連載

第9回 【教職員のメンタルヘルス】心の悲鳴に耳を傾ける

新生活のスタートで転ばないために

転任者を"孤独"にさせない "同調"することの重要性

 学年末になると、今年度のまとめ作業とともに異動の時期を迎え、教員たちは気分的になかなか落ち着かないようです。そこで今回は、予防の意味も込めてメンタルヘルスの観点から異動の際の当事者と学校側の具体的な対策のいくつかをご紹介したいと思います。

転勤先での不安

 まず転勤先においては、休職にまで至るような様々な不安材料が待ち構えているということです。

 「知らない地域に入り」、「子どもや保護者の情報も得られないまま」、「信頼できる同僚もいない」、出来上がった職場に異動になるのです。些細なことですが、コピー機の使い方がわからないとか全校集会の並ばせ方をどうしたら良いのか戸惑ってしまう等々。

気持ちを後押しする 精神的な支えが必要

 今年、転勤先で休職に入ったA先生に「どのような点でこの学校ではやっていけないなと感じたのですか」と聞いてみると、例えば、子どもの指導に関して保護者からクレームを受けた際に、自分としては正しい指導をしているつもりでも、一方ではこの指導で本当に良いのかどうかを確かめるすべがないので不安で仕方がない。そんな時に、同僚や管理職からから「あなたの指導は間違っていないから」とか「何かあったら私たちも出ていくから」など"気持ちを後押ししてくれるようなひとこと(働きかけ)"があれば、精神的に追いつめられることもなかったかもしれません。

 しかし、このA先生の場合には、職場のバックアップがなかったために"独りで"戦って燃え尽きてしまったのです。
このようなケースでは、どのような対処が考えられるでしょうか?職場のバックアップ体制を視野に入れながら、以下の3点について考えてみましょう。

転勤者を支援する体制

 (1)転勤して1学期くらいの間は、なかなか信頼できる同僚が見つからないのが一般的です。そんな時は、元の職場の同僚や、同期の教員仲間等、「学校外に」愚痴をこぼせる相手を確保することです。その際「相手の迷惑にならないかな」と遠慮して、自分で問題を抱え込む人ほどメンタルを悪化させているようです。

 (2)新年度最初の出勤日に、歓迎の意味を含めてお互いの"人となり"を知るための時間を設定して"緊張感をほぐしてから"仕事に取りかかることをお勧めします。そこには2つねらいがあります。

 1つは小グループになり、「こう見えても私は○○の資格を持っています」や「私の家には犬が5匹もいます」のような要領で、自分の情報を事前に開示しておくことで共通点や新たな発見を通してお互いの距離感が近くなるからです。
2つめは、新しく赴任してきた教員に対して、その学校の生徒指導におけるルール(やり方)や教育機器の使い方等をレクチャーしておくのです。"人"に慣れると共に"環境"に慣れることも転勤者にとっては大切な要素なので、大切にしてほしいものです。

  (3)転勤1年目の教員に対して、元からその学校にいる教員(転勤経験者ならなお良い)を1人世話役として手配することです。学校の規模により適任者が見つからない場合もあるかもしれませんが、主な目的は、転勤者を孤独にさせないことを含む精神的なサポートです。休職者の話によれば、新しい職場の中に、もう一人、自分の考えに同調(賛同)してくれる教員がいれば、倒れる(休む)ことはほとんどないそうですから。

  年配教員であっても転勤は一大事、人間関係はうまくいかない所からスタートですから。

執筆=土井一博(どい・かずひろ)日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事長、川口市教育委員会学校教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー、順天堂大学国際教養学部客員教授(教職課程)

【2014年3月17日号】

関連記事

連載

<<健康・環境号一覧へ戻る