。

 

〜事例集で有効性を訴求 予算化〜

各学年ニーズを検討して整備

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▲ 書画カメラの活用事例集が
予算獲得に役立った

 当初は地デジテレビとセットでの導入を考えていたが、テレビ視聴は低学年が中心であるという現場の声から、より現場ニーズに適応した整備内容を検討。その結果、小学校低学年全71クラスに50インチの地デジテレビと書画カメラ、中学年全46クラスに書画カメラ・プロジェクター・マグネットスクリーン、高学年全45クラスには「英語ノート」デジタル版を活用しやすいよう、スピーカー付きプロジェクター・シート型e黒板・書画カメラを配備した。
 導入して2か月後に行ったアンケートでは、60%以上の教員が1週間で3回以上活用しており、21回以上活用している教員も5名いた。教科別では算数と国語が多く、社会や音楽、図工での活用も進んでいる。提示するものは、教科書やノート、ドリル、実物などだ。
 児童の反応に手応えも感じている。書画カメラを活用することで指示が通りやすくなったと感じている教員は98%。児童の反応がよくなったと感じている教員は96%。児童の理解が進んだと感じている教員は95%いた。
 児童も、書画カメラを活用した授業について良い印象を持っている。
 「書画カメラを使った授業は楽しい」と80%以上の児童が答えたクラスは、77%(108クラス)。「書画カメラをもっと使ってほしい」と80%以上の児童が答えたクラスは67%(94クラス)であった。低学年に配備した50インチテレビも、提示機器としての活用度合いが圧倒的に高いという。
 教員からは、「教室に常設されることで気軽に使えるようになった」「わかりやすく説明でき、児童の関心や集中力を高められる。児童の記述もすぐに見せることができ、日常的に使っている」と喜ばれており、活用が進むにつれ「書き込みできるものが欲しい」などの要望も出てきているという。
 今後は、基本的な活用と学年ごとの活用の2本柱で研修を進めていく考えだ。エルモ社では研修パッケージも無料で提供しており、校内研修を進めていく際のサポートとなる。


PCなしでも使える点が良い

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▲ 書画カメラ「L-1ex」を
デジタルテレビで活用している


 書画カメラを最優先で整備したもうひとつの理由は、PCなしでも使える点だ。
 群馬県では平成15年より授業で活用できるコンテンツG‐TaKを提供しており、現在約6万2000コンテンツが収録されている。齋藤氏はG‐TaK立ち上げに関わっており、「当時中学校や高等学校での導入は進んだものの、小学校での導入が進みにくかった。PCありきの使い勝手が障害となっていたようだ。今回導入した書画カメラは、当時の課題を解決できる導入内容」と述べる。G‐TaKは平成22年1月現在小中高等学校、特別支援学校458校で導入されている。Web版は全国どこからでも利用できる。http://www2.g-tak.gsn.ed.jp/

藤岡第一小学校 成功のポイントは全教室常設

 藤岡第一小学校の品川教頭は、「書画カメラは、授業時間内に必要なとき短時間で使うもの。全教室常設しないと導入効果は半減する」と話す。そこで一昨年度、4台配備された書画カメラを1〜2か月単位で学年ごとに設置、教室に常設した活用を進めた。
 「高学年では、図工や書道ですぐに活用が始まった。低学年では利便性が高く、日常的に使われていた。明日の準備や保護者への連絡事項を連絡帳に書きとらせる場面でも、書画カメラを使うと漏れなく伝えることができる。学年が下になるほどあらゆる場面で活用されていた」
 常設という使い勝手の良さから、準備はほとんど不要で、授業時間内に教材を作成することもできる。児童の作品の途中経過を映すことで意欲を刺激したり、学び合いの場を演出したりすることもできる。映すだけではなく画像や動画として保存できる。
 「L‐1ex」については、「一世代前の書画カメラとは異なり、場所もとらず、拡大してもくっきりときれい。革命的な教具であると感じた。いまやどの学年にとっても欠かせない。教育現場に長く使われていくべきもの」と述べる。

校種によって活用法に違い ―品田彰校長 

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 一昨年度まで中学校で校長を勤めていた品田校長は、小学校と中学校では、活用を始めやすいアプローチが異なるという。「中学校では教材コンテンツや校務処理などでICTが活用されていたが、小学校は遅れていた。書画カメラの導入で、小学校での活用が一気に進んだ」
 導入効果については、「授業中に児童と対面する瞬間が増えた。従来プリントに頼っていた部分が減り、提示して説明し、考え、意見交換するシーンも増えているようだ」と話す。「少ない予算で少しずつできるところから、という整備方法だと、中途半場な整備になり、活用も中途半端になる。全員がいつでも活用できるよう一気に導入していくことが早道」
 今後の課題として「見せたい資料をいくらでも見せることができるため、提示資料を盛り込み過ぎてしまう場合がある。教材は目的に沿って精選してこそ効果が上がるもの。そのための研修を進めていく必要がある」と述べた。
 藤岡市立小野中学校では書画カメラの全教室配備を学校予算で検討中であるなど、小学校の活用効果をきっかけに中学校での導入も進んでいる。

【2010年9月4日号】


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