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改正省エネ法と学校・教委の省エネ対策

 今年4月から施行された改正省エネ法により、教育委員会においても、特定事業者の指定を受けた場合、「中長期計画書」や「定期報告書」の提出が求められている。そこで、省エネ法改正により生じる諸手続きを紹介するとともに、文科省のエコスクールなど、学校現場の省エネにむけた取組を今後の参考としてもらうため、教育家庭新聞社では10月19日、東京都内でセミナーを実施。全国の教育委員会から省エネルギー担当者らが集まった。

実行できる範囲で省エネを ―資源エネルギー庁省エネルギー対策課 岩田久司氏
エコスクールにおける省エネ ―文部科学省文教施設企画部施設課 島田智康氏
藤沢市における既存学校施設の省エネ化・低炭素化への取組み ―NPO法人施設マネジメント研究会 土肥千絵氏
京都市全小中学校で電力「見える化」 ―オムロン株式会社環境事業推進本部 佐々木正男氏
省エネ法対策に役立つソリューション

実行できる範囲で省エネを

―資源エネルギー庁省エネルギー対策課 岩田久司氏

 省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)とは、限られた石油などの資源を効率よく使っていくことを目的に1979年制定されたものだ。今年4月から施行された改正省エネ法により、多くの事業者が特定事業者に指定され、報告書等の提出等が義務付けられた。教育委員会も例外ではなく、特定事業者に指定されると「中長期計画書」や「定期報告書」の提出が必要となる。そこで、経済産業省資源エネルギー庁省エネルギー対策課の岩田久司氏から、省エネ法に基づく諸手続きや書類を提出する際のポイントが説明された。

◇    ◇
省エネ法の規制対象は「工場・事業場」「輸送」「住宅・建築物」「機械器具」で、学校での日々のエネルギー管理は、「工場・事業場」のカテゴリーだ。省エネ法の改正により、前年度のエネルギー使用量が原油換算で1500キロリットルを超えると、特定事業者の指定を受ける。具体的に特定事業者が対応すべきことは次の4点だ。

(1)組織的にエネルギー管理を進めるための責任者「エネルギー管理統括者」とそれを補佐する「エネルギー管理企画推進者」の配置。
(2)判断基準に基づき、状況に合わせたマニュアル「管理標準」等の設定。
(3)エネルギー管理の計画を報告する「中長期計画書」の作成
(4)エネルギー管理の結果を報告する「定期報告書」の作成

  教育委員会の場合、エネルギー管理統括者は教育活動とのバランスを考えた上でエネルギー管理を行っていく。それを補佐するエネルギー管理企画推進者は、エネルギー管理士の資格を有しているか、エネルギー管理講習を修了していることが条件だ。エネルギー管理統括者等は、基本的には教育委員会の組織内で人員を配置する。人員の配置が難しい場合は、一定の条件を満たせば、外部に委託することも可能だが、個別の事例について経済産業局で相談に応じている。 

■中長期報告書と定期報告書とは

  中長期報告書は未来に向かって事業者が省エネを進めていくための計画の報告。定期報告書は過去のエネルギーの管理状況を報告するもの。

  定期報告書で報告する事項は大きく分けて3つ。(1)事業者の前年度におけるエネルギー使用量、(2)事業者におけるエネルギー消費原単位(事業者の事業活動における単位あたりのエネルギー使用量。エネルギーの使用効率にあたる)の状況(3)エネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断基準の遵守状況

  定期報告書については、エネルギー消費原単位の算出の仕方についての問合せが多い。エネルギー消費原単位とは、エネルギー使用量をエネルギーの使用量と密接な関係を持つ値(例:建物床面積等)で割った、単位あたりのエネルギー使用量だ。学校規模が大きければエネルギー使用量が多くなる。施設規模に則して効率よくエネルギーを使用することが必要であり、各学校の状況を把握した上で、エネルギーの使用状況を適切に「見える化」することが求められている。

