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地域・家庭・小中学校 ―文科省が実践報告
学力向上は"連携"から

"学び合い"につながる" 学力向上"体制づくり

 1月18日、文部科学省は学力向上実践研究推進校(小・中学校)連絡協議会を開催し、平成20年度より学力向上に取り組んできた51都道府県・指定都市の学力向上実践研究推進校から4校が実践を報告、74校がポスターセッションを行った。昨年の事業仕分では、全校対象とした学力テスト調査は不要とされていたが、各学校の取り組みは評価基準としては全国学力テスト結果を活用している学校が多く、その活用状況の高さが明らかになった。

"PDCA"から"DCAP"へ 余剰100時間で学力向上 ―東京都東村山市立大岱小学校

"教え上手"から"学ばせ上手"に ―埼玉県・越生町立越生中学校

"自学の時間"設定で家庭学習につなげる ―秋田県・美郷町立千畑中学校

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▲学力向上の取組みが多数発表された

 

"PDCA"から"DCAP"へ余剰100時間で学力向上 ―東京都東村山市立大岱小学校

 西留安雄校長は、「新学校システム」の構築に取り組んだ。「これまで様々な学校で学力向上に取り組んできたものの、研究が日々の指導につながっていかないなどの課題があった。そこで教員全員が参加し、日々の授業改善に資する校内研究に取り組むためにはこれまでの学校の常識を破り根底から変革していく必要があると考えた」と話す。

  新学校システムでは、PDCAではなく、DCAPサイクル(=プランしてから行動するのではなく、D=行動してからC=チェックしてA=改善、P=プランを立てる流れ)を提案、取り組みを進めた。

  この流れを確立するために、職員会議や部会等の会議をほぼ廃止、それに代わり1人一役による校務分掌で運営する。各行事や授業などの反省会は、行事等の実施直後にワークショップ形式で行い、担当者は来年度の方針をすぐに起案する。これにより、教員1人1人の責任感や学校運営参画意識が生まれた。

  保護者会や三者面談、会議などは長期休業中に行う。平日会議の廃止で授業時間が確保された。授業は必ず毎日5時間行うようになり各学年とも年間100時間以上の余剰時間が生まれた。

  さらに15時以降は放課後学習を実施する。基本的に自主参加だが参加率は高く、1時間から1時間半程度の学習時間が確保された。

  ここまでが、学力向上への取り組みとして、時間を捻出するための土台=体制作りだ。この「新学校システム」を土台に、次に取り組んだのが学力向上に資する「新校内研究システム」だ。

  これまでの校内研究の課題「全教員が研究授業をしていない」、「校内研究の形式化」、「研究が日々の指導につながっていない」を解決するために、授業にも「DCAP」を取り入れた。理想とする授業を「教師の出番が少ない、子ども同士の対話で進めていく授業」とし、全員が模擬授業をしてからワークショップ形式でチェック、改善点を検討し、次回のプランを練るという流れだ。

  理想とする授業を実現するための3視点として、「言葉わざ」、「学び合い」、「振り返り」に着目。「言葉わざ」は、「学習のねらい達成に必要な言語技能」と「話し合いに特化した言語技能」に分類して、各授業でこれらが育まれる活動を盛り込んでいく。

  振り返り学習の指針として、全学年でノート指導を行う。低学年は「学びのこうかんびん」、高学年は「学びの貯金ノート」を作り、一日の振り返りや今後の課題について書く。年間の集大成としてノートコンクールも実施。優秀なノートには表彰もする。

  全国学力テスト調査や東京都の学力調査結果を受けた補習などには全教員であたった。補習は「セカンドスクール」と呼び、金曜日の放課後行う。個別指導や学校独自のドリルなどに取り組んでいる。

  これらの成果は全国学力テスト調査結果に顕著に表れた。全国平均はもちろん、東京都平均も大きく上回る結果となった。

  西留安雄校長はこれらの取り組みについて「いちばん苦労したのが教員の意識変革。最初は教員の反発から始まった。スタート当初は資料を大量に用意した」と、スタート当初が最も大変であったと話した。

  文部科学省・教科調査官の田村学氏は同校の実践について「学校づくりに成功すれば学力向上につながるという好例。全員ができるようにする体制づくりで時間が生まれ新たなチャレンジが可能になり成果につながるというシナジー効果が生まれた。ここまでやれば大丈夫ということがないのが教育。常に検証とバージョンアップが必要で、限りない自己変革意識が学校改革と成果につながった」とコメントした。


