【校務の情報化】教育の質向上に貢献する環境を

 

関西地区初の大規模整備 全市共通の仕組みを構築 ―西宮市教育委員会

センターサーバ方式で通知表を完全電子化

校務の情報化 校務の情報化
学校情報システム課
星川雅俊課長
学校情報システム課
谷口麻衣係長

 兵庫県西宮市は平成23年度から24年度にかけて、センターサーバ方式による通知表・指導要録の電子化を小・中学校全60校一斉で推進している。関西地区の校務の情報化は比較的進捗が遅いと言われており、西宮市の大規模一斉整備は関西初の試みと言える。西宮市教育委員会・学校情報システム課の星川雅俊課長と谷口麻衣係長に推進の経緯と成功のポイントを聞いた。

補助金の活用が
大規模整備のきっかけになった

  西宮市では平成14年度より、総務省の地域イントラネット基盤施設整備事業の補助を受け、平成15年度中に全校をつなぐ強固なネットワークを整備した。

  ネットワークの学校活用に向け、校務情報化の具体策について検討を始めたところ、平成21年度にスクール・ニューディール政策がスタート。そこでの補助を受け、小・中・高・特別支援学校全64校(小学校41校・当時、中学校20校、高等学校2校、特別支援学校1校)に校内LANを整備、すべての教員・事務職員に校務用PCを配備、小学校普通教室を中心に50インチ大型デジタルテレビやプロジェクター等も整備した。

校務情報化

校務情報化「西宮市校務支援システム
利用の手引」(一部)
改訂は毎年行っている

  「各校の独自予算で校務処理を行っていた時期は、教職員の異動ごとに新しい仕組みを覚える必要があった。その非効率的な仕組みを是正するため、全市一斉で共通の仕組み作りに着手すべきであると教育長以下意見が一致、準備を進めていたこともあって、スクール・ニューディール政策でできるものは一気にICT化していこうと、いち早く手を挙げた」と、当時学校教育グループに所属していた星川氏は話す。しかし、「校務の情報化を全市一斉で整備するという方針は決まっていたものの、学校数が多く、何から手をつけて良いのか、当初は難しかった」という。

  その中で導入をスタートした校務支援システムが「EDUCOMマネージャーC4th(シーフォース)」(以下、C4th)だ。

学齢簿と連携し
出席簿を電子化

  C4thは既に西宮市で稼働している種々のシステムと連携を進めながら導入・活用した。

  まず平成22年度から児童の出席簿の電子化を開始。西宮市では住民情報から学齢簿を作成しており、それをC4thと連携させ、学齢簿が書き変わるとその変更内容が自動的にC4thで確認できるようにした。これにより出席簿を始めとする名簿関連の電子化が一気に進んだ。

  さらに平成23年度からは2年計画で、通知表及び指導要録の電子化を進めた。

  通知表は各学校の特色化を図るよう指導しているが、C4thならば電子化しても、学校独自の工夫や教育意図を最大限反映されたレイアウトでカスタマイズが可能だ。

センターサーバ方式で
通知表を完全電子化

  市では小中学校の評価の総括手順の統一に着手しており、市独自の成績処理システムとC4thの通知表システムを連携できるようにした。
昨年度一年間運用後のアンケートによると、出席・欠席などの集計作業にかかる時間は、月末で教員1人あたり平均23分減、学期末では平均37分減であったという。出欠席の統計データは通知表や指導要録にそのまま反映されるため、「転記し直し」や、それに伴う「原本確認」作業はほぼゼロ。データを集めて整理する時間も激減、担任が児童生徒1人ひとりに対する所見を吟味する時間が増えたという。

教員のICT
スキルも向上

  導入当初はきめ細かい研修やヒアリングが必要だが、実際に運用が始まると、従来の校務作業と同様、かなりの作業がOJTで浸透していく。全教職員に校務用PCが配備されていなかった時期、西宮市の教員のICTスキルは兵庫県平均以下であったが、現在は兵庫県及び全国平均を超えており、ICTの授業活用も連動して増えている。学校現場と連携しながら教育委員会が積極的に率先していくことが成功の鍵と言える。

情報漏えいなど
事故がゼロ件に

  スムーズな導入・稼働のコツについては、「運用して初めて良さが理解できる部分が多々あるとはいえ、初期の見せ方はやはり大事。まずは、簡単だ、と思ってもらえるように理解しやすい場所から段階を追って説明すること。一度にすべて説明すると、混乱してしまいがち。さらに重要なのは、教育の質を上げるために必要な導入であるという点の認識を図ること」と話す。

  西宮市ではセンターサーバ方式による教員認証システムを導入しており、これもC4thと連携させている。

  IDによるログイン管理のため、市内間で異動しても、それまでの学校で作成した教材や指導案などのデータは全て引き続き活用できる。USBなどの移動用メディアを活用する必要がなくなり、平成23年度のデジタルデータの情報漏えい事故はゼロであった点も、教育の情報化の推進をさらに後押しする要素と言える。

保健情報も
同時に電子化

  学校保健情報の電子化は校務の情報化のもうひとつのポイントだ。

  西宮市では、子どもの健康診断結果を学級担任が入力するケースが多いが、この校務支援システムの導入を機会に、一気に電子化が進んだ。
健康情報と出欠情報、保健室来室情報などの連携によって、休み明けあるいは特定の行事前に休みやすい子など、データを分析できるようになる。目的をもってデータ分析し、それを指導に活かしていくことが今後の目標のひとつと言える。

  電子化により効率化を図ることができる業務は多々あるが、現場の当事者は、その方法に気づきにくいもの。教育委員会としては、そこに刺激を与えつつ業務フローを精査してさらにシステムの洗練化を図っていきたい考えだ。

■西宮市の環境と支援

  兵庫県西宮市では、平成21年度に行政職2名、教育職2名からなる「学校情報化推進グループ」を新設。サポートデスクを設置して支援環境を整え、平成21年10月にはワンストップ体制を整えた。

  教育CIOは西宮市長、教育CIO補佐は教育長、学校CIOは、各校の校長・園長だ。さらに具体的な事務をする役目として学校CIO補佐2名を設置。うち1名は事務職員、もう1名が教員だ。

  教育CIOを市長が兼ねることにより、教育委員会だけでなく、市長部局の情報政策部などと連携して情報化を推進できるという。また、平成20年度には文部科学省の「教育情報化総合支援モデル事業」を受け、ICTサポーターによる授業支援を開始した。

  ネットワークインフラについては、市の情報セキュリティ指針に基づき、校務系ネットワークと教育系ネットワークを整備。校務系ネットワークは校務支援システム等個人情報を扱うためのネットワークと、インターネット閲覧やメールなどができるネットワークを切り替えて運用している。

  教育系ネットワークは、授業で利用するネットワークだ。全普通教室、特別教室でネットワークを利用した授業ができる環境を整えている。

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