■中長期計画

  「中長期計画」では、主に2点記載する。
  1点目は、古くなった設備などを省エネ型のものと入れ替えるなど、設備投資等によって定量的に省エネ効果が計れるもの。2点目としては、日々の運用面で行っていることなど、設備導入以外の省エネにつながるような取り組みについて。これをソフト面での計画として記載する。
  中長期計画は一度計画したら終わりというものではなく、社会情勢や経済情勢の変化などに合わせ、年ごとに見直し、実行できる範囲で進めていくことが求められている。 

■判断基準とは

  判断基準とは、事業者がエネルギー使用の合理化を図るにあたり、具体的に取り組むべき内容を、法律に基づいて経済産業大臣が定めたもの。また判断基準では、事業者全体でエネルギー消費原単位を中長期的に年平均1%以上低減させることを努力目標として定めている。
  事業者はこの判断基準に基づいて設備の運用マニュアルとなる管理標準等を策定してエネルギー管理を行う必要がある。管理標準では、事業者全体としての取り組み、工場や学校など個々の単位で取り組みを規定。
例えば建物で使用している照明に管理標準を設定し、電気を小まめに消す、照明を交換する際は省エネ型の照明にするなど、事業者内のマニュアルを定めて運用していく。この管理標準に基づいて各事業者がエネルギー管理を行っているかどうかを定期報告書で報告する。
  中長期計画書や定期報告書の書き方が分からない場合は、各地域の経済産業局スタッフが対応している。また定期報告書記入要領を資源エネルギー庁HPで公表しているので参考されたい
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/080801/kinyuyouryou.pdf


エコスクールにおける省エネ

―文部科学省文教施設企画部施設課 島田智康氏

 「やさしく造る」「賢く・永く使う」「学習に資する」の3つの基本的な考え方を基に、文部科学省ではエコスクールを推進している。そこで省エネ対策のヒントとなる事例として、文部科学省大臣官房文教施設企画部施設企画課の島田智康氏からエコスクールの取り組みについて紹介された。

◇    ◇
 具体的なエコスクールの取り組みとしては、校舎屋上への太陽光発電パネルの設置や屋上緑化、節水型トイレの設置、断熱ガラス・二重サッシの取り付けなどが挙げられる。こうしたエコスクールパイロット・モデル事業は平成9年度から実施されており、文部科学省だけでなく、経済産業省、農林水産省、環境省の4省連携で進められている。

  この事業が実施された平成9年度から、社会状況が変化していることもあり、平成21年3月の協力者会議で今後の進め方が検討され、新たに方策が取りまとめられた。そこで「低炭素社会実現に向け、全ての学校でエコスクール化を目指す」ことが掲げられた。具体的な推進方策として、方策1「エコスクールの教材化、校内の省エネ運動の実践」、方策2「省エネルギー効果等の可視化」、方策3「重点的なエネルギー利用効率化」、方策4「太陽光発電など再生可能エネルギーの導入」が打ち出された。
 続いて島田氏から、エコスクール化の取り組みとしてエコ改修でのCO2排出量削減のシミュレーション結果と事例が幾つか紹介された。

  環境省の学校エコ改修事業に採択された学校のうち、断熱改修や設備機器の高効率化などを行った岩手県の水沢小学校や木造校舎のエコ改修の際に太陽光発電や太陽熱給湯なども導入した翠小学校でのCO2排出量削減効果が紹介された。

