全国初・学校給食に金芽米を導入―徳島県石井町

「精米方法」を変えたお米で子供の健康と環境保全を両立

徳島県石井町
金芽米を週4回の米飯給食で食べている

成長著しい児童生徒の身体を作る一端を担っている学校給食。日に1食とはいえ、喫食回数は年間約190回、小中9年間で1700回余りとなる。学校給食は食育の教材としての役割も担うことから、身体作りに貢献し、かつ地元や地域、日本の農林水産業を学ぶきっかけ作りに役立つことも望まれている。徳島県石井町ではその思いを実現するために、全国で初めて学校給食に「金芽米」を導入した。





町民を思う首長の決断

■健康課題を考え「米」に変化を

白川光夫町会議員
白川光夫町会議員

導入に至ったのは、同町議会の文教厚生常任委員会委員長の白川光夫議員が、朝食欠食や不登校、低体温児が増えつつあるなど子供達を取り巻く状況を懸念し、様々な自治体の取り組みを学ぶ中で、食にも関係があるのではないか、何か行動したいという強い思いがあったからだ。

当初、お米を玄米に変えたいと白川議員は考えていたが、炊飯器の変更などの課題があり断念していた。

■"精米方法"の違いが 米に影響する力

そのとき白川議員の目に留まったのが、「米ヌカとでんぷん層の間に存在する『亜糊紛層(あこふんそう)』と呼ばれる組織に、免疫力に影響する成分が多く含まれていることがわかった」という香川大学の研究をクローズアップした記事(H25年7月新聞掲載)。それは、特別な精米方法によるものだと知った。

継続して情報収集をしようと考えていた矢先、テレビで目にしたのが、東洋ライス(株)の雜賀慶二代表取締役社長による「金芽米」の精米方法についての説明だ。先に読んだ記事にあった「特別な精米方法」で作られたものが製品化されており、それが「金芽米」であることに気づいたのはこの時だ。

「これだ、これを子供達に食べてもらいたいと思い、すぐさま『金芽米』を調べて東洋ライスさんに連絡をしました。スピーディーな対応をしていただき、11月には説明を聞くことができました」

■とぎ汁が出ない米で 排水問題も解決

徳島県の下水道普及率の低さもこれを後押しした。全国平均76・3%と比較して同県は16・3%(平成25年3月31日現在/日本下水道協会調べ)と低い。石井町の学校給食は約2200食。決して多い食数ではないが、米のとぎ汁はつまってヘドロになりやすく、河川や海に与える影響も少なくない。

金芽米の精米方法を開発した東洋ライスは、「BG無洗米」技術の特許を取得している。金芽米ももちろん無洗米なので、それまで排出されていたとぎ汁がゼロになるのだ。

「子供達に、より栄養価の高いお米を食べてもらうだけではなく、排水の課題解決にも貢献することが分かりました。下水道の普及には多大な予算がかかりますが、お米を変えることはすぐにでも取り組めると河野俊明町長に説明し、町長の後押しも受け、議会に諮ることにしました」

■委託精米費・運搬費 300万を町が負担

遠藤光宏参事
遠藤光宏参事

金芽米に変更しても給食費は上げない(同町の給食費は幼260円、小270円、中300円)という前提で、金芽米への委託精米費と運搬費として年間約300万円の予算を計上、議会では全会一致で可決。子供達の健康と町の環境を守ることの両立が図られる施策として理解を得た。

同町の遠藤光宏参事は、「毎日食べる学校給食ですので、子供達の健康づくりに本当に価値があるのならば、町が負担してでも進めようと町長が英断し、議会にかけたというのが本町の流れです」と話す。

本年度4月より、5幼稚園・5小学校・2中学校が週4回の米飯を町産の米で作った金芽米に変更。玄米を1週間に1度トラックで東洋ライス和歌山工場に運び、前週に精米したものを帰りに載せて戻ることで、運搬費を抑えた。

今後について、同町教育委員会の村山一行教育長は「健康への影響に関する検証については、まずは学期ごとに教員への聞き取りやアンケートなど、残食の量なども含めて検証していきたいと思っています」と話す。
白川議員も、いずれは体温や血液検査など視野に入れたいと考えている。
「変化に対応できる自治体であることが重要。新しいものを取り入れる時、なぜそうするのか、それを検討することから始めるのが、自治体の役割です。新事業では誰が責任をとるのかという意見も上がると思いますが、やってみなくてはわからない。首長がいかに町民の健康を思い本気で取り組むか、本町は河野町長が耳を傾けてくれたことで導入にこぎつけました」

