健康教育で大切なこと<後編>

辞書を引ける子を育てるために

竹下君枝主幹教諭

「学校保健」文部科学大臣賞を受賞
東京都立新宿山吹高等学校
竹下君枝主幹教諭

 昨秋の全国学校保健研究大会で行われた、文部科学大臣表彰の一人、東京都立新宿山吹高等学校(飯山昌幸校長)の養護教諭・竹下君枝さん(主幹教諭)へのインタビュー後編。後編は、前任の都立九段高校での活動を紹介する。

◇     ◇

データで示すことで 健康状態を認識する

  九段高校に着任して間もなく、保健委員会の委員長と副委員長を保健室に呼んだ。「この学校の生徒は病んでいる。保健委員会として何かしなくていいの」、そう問いかけた。生徒の心と体の健康状態が良くないと感じたのだ。

  もちろん、その言葉には「生徒に自分たち自身のことを考えさせる」というねらいがあった。健康づくりの第一歩として、まずは生徒の気づきを促すことから始めた。

  その時、その後の動きは考えているが、まずは見守る。自身の手元にデータを揃え、生徒の動きを待つ。「データはとるだけではなく、東京都や全国の情報を用意しておいて、比較できるようにしておきます」。しかし、用意したデータはすぐに生徒には渡さない。自分たちで何ができるか考えさせ、「何をやったらいいのかわからないので教えてください」と困った時に、それを差し出す。保健委員会は、全校生徒の健康状態を把握するために、データをとることになった。

  「私は顧問として存在しています。あくまでも、生徒が自分たちで企画して自分たちの健康を考えていると思い込むように仕掛けることが大切です」。その仕掛けは、体育祭でも力を発揮していくこととなった。

  当時、体育祭は当日だけでなく練習期間もケガや熱中症が絶えなかった。保健委員会が行った実態調査で、睡眠不足や疲労など様々な理由が見えてきた。そして、練習も本番も休憩時間や水分補給など、生徒は自分たちで答えを見つけていった。

  そうして、体育祭のグループ「団」の副団長が健康係となり、団員の健康状態を把握。最終的には、練習も含めケガは0人になった。

  「養護教諭は保健室で吠えているだけではいけません。誰にでもわかるようにデータで示すことが大切です」

生徒自身が課題を見つけ 健康課題の解決に

  やがて、九段高校の「健康教育週間」が始まった。保健委員会とは別に、有志で健康教育プロジェクトチームを作り、実態調査を基に自分たちの健康課題を見つけ、講座を設けていく。心の問題、体の問題と様々。プロジェクトチームは、講師依頼から当日の運営など、全てを行い、それはマニュアル化され、次の学年に引き継がれていく。学年同士の交流は、互いの成長にもつながった。

  楽しそうな生徒の姿を見て、保護者も加わった。仕事をしながらのPTA活動は、どの学校でも担い手が少なく困っているだろう。だが、「子どものためにやることで楽しかった」という保護者が増えた。学校保健委員会の活動も年3回と活発になり、学校関係者全員が健康問題に関心を抱くようになった。

人間関係を大切にし「つながり」をつくる

  来年3月で、定年を迎える竹下養護教諭。後輩養護教諭へのアドバイスを請うと、「普段の人間関係を大切にし、学校関係者や保護者の集まりにも面倒だと思わず顔をだしてほしい」と話す。

  実際、先日行われた竹下養護教諭の文部科学大臣表彰の受賞を祝う会には、学校保健関係者だけでなく、様々な立場や職業の人が駆けつけた。この人間関係は、講師依頼など思わぬところでつながっているようだ。

  竹下養護教諭は「あれ?」と思ったことは何でもやってきた。全ては生徒のため。「例えるなら、辞書を引ける子を育てたい」。生徒が生きていくために必要なのは自分の力で、養護教諭はそのサポート役の一人。「手抜きをせずに、今日を一生懸命に」。明日もこの気持ちで、笑顔で保健室にいるはずだ。

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【2013年2月18日号】

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