  また、既存学校施設のエコスクール化のための事例集から、自然エネルギーを活用して快適な学習空間づくりを進めている東京都杉並区の取り組みや学校の改修整備と同時にエコ化を行った埼玉県立浦和高校、NPOと連携した出前授業を行っている横須賀市立大矢部小学校なども紹介された。
また、文科省では学校の環境性能を把握する手法として「CASBEE学校」を今年9月に策定した。これは、現状の学校施設の環境性能を把握し、エコ改修後の環境性能の予測を可能としたもの。文科省HPから表計算ソフト用評価シートをダウンロードし、学校施設の環境品質と環境負荷の評価項目を入力すると自動的に評価結果が計算されて出力される。結果は星1つから星5つで表示されるので、学校施設の環境性能がどれぐらい優れているかが一目で分かる。
 「例えば、星1つの環境性能が低い学校からエコ化を進めていくという取り組みも考えられますし、整備後にどれぐらい環境性能が高まるかを事前に確認することもできます。こうして客観的なデータが得られれば、整備を予算化する際に説明しやすくなります。CASBEE学校の冊子版は、近日中に全国の教育委員会に配布する予定(10月中旬に配布済み)です」。

  なお文科省では「学校施設における省エネルギー対策について」という冊子を、教職員向けと管理職向けの2種類作成している。冷暖房の際には扇風機を活用すると効果的など、日常の上手な省エネのポイントや具体的手法が紹介され、省エネ法の改正で提出することになった「中長期計画書」を記載する際の参考となる。この冊子の内容については文科省のHP(http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/green/index.htm)からダウンロードできる。


藤沢市における既存学校施設の省エネ化・低炭素化への取組み

―NPO法人施設マネジメント研究会 土肥千絵氏

 NPO法人施設マネジメント研究会では、文科省の「既存学校施設における環境対策推進事業」を受託し、神奈川県藤沢市の全55校(小学校35校、中学校19校、特別支援学校1校)の実態把握と資産価値向上策を実施した。同研究会の土肥千絵氏は本事業について報告した。
◇    ◇
 今回の実態把握が行われた背景には、藤沢市では学校の老朽化が進み、施設の利用実態やコストパフォーマンス等を市民目線で検証する必要が出てきたことにある。そこで、各学校の年間エネルギー使用量と既存学校施設の部位別仕様・性能を把握することから始めた。その結果、学校施設の年間1次エネルギー消費量は、55校全体で10万9144GJとなる、これを原油換算値に直すと年間で2816キロリットルとなり、改正省エネ法の報告対象であることが分かる。

  学校施設の部位別仕様を把握するにあたり、学校を「最新校で全館に冷暖房完備」(タイプ1)、「最新校で教室暖房のみ」(タイプ2)、「旧耐震基準の学校で、大規模改修により安全性確保実施済み、教室暖房のみ」(タイプ3)、「旧耐震基準の学校で、耐震補強工事により安全性確保実施済み、教室暖房のみ」(タイプ4)の4タイプに分けて調査が進められた。
 エネルギー使用量では、最も多いタイプ2の最新校と最も少ないタイプ4の従来型の学校では1・9倍もの差が生じています」。
 そして、藤沢市で最も多い学校施設整備レベル(従来型の学校40校・タイプ3と4)を標準モデルとして、学校の平均的な利用状況を設定。その上で、どのような改修が省エネに有効かを測定する「環境熱負荷シミュレーション」を実施した。そこで、省エネ化・低炭素化のための改修メニューとして(1)「屋上断熱+太陽光発電」、(2)「ペアガラス又は二重サッシ」、(3)「高効率照明+昼光センサー」、(4)「節水型便器(トイレ改修が終わっていない学校)」、(5)「熱源(電気のヒートポンプ)」、(6)「冷房化」の6点が提案された。
個々の学校の状況に合わせて改修を行っていくことで、現在のところ55校で10万9144GJ消費しているエネルギー消費量を約30%削減できるという結果が出ている。

  こうした実態把握と検討の結果をもとに、藤沢市では改正省エネ法に対応した「個々の学校の予算計画」や「学校施設全体での予算計画」の策定を進めている。


京都市 全小中学校で電力「見える化」

―オムロン株式会社環境事業推進本部 佐々木正男氏


 京都市では全ての小中学校に電力監視測定器を取り付け、電力使用量を一目で分かるようにしたことで、2009年度省エネ大賞(組織部門)経済産業大臣賞を受賞した。この取組は京都市教育委員会とオムロンの共同プロジェクトで進められたものだが、その具体的な内容についてオムロン(株)環境事業推進本部の佐々木正男氏が話した。

