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特別支援学校34校でiPadを活用〜魔法のふでばこプロジェクト

「魔法のふでばこプロジェクト」の成果報告会

 1月21日、東京大学先端科学技術研究センターで「魔法のふでばこプロジェクト」の成果報告会が開催された。本プロジェクトでは昨年4月から1年間18都府県の特別支援学校34校に100台のiPadの無償貸出が行われている。当日は創意工夫に富んだ様々な取り組みが報告された。

 本プロジェクトは、iPadを特別支援学校で活用し、その具体的な事例を研究・公開することで、ICTを活用して障がい児の学習を支援する「学習のバリアフリー」に向けた取り組みを促進することが目的。

  本年3月で終了し、その成果は成果集としてまとめられる予定だ。なお、4月からは児童と支援者の先生に2台のiPadを無償で貸出す「魔法のじゅうたん」プロジェクトが実施される(募集は終了)。

【基調講演】
障害のある子どもと社会を創る時代に ――東京大学・中邑賢龍教授

  現在、何が標準か、不明確な時代になっている。障害の定義も、機能形態障害、能力障害、社会的不利という三重講造ととらえるICIDH(機能障害・能力障害・社会的不利の国際分類)から、身体的機能構造と活動参加の障害があるとするICF(国際生活機能分類)へと変わった。テクノロジーを取り込んで生活しているハイブリディアンの時代、先端技術が簡単に使える時代だ。現在の電動車いすは生身の人間が移動するよりずっと早く、楽に移動できる。テクノロジーを活用することで、障害を克服するだけではなく、その活用によっては優位に立てる時代になったとも言える。

  こうなってくると、配慮の合理性を考えないといけない。現在は、障害のある人が技術を用いてエンパワメントすることを、不公平だとする傾向がある。大学入試で解答するためにワープロソフトを使いたいと申し出たら、マウスで文字を書いてくださいと言われた例もある。しかし、障害のある人にとってPCは筆記用具なのだ。技術を活用し、障害のある子どもと共に社会を創る時代が始まっている。

【事例発表】
愛媛県立松山聾学校

  同校では、本来は筆談をするために用いられる「筆談パット」を小学部における文字の書き取り学習で活用。教師と児童が対面で使用し、児童の書いた文字や答えに応じて、教師が赤字で訂正や丸印を付けるなど、即座に目に見える形での指導や支援を行うことができる。

  声量が目に見えて分かる「Noise Level」は自分の声量のコントロールが難しい聴覚障害児にとって、自分の声量への意識が高まり、コントロールもしやすくなる。

佐賀県立金立 特別支援学校

  動作、操作性に課題を持つ児童が多く、iPadの操作とその結果生じる変化や関連性の理解にも課題がある。金立特別支援学校では、こうした児童がiPadを操作できるようなユニークな工夫を行った。指先以外の部分がタッチパネルに触れてしまうことで誤動作が多かった児童には、指先を切り落とした手袋をはめさせた。この手袋を使用することで、この児童は初めてなぞり書きができるようになり、誤動作も少なくなった。

  また、座位保持椅子に座った児童が頭に装着するポインタも作成した。これは金属製のハンガーを伸ばし、その先端に伝導スポンジをつけたもの(写真)。児童は頭を動かして、自分の意図するものをポイント操作で選ぶことができるようになった。

安来市立赤江小学校

  特別支援学級6名の児童に対して、様々なアプリケーションの機能を用いて学習を支援した。

  4年生のある児童は個別指導により、3年生の教科書を読んで理解することや漢字の読み書きはできるが、文章の中ではなかなか使えなかった。語彙が少なく、読めてもイメージできないことがある。また、書き順を間違えて覚えているものが多かった。個別学習の中で指導してきているが、定着が進まない。そこで手書きによる文字入力のアプリ「7notes」を利用して、漢字がわからない時自分で調べて解決につなげるように支援。辞書アプリの場合は「食べる」「行く」などでないと表示されず、「食べました」「行った」といった表現では調べられない。しかしこのアプリを使うと、幾つかの候補が表示され、その中から正しい漢字を選ぶことができる。

  書きの苦手さを抱えている1年生の児童は、文字は読めるが、読むことにあまり意欲的ではなく、繰り返すことを嫌い、学習に困難を伴っている。ひらがなが全部書ける状態で入学してきたが、線の方向性やつながりが間違っているものが多い。また、マスの中に文字を収めることができにくい、左利き、という特徴をもっている。
そこで「ナゾルート」「モジルート」というなぞり書きの練習をするアプリを使うことで、線の方向性やつながりを、視覚・聴覚の刺激を入れながら確認できた。また、書いたものを動画として記録再生できる「おえかきキロク」を、どのように文字を書くのかを確認するために使用したところ、どんな間違い方をしているのかがわかり、学習に生かすことができた。

三重大学教育学部 附属特別支援学校

 表出言語が少なく、見通しが持てないことに対する不安が強い高校1年生の男子。彼はPC操作に興味があり、自分の好きな絵や写真の個展を開きたいと考えており、文字盤を押していくことで会話やメッセージを作成し喋らせることができるアプリ「トーキングエイド」を用いて、自分の意見や気持ちを表現できるようになった。さらに関係性が悪くなっていた父親と直接的なコミュニケーションではなくiPadでメールを通してやりとりをする機会を設けたところ、父親との関係が好転してきた。

【2012年2月6日号】


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