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eスクール2010報告

 第22回全国生涯学習フェスティバル「まなびピア高知」が11月20〜22日に開催され、期間中ICTを活用したオープン教室「eスクール2010」(主催=文部科学省・eスクール2010協議会)が同時開講された。11月22日は、学校ICT活用促進研修会(高知県教育委員会主催)と教育ICT活用実践研究・四国ブロック大会(教育ICT活用普及促進協議会主催)が同時開催され、高知県内の情報教育指導主事や教員ら200名余りが参集した。研修当日に展開されたICTを活用した模擬授業を紹介する。なお、オープン教室の模擬授業は映像収録されており、インターネットで公開予定だ。(http://e-school.nicer.go.jp/

講演

一斉授業から協働学習へ

デジタル教材
▲ 高知県教育委員会主催の学校
ICT活用研修会と同時開催された。

 研修の最初は、文部科学省生涯学習政策局・齋藤晴加参事官がこれまでの文部科学省の施策について説明した。
  齋藤参事官は、「政策コンテストにおける文部科学省の『未来を拓く学び・学校創造戦略』についてのパブリックコメントは3150件にも上った。今後、ICTは、一斉授業のためのツールから、個別学習や協働学習など様々なスタイルで一層進められることが考えられる。来年度予算は年末にかけて現在調整中であるが、政府としてはICTを一層推進していくという方向性は決まっている」と述べた。

  放送大学ICT活用・遠隔センターの中川一史氏は、講演「再検討!普段着のICT活用」の中で、「ICTはどう使うかが重要。現段階では日常的な活用までにはまだまだたどり着いていない」とし、主に一斉授業におけるICT活用アイデアについて豊富な事例を紹介。電子黒板研究校115校の成果については「全教室に整備されたことは重要。普及期においては、ボトムアップとトップダウンの両面が必要。初任者対象に普及していくべきか、管理職対象に普及していくか、各自治体において戦略を練る必要がある」と述べた。
 また、「今後はICTを児童生徒が使う場面にシフトしていく。ICTは、表現や議論のためのプラットフォームとして提供できるもの。すぐには難しいかもしれないが、オーソドックスな使い方にとどまらず、チャレンジしていきたい」と、今後の方向性を示唆した。

  東京工業大学監事・名誉教授でeスクール2010協議会会長の清水康敬氏は、「21世紀型スキルと教育の情報化」について講演した。
 清水氏は、21世紀的教育の6つの要素として、「主要科目の重視」、「学習スキルの重視」、学習スキルを発達させるために「21世紀的ツールを使用」、「21世紀的コンテクストについて教え、学ぶ」、「21世紀的コンテクストについて考え、学ぶ」、「21世紀的スキルを測る21世紀的な成績評価を行う」ことを挙げた。

模擬授業

【小学校社会】香川県丸亀市立城北小学校
【小学校社会】石川県金沢市立小坂小学校
【小学校国語】立命館小学校
【中学校理科】高知県いの町立伊野南中学校
【小学校算数】高知大学教育学部附属小学校
【小学校社会】徳島県東みよし町立加茂小学校

【小学校社会】デジタル教材・書画カメラ ―香川県丸亀市立城北小学校

地球儀・地図帳・デジタル教材・グーグルアース 各特性活かす

デジタル教材
▲ 書画カメラで地球儀をアップ。
どこを指しているのかが 右上ウィンドウでわかる。
デジタル教材

▲ デジタル教材で日本の最東端「南鳥島」を見る

デジタル教材

▲ グーグルアースで日本の領土を確認する

 香川県丸亀市立城北小学校の増井泰弘教諭は、小学校5年の「わたしたちの国土」の学習で、地球儀や地図帳、デジタル教材を効果的に提示し、日本の国土と周辺国について理解する授業を展開した。
 「児童にとって、地球儀や地図帳から得られる情報はあまりにも多く、どこを見たらいいのか、わからなくなってしまうことが多い。そこで、実物投影機や電子黒板を活用して資料をアップからルーズ、ルーズからアップと提示することで位置関係の理解を図り、テンポよく授業を展開しつつ情報の共有化を図ることに配慮した。
 また、『新しい社会デジタル掛図』(東京書籍)は、教科書の写真や資料が拡大提示されるだけでなく、さまざまな補助資料やコンテンツが用意されている。あらかじめどのようなコンテンツがあるのか、教材研究をしておくことが必要」と述べる。