"教え上手"から"学ばせ上手"に ―埼玉県・越生町立越生中学校

 越生町教育委員会では、越生中学校の研究委嘱事業に伴い、各学校の教頭、主幹教諭(教務主任)、研究主任、教育委員会事務局からなる学力向上実践研究推進委員会を組織し、学力向上には、小・中学校の連携が不可欠であると考え研究を進めた。特に、越生小学校では、算数の校内研究を、梅園小学校では、国語の校内研究を進め、中学校と一貫した指導ができるよう連携を図っている。

  越生中学校では、学力向上の基礎は「徳」と「体力」であるとし、小中連携や家庭との連携による地域ぐるみの取り組みで成果を上げた。

  全国学力テストや埼玉県独自の学力テストなどで生徒の実態を把握したところ、学力の二極化が進んでいることがわかった。

 題を生徒の学習意欲が不十分であること、家庭学習時間が不足していることにあると分析。課題を解決する校内体制として、主に授業研究や学び方指導にあたる「学力向上推進部」(7名)、生活全般に取り組む「生活向上推進部」(4名)、家庭学習の定着を図る「家庭連携推進部」(3名)を置き、各部局がきめ細かく推進した。

学力向上推進部

  「学力向上推進部」では、ひとりで学習できるようにするためのノウハウを教える。各教科において身につけたい力、学習の進め方、成績の付け方、目標、学習内容を見直し、教員、生徒、保護者への共通理解を計った。授業規律や家庭学習については、子どもたち、保護者それぞれにアドバイス。家庭学習の具体的な方法などを提示し、教師、子ども、保護者の共通理解を図った。

  これらひとつひとつの細かい積み重ねが奏功し、平成22年度全国学力テストでは国語、数学とも県平均を上回った。

生活向上推進部

  学力向上のためには基本的な生活習慣が欠かせない。そこで「生活向上推進部」では規律ある態度育成に取り組んだ。

  朝読書などの時間も教員が教室に待機、子どもたちと接する場を増やし、積極的な生徒指導に取り組んだ。また、けじめと規律ある態度の育成のために、3つの「あ」を推進した。3つの「あ」とは、「あいさつ」「あしもと(の整頓)」「あとしまつ」だ。

  学力向上の土台のひとつである「体力」向上に向けては、体育授業や部活動を充実し、新体力テストでは平成21年度に大きく向上し、過去4年間の県平均を大きく上回る結果となった。

家庭連携推進部

  学力向上には家庭との連携も不可欠なことから「家庭連携推進部」は、家庭学習をする理由や方法、各教科での具体的なやり方や主なQ&Aを冊子にまとめて配布した。

  生活習慣についても担任が把握できるよう、家庭学習の内容と時間を記入する「生活記録カード」を作成。これらの取り組みにより、平成22年度には、家庭学習時間は前年から2時間以上増えた。また、「自分から進んで発表することができる」と答えた生徒は48%から70%にまで増えた。

教育環境も向上

教育環境も欠かせない。校舎の木質化、トイレ改修、体育館改修、2学期制による授業時間確保なども学力向上につながっている。

様々な取り組みから保護者が愛校心を持つ「学校応援団」となり、学力向上につながった。

  富山調査官は、「本来教え上手である教員に学ばせ上手の側面が加わり、自ら学ぶ力が育まれた。学習指導案に『既習事項』と『生徒の学習実態』を盛り込んである点を見習いたい」と評価した。

 

"自学の時間"設定で家庭学習につなげる ―秋田県・美郷町立千畑中学校

 千畑中学校の特長は「自学の時間」の設定だ。自学の時間は、授業や家庭学習を連携させる試みで、学習習慣の定着を目的としてスタート。帰りの会で家庭学習に取りかかり、その続きを家庭で行うというもの。スタート当初は10分間であったが、今年度からその時間を6時間目終了後の15分間を使っており、時間割にも組み込んだ。

  学習スキルの向上については、発達段階に応じた「聞く・話す・書く・読む」力の目標をきめ細かく設定した。例えば1年生で育むべき「聞く力」は「話す人におへそを向けてよく見て聞く」、「最後まで話を聞く」など。中学校2、3年生で育むべき「聞く力」は、「相手の意図を捉え、自分の考え方と比べながら聞く」などだ。これら学習スキルの向上のための基礎を国語科で培い、他教科で育み、年3回自己評価も実施した。

家庭・地域との連携も

  4月の保護者会では家庭学習を題材にし、家庭と学校の連携が主体的な学習者を育てることや学習習慣確立には家庭での働きかけが不可欠なことについて周知。家庭学習の手引きには小学校1年生から中学校3年生までの9年間にわたった家庭での取り組みと目指す子ども像をまとめた。

 【2011年2月5日号】


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