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韓国デジタル教科書事情

ITの教育活用は社会的な共通認識

 3月8日、日韓のデジタル教科書について報告、討論し合う「デジタル教科書ラウンドテーブル」(第2回)が関西大学ミューズキャンパスで開催された。討議の中から韓国のデジタル教科書事情と動向についてまとめる。

◇ ◇ ◇

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▲韓国のデジタル教科書が披露された

  韓国からの参加者は、韓国における教育の情報化を担うKERISでデジタル教科書に関するプロジェクトを担当しているリー・キューサン氏、ソフトウェア開発を手掛けるハンコム社のキム・スン・ソ氏、KERISと協力して教育工学の立場からデジタル教科書に関わる調査、研究を行うクォン・スンホー教授(漢陽大学教育工学部)ら。総合司会は黒上晴夫教授(関西大学総合情報学部)。

 リー氏は「韓国では、印刷物では社会の変化に追いつけないことから、その限界を乗り越えるための方策としてデジタル教科書の開発が進んでいる。これはデジタルネイティブに適した教育の提供とも言える」と述べる。

  韓国の教育の情報化は日本よりも10年以上進展が早いといわれている。

  それについてクォン教授は「実験校130校の中で最も成功している学校の事例と、その成功を一般的な学校に浸透させていくのはまた別な話」としながらも、「ハイテクノロジーを積極的に教育で利用しようという姿勢は韓国の文化的な姿勢。そのため政策方針の決定や実施のペースが速い。実証実験上で多少の失敗があったとしても、デジタル教科書を始めとするテクノロジーを教育活用していくという政策方針は揺るがない点も特長。韓国において、教育を受けることはハイテクノロジーに触れる機会を提供することであり、テクノロジーの教育活用は社会的に肯定されている。これらの要因から韓国のデジタル化が成功しているように見えるのでは」と述べる。

  進展の早さから、場合によっては予算を余計に使う場合もあり、「日本のように一歩一歩進んでいく姿勢のメリットもあると感じる場合もある」と言うが、研究開発のための予算という割り切り方には日本も見習うべき点はありそうだ。

長期的・段階的な研究を推進

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▲教科書画面は4分割構造で部分ごとに拡大できる

 韓国では政府方針が決まってから年数をかけ、段階的に研究を進めている。4年間の基礎研究を経、デジタル教科書を開発、それを実験校で活用し、効果分析や円滑に進めるための環境の検証には4年間かけた。研究では結果的に9種類のプロトタイプを作成した。小学校4年生の科学と社会、5、6年の数学、社会、科学、中学1年生の科学と英語などだ。2013年からは、商用化できるデジタル教科書の作成を計画している。

 実験校において効果検証は常に行っている。

  現在は、所有認識、メタ認知、自立精神、内発的動機の有無や、問題認識力、情報収集力、分析力、意志決定力、企画力、実行力の育成などいくつかの観点で、デジタル教科書と紙の教科書の効果を検証中だ。これらの評価基準もまだ確定したものではなく、今後変わっていく可能性は高い。

  また、政府方針は揺るがないものの、波はある。

  デジタル教科書については2007年に盛り上がり、現在落ち着いている段階だ。コンテンツはまだ不足しておりどのように今後デジタル教科書を発展させていくべきかの確信はまだないとクォン氏は言う。

  ハイテクノロジーを教育導入する目的を、最終的にどこに設定するかについても検証中だ。地域差をなくす目的でサイバー家庭学習を進めるのか、競争緩和のために進めていくのかなど、様々な可能性を考えながら研究を続けていく考えだという。

デジタル教科書のビジョンは 未来を準備できる人材の育成

 リー氏は、デジタル教科書のビジョンを「未来を準備できる人材を作る」ことにあると述べる。

  韓国のデジタル教科書は現在、紙テキストをデータ化したものを基本プラットフォームとし、そこに辞書やリンク、動画などのコンテンツを追加する形式だ。各学年、各章、レッスン別に分かれており、フォルダ管理されている。教科書画面は4画面に分割できるようになっており、それぞれ拡大して見ることができる。フラッシュやサウンドファイルのほか、ノート機能やメモ機能などもある。

  基本的な構造として、コンテンツは基本的にサーバにアップし、学習者はダウンロードしてそれを使う。学習者がデジタル教科書上に書き込んだものは、サーバやUSBメモリなどに保存できるようにし、管理者は各学習者を評価できるようにする。

 講師と学習者の区別はログインにより区別し、講師用コンテンツには講師用マニュアル、評価ツールなどを用意する。さらにネットワークがダウンしても授業が中断しないよう、オンライン版とオフライン版両方を用意する。

  紙テキストをデータ化したものを基本プラットフォームとした形式についてクォン氏は研究者の立場から「デジタルである良さを最大限生かした形式とはいえない」と、さらなる開発への意欲を見せる。

  リー氏は今後のデジタル教科書について、学習者自身の水準や要求に従い、自分にとって有用な教科書を自分で編集していく方向になると示唆する。

  既存の学校に導入する際の無線LANや設置端末など、活用して初めて生じる問題もあるが、技術の進歩により問題点は解決していくと予想しており、今後は、プラットフォーム開発ではなく各コンテンツ開発に注力すべきであると考えている。

  なお教科書をすべて一気にデジタル化するか、あるいは少しずつデジタル化していくかについての方針はまだ決まっていない。

  また、韓国の実験校では主にタブレットPCを活用していたが、普及段階では端末の値段も考慮に入れる必要がある。そこでスレートPCの活用なども視野に入っているという。

  「方針」を礎とし、研究を進め、効果検証を行う。テクノロジーの発展や市場の動向次第で柔軟に対応していくというのが韓国スタイルと言えそうだ。

【2011年4月4日号】


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