「アップ」「ルーズ」でイメージ化

  増井教諭は、地図帳を書画カメラで撮影、拡大提示して、日本の東端である南鳥島の位置を確認した。次に「デジタル掛図」から南端である沖ノ鳥島の写真映像を見せたり、西端の与那国島、北端の択捉島を、グーグルアースを使い、アップからルーズにして提示し位置のイメージをつかみやすくした。それぞれの島の大きさは、グーグルアースを使って測定することもできる。
4つの端を確認した後は線でつなぎ、日本の領土を確認していく。

  模擬授業の終盤には大韓民国やロシア、中国、フィリピンなど周辺国との位置関係を確認。その後、「デジタル掛図」収録のゲームを使い、国歌を聞いてどの国かあてる活動で授業をまとめた。
 地球儀を拡大することで位置のイメージを持ちやすくし、地図帳を拡大することでより詳しい情報を知り、グーグルアースでは世界の中の位置関係や大きさのイメージを持たせ、デジタル教材で定着を図るなどそれぞれの機能を生かした授業をテンポ良く展開した。

 

 

 

 

 


【小学校社会】取付型電子黒板ユニット ―石川県金沢市立小坂小学校

「富士山が見えない県」の理由から地図の特性を学ぶ

デジタル教材
「取付型電子黒板ユニット」で
「地図掛図」(上)にも黒板(下)にも書き込みできる。
デジタル教材

 石川県金沢市立小坂小学校の小林祐紀教諭は、小学校4年生の社会科で、「石川県から富士山は見えるか」をテーマに地図帳を読み取る学習を展開した。授業の狙いについては、「小学校4年生の子どもたちは初めて見る地図帳を前にわくわくしている。地図の見方を楽しく教えることで、地図の情報量の多さを実感し、地図帳のことを大好きな子どもにしたい」と述べる。最初に大型の地図掛図(帝国書院)を提示、まず全員で富士山の位置を確認する。プロジェクターと取付型電子黒板ユニット(エプソン販売)を地図掛図にセットすることで、地図上に電子ペンで書き込みができるので、富士山の位置をはっきりと確認することができる。

投写面選ばず電子黒板に

  位置を確認した後、小林教諭は「富士山が見える県はどこだと思うか。地図帳を見て考えよう」と質問。生徒役の参加教員ら(以下、生徒)は、福島県、新潟県、三重県などと解答していく。小林教諭は、富士山は石川県からは見えないが隣の富山県からは見える点を指摘、その理由を、地図帳を見て考えさせた。生徒は「石川県と富士山の間に高い山がある」、「石川県には高い山がない、平地が多い」などと答える。
では、なぜ石川県には高い山がないとわかったのか。小林教諭は地図掛図をはずし、書画カメラを使って今度は地図帳を黒板に拡大提示、「地図は高さによって色が違う」点を指摘。「地図は平面だが高さや土地の利用方法など様々な情報が分かる」ことを示した。

  掛図を外しても黒板はそのまま電子黒板機能を保持できる点が取付型電子黒板ユニットの特長だ。黒板やスクリーンだけでなく、OHP用スクリーンや地図掛図などにも電子黒板機能を使うことができるメリットを活かした授業展開となった。模擬授業後は、投影面を選ばず自動でキャリブレーションできる新しいツールに注目が集まった。


【小学校国語】デジタル教材・DS―立命館小学校

個別学習の進捗や理解度瞬時に把握できるシステム

デジタル教材
各自取り組んだ漢字ドリル(上)の結果は
すぐに教員が把握できる(下)
デジタル教材

 シャープシステムプロダクトでは、「ニンテンドーDS」(以下、DS)に対応した教育ソフト「DS教室」を提供しており、立命館小学校の鳥島裕之教諭は、これらを個別学習や朝のモジュール学習に活用、成果を上げている様子を紹介した。「DS教室」については、いつもの授業スタイルを大きく崩すことなく反復学習を効果的にできることや児童一人ひとりの進捗をリアルタイムに把握でき、つまずきがすぐわかることから活用を開始。DS導入の成果として、子どもたちの理解度の把握の時間が短縮できる点、実施・回収・採点・返却などが一瞬でできる点、教材作成しやすい点、学習履歴を残すことができる点を挙げた。

  鳥島教諭は、朝のモジュールタイムで、オリジナルの四文字熟語教材を電子黒板に映して子どもたちになるべく早く読み上げさせ、その後DSでその漢字を学習する様子を模擬授業した。漢字学習では、すべての問題を正解すると問題がレベルアップする。時間になるとDSは終了するよう設定している。
教材は、エクセルで作成。画像や音声も簡単に入れることができ

 

 

 

 

 