■ 最大使用量が基本料金になる ■
 環境への取り組みに対して熱心に力を入れている京都市では、平成21年1月「環境モデル都市」に選定され、同年3月から「環境モデル都市行動計画」を立て様々な取り組みを進めている。学校における環境教育の取り組みにおいても、「環境教育の推進に向けた施設・設備等の整備」を進めており、平成18年度からオムロンが協力して電力監視測定器の整備を進めてきた。
 学校など大規模施設の電気の基本料金は一般の家庭とは異なり、30分間ごとの平均電力(デマンド)のうち、最も多かった値で基本料金が決定される。使用量が突出した月があるとその後1年間継続して高い基本料金が設定されるので、監視装置を付けて設定した値を超えないようにすることが重要だ。

■ 最大利用電力を超えると警報 ■
 京都市では、小中学校の全教室に冷房設備を導入している。しかしそうなると光熱費が上がることが予測され、それを抑えるために電力監視測定器を取り付けることとした。電力監視測定器とは、各校で設定した最大利用電力(デマンド)を超えるとブザーが鳴るシステムだ。達成すべき基準を設定し、それを超えそうになったらブザーが鳴るため、省エネに対する意識付けが図られるという。また、実際にブザーが鳴った場合、どの電源を消せば使用量を減らせるか、各校ごとに「すぐ消すリスト」を作成した。電力使用状況も見ることができる。各学校の電力使用状況はオムロンのデータセンターに送られ、各校はIDとパスワードを入力してPCからログインすれば、30分ごとの電力使用量がグラフとなって一目で分かる。

■ 教室内の温度や湿度も計測する ■
 電力使用量だけでなく教室内の温度や湿度も合わせて計測する。夏場、学校に人がいる時間は冷房で温度が下がるが、夜になると温度が上がる。週末など人がいない間に教室の温度は上がり続け、熱が逃げないまま月曜の朝を迎える。こうしたデータをもとに熱中症にならないための対策をとり、温度に合わせて警報を鳴らすことができる。

■ 削減効果は5000万円 ■
 2006年度から導入したところ、京都市全体で初年度は2000万円、2007年度は1200万円、2008年度は1600万円の削減と、3年間で5000万円の削減につながり、引き続き活動は継続されている。
洛央小学校では2007年度は6月28日に307・6kwという最大需要電力を記録したが、使用電力を分析し、少人数の会議は小会議室で行うように変更するなど、ピークの分散化を進めたところ、2008年度の最大需用電力は274・6kwと前年比33kw減となった。これを電気料金に換算すると月6〜7万円、年間で約80万円の節約につながる。
 使用電力の低減に成功した学校は、その成功要因を「ECOアクションリスト」として他校へと展開。モデル校の電力使用量を詳細に分析することで、どういった行動が電力の削減につながったかを具体的に明らかにしている。

■ 省エネ推進のポイントは3つ ■
 佐々木氏は、省エネを推進するためには3つのポイントがあるという。1つめは「ものさし」だ。省エネに対する考え方は人によって様々だが、電力使用量という「ものさし」によりコミュニケーションを図った。2つめは「やる気」を持たせる仕組みだ。省エネ推進のメリットが現場にも提供できるよう、削減した電気代を図書館費等に活用した。3つめは、活動が継続していくための「仕組み」だ。京都市の283校で取り組んだが、学校によっては取り組みに温度差があり、京都市教育委員会が目標値を設定して、それをオムロンがサポートするという行政と事業者のパートナーシップで連携、自律的にPDCAの仕組みが定着している。

【2010年11月6日号】


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