同町の取り組みはスタートしたばかり。まずは町の広報誌『広報いしい』で食育の連載を掲載し、町全体に食の重要性を伝える予定だ。

センターの工夫


同町は給食センターで給食を調理しており、米は卸業者から1日分ずつ運ぶ。炊飯器はすでに洗米機能が搭載されているため、調理器メーカーに相談して調整。また、金芽米は水を通常よりも多く吸収するので、水加減の調整についても同様に協力を得た。

■工程への変化は少なく 吸水の加減を調整

「給食だより増刊号」
7月の「給食だより増刊号」では金芽米について詳しく紹介

炊飯は34釜使用しており、金芽米導入前は1釜で7キログラム、現在は1釜6・5キログラムを炊いている。水加減については、東洋ライスと調理器メーカーが立ち会いいくつかのパターンで試験を重ねた。

栄養士の吉田絵里さんと高田夢実さんは「注意点といえば水の配分くらい。行事で給食のない学校がある場合に炊飯量が変わるので、そこをよく見るという程度です」と話す。

保護者や子供達へ対する金芽米の周知については、給食センターで発行する給食だよりに掲載。4月号で導入のお知らせを、夏休み前には精米の違いや栄養について詳しくお知らせした。

学校の反応


7月上旬、同町立高浦中学校(高橋勝也校長)の給食時間には、元気に給食を食べる生徒の笑顔が見られた。

「家で食べるご飯よりもモチモチしている」「ほんのり甘い」「お母さんがうらやましいと言っていた」などの声が生徒からあがる。

■甘くてモチモチ 残さず食べる子供達

2年B組の担任・松浦雄大教諭は「4月の導入時には、私から生徒へ特殊な精米方法で作ったお米だと説明しました。見た目はこれまでと変わりませんが、私も生徒同様にモチモチ感や甘さを感じています」と話す。

同校の高橋校長は「4月には教職員に年間の学校経営について話す中で、生活リズムを整え残さず食べることの大切さと同時に、今年度から導入される金芽米は精米技術が今までと違うこと、栄養価が高いということを説明しました」と学校側の対応を語った。

週1回精米を委託

業者の協力

加藤賢司会長
低温貯蔵で品質を管理
(写真は百姓一の加藤賢司会長)

石井町の学校給食で使用する金芽米は、入札で農産物直売所「百姓一」が取り扱う。百姓一は町内40軒の農家で経営する農産物直売所。個々の農家が経営者であり、入札への参加は全農家の決済が必要だ。米を作っている農家は約30軒と、米の売り上げは重要だ。

■学校給食だからこそ おいしいお米を提供

百姓一の加藤賢司会長は「従来よりもわずかに経費が上がる点がネックでしたが、長年学校給食に貢献してきた誇りや町への思い、東洋ライスの学校給食へ対する思いを聞いて、40軒の同意を得て入札に参加することができました」と語る。

加藤会長ら百姓一のメンバーは、小学生への稲刈りや田植えなどの体験活動の受け入れ等、食育へ対する思いも強い。金芽米も全員で試食し、味に自信をもって学校給食に提供している。

1学期中に使った米は玄米でおよそ7t半。それを1週間ずつ百姓一から東洋ライス和歌山工場にトラックで運び、1回につき約90袋(10キログラム/袋)が金芽米として精米されている。

こうして出来た金芽米は百姓一が定温で保管し必要な量だけ毎日担当者が給食センターに運ぶ。こうすることで、安定した品質の金芽米を提供できるようにしている。

児童生徒においしく、安心して体づくりに貢献できるものを、という町全体の思いが形となった。

「亜糊粉層」を残して精米―【金芽米とは】

栄養とおいしさを引き出す 新製法を使った新しいお米

ひと言で言うならば「栄養」も「おいしさ」も両方引き出したお米。従来の精米方法では取れてしまう「ヌカ層」と「デンプン層」の間にある「亜糊粉層(あこふんそう)」を残したもので、新しく開発された精米機で作られる。

残した部分である「亜糊粉層」に含まれる酵素が炊飯時にオリゴ糖などの糖類を多く生成し、甘味やうま味のもととなる。味覚分析機関のAISSY(株)による検査では、コシヒカリで比較した場合、うま味は普通精米法が2・04、新精米法では2・41とその差0・37。甘味はその差0・48だ。味覚に敏感な人なら0・1違えば分かるというから、その差は大きい。

さらに、吸収しやすい状態のビタミン、ミネラル、食物繊維などが多く含まれ、子供達の不足しがちな栄養を補える。

また、通常の精米では玄米から胚芽とヌカを取り除くが、その後にはまだ肌ヌカが残っている。その肌ヌカを工場で取り除いており、洗米が不要で、排水も出ない。お米の美味しさと環境負荷の軽減、健康寄与を実現した。

【2014年7月21日号】

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