【中学校理科】書画カメラ・電子黒板 ―高知県いの町立伊野南中学校

発表活動を通して育む生徒たちのICT活用力

デジタル教材
▲ シュミレーション画像に書き込みながら説明する。
デジタル教材

▲ 金星の満ち欠けを再現する。

 高知県いの町立伊野南中学校は、「地球と宇宙 太陽系」の学習において、3年生28名の生徒らが天体について調べた内容について、班ごとに発表した。
 安部教諭は、電子黒板に今日の授業の流れを提示。その後、各班は電子黒板を使って発表に入る。発表内容は「地球からの金星の観測」、「金星の満ち欠けの再現」、「地球から観測できる時刻と金星の位置」についてだ。

 最初の班は、地球から観測した金星は月のように満ち欠けし、かつ観測日により大きさが異なることから、地球との距離が変化していることが予測できると発表。
発泡スチロールと光源を使ったモデルを書画カメラで投影し、金星が満ち欠けする様子を再現、その理由について説明する班や、明けの明星、宵の明星の説明を通して地球から金星が見える時間を説明、金星が太陽の周囲を何か月もかけてまわっていると考えられる理由について説明するなど、電子黒板などを使った発表が行われた。
 その後阿部教諭はワークシートを配布。生徒たちは、課題「卒業式の日の火星、金星、水星の位置関係」について各自取り組む。その後、電子黒板にシミュレーション教材などを提示、説明しながら、答え合わせを行った。

 

 

 


【小学校算数】デジタル教材・電子黒板 ―高知大学教育学部附属小学校

電子黒板と教材の工夫で「わり算」導入スムーズに

デジタル教材
▲ 「割り算」導入用に「動く教材」を自作した。

 小学校算数において、わり算でつまずく子どもは多い。高知大学教育学部附属小学校の小松和久教諭は、小学校3年生の算数で、電子黒板を活用したわり算学習の導入について紹介した。「教科書の絵や図を大きく提示することは日常的な授業でよくやること。それが自由に動かせるともっと良い、と感じる場面がある。そこに電子黒板を使う」と話す。

  電子黒板には、1本の木とリスが6匹映っている。そこにきつねがあらわれ、リスたちは木に隠れる。「では、木が2本になったらリスたちはどんなふうに隠れるだろう?」と質問。きつねをクリックすると、2本の木に3匹ずつリスたちが隠れる。それを式で表現すると「3+3=6」、「3×2=6」であると示す。
 リスの数はどんどんと増えていく。「15匹のリスは2本の木にうまく隠れることができない、ではどうすればうまく隠れることができるだろう?」と進め、木が3本になればうまく同じ数になって隠れることができる、と「割り切れる」概念の理解につなげる。

  使用したのは「スクールプレゼンター」(内田洋行)のスタンプ機能を使って作成した自作教材だ。
きつねやリス、木などを使い、自分の授業のイメージにあわせた教材を作成するときに役立つと小松教諭は述べた。


【小学校社会】デジタルクリップ・放送番組 ―徳島県東みよし町立加茂小学校

伊能忠敬の地図が精巧な理由を「教材視聴」で発見

デジタル教材
▲現在の地図と忠敬の地図を重ねて表示、
比較する。
デジタル教材

▲ 16世紀の世界地図に興味津々。

 伊能忠敬が作成した地図はなぜ正確なのか。
 徳島県東みよし町立加茂小学校の石井芳生教諭は、小学校6年生の社会科の学習で、伊能忠敬の地図の秘密を、NHKデジタルクリップや放送番組を視聴、視聴シートにまとめ、発表し合う活動について紹介した。
 まず石井教諭は、伊能忠敬の地図がどれ位精巧にできていたかについて、その精巧さを視覚的に理解できるように実際の地図と重ねて電子黒板に提示した。

  「なぜ歩き回るだけでこれだけ精巧な地図ができたのか」を課題とし、NHKが無償で提供するデジタルクリップを見せた。デジタルクリップでは、伊能忠敬が一定の歩幅で歩く訓練をしていたこと、距離と方角を細かく測定したこと、夜は北極星で自分の今いる位置を確認したこと、地図の作成を始めたのは56才からであり、これらの作業を17年間続けたことなどが説明されている。クリップ視聴後は、NHKのウェブサイトからダウンロードできる「視聴シート」に記入する。石井教諭は、クリップやビデオをただ見るだけではなく、目的をもって見、それについて考えをまとめ、発表させるために視聴シートを役立てている。

  NHKでは、500本の番組、3000本のクリップ動画を提供している。模擬授業を見た教員らは、「デジタルクリップはすぐに授業に役立ちそうだ」と感想を話していた。

 

 

【2010年12月4日号】


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