Web会議やTV会議・ビデオ会議の活用事例がここにきて増えつつある。十数年前のように、音声遅延、サーバ落ちは日常茶飯事というテクノロジーからは大きく進化し、専用端末やPCはもちろん、タブレット端末、デジタルTV、電子黒板など提示できる端末の種類が増えた。それにより専門家や専門機関、遠隔地との交流や授業研究・研修、災害対策など用途も広がっている。システムの違いによって県内・国内交流、全国から海外まで視野に入れた交流など、交流範囲は異なるようだ。初等中等教育機関におけるTV会議活用を取材した。進化したTV会議は、ネットワーク社会をリアルに近づけ、協働学習に厚みを持たせる役割を果たす可能性がある。

【”学び”にイノベーションを】進化するTV会議

国際理解・特別支援・外部講師対応
教員研修・災害対応・小中高連携

TV会議
昨年度、多摩市立多摩第一小学校と
横浜市立永田大小学校の4年生が
“総合”の学習内容をTV会議で交流した

 現在、遠隔地と音声・画像を通して交流できる仕組みとして、「TV会議」「Web会議」「ビデオ会議」などの呼称がある。最近は「TV会議」と総称されることが多いが、もともと、PCを使いインターネット接続するものを「Web会議」、PCなし・専用機で接続するものを「TV会議」「ビデオ会議」と呼んでおり、前者は安価だが不安定で画質が劣る、後者は画質が鮮明で安定しているが高価、というイメージであった。それがテクノロジーの進化によりインターネット回線によるWeb会議も安定・高品質化してきている。さらに「安価・手軽だが専用機によるTV会議並みの品質」という製品群が増えている。その多くは、インターネットベースで提供されているため、TV会議場所ごとの機器設置が不要であることから安価に活用でき、かつネットワークやテクノロジーの発達により画質や転送速度等の品質が向上していることから生まれた製品群のようだ。

  ペーパレス会議を想定し、細かい資料を閲覧共有しながら行うこともできる機能も一般化した。なお書類共有・書き込み機能については、PCベースのほうが、様々な機能が付加されている場合が多い。

広がる活用方法

  活用事例は様々だ。

  ALTや専門家など外部講師と教室をつなぎ、講義や講話を聞いたり特別授業を展開したりすることができる。保健室ならば、専門家と相談やカウンセリングも可能だ。

  不登校児童・生徒におけるTV会議の有効性も指摘されている。不適応児童生徒ならば画面を通して安心して教室の雰囲気に慣れることができ、授業を受けることができる。病弱児童生徒の場合は、クラスの所属意識を高めることもできる。

  TV会議を通して授業を視察し、研修につなげる。これは実際に教員養成系大学でも試みられている手法だ。

  高等学校や私立中学校などにおける海外研修では、事前交流として活用、滞在当日の学習を深化することが期待できる。

  姉妹校など海外の交流校とテーマを決めてお互いに英語でプレゼンし合う、それをもとに討論し合うという授業展開は、グローバル人材育成という視点でひとつの理想形と言えそうだ。

TV会議は 重要なツール ―ニューサウスウェールズ州

  オーストラリア・ニューサウスウェールズ州は公立学校9〜12学年(中3〜高3)の生徒全員にラップトップPC約1万台と無線LAN環境、学校用ICT支援員の配備、教員研修などを実施しており、各教室にはTV会議システムとTV、授業用として電子黒板などが設置されている。

  TV会議は専門教育を受けるための重要なツールとして位置付けられている。その点で活用が進むのはある意味当然で、日常的な活用により、他国・地域の生徒たちとの交流も盛んであるという。

ESD教育推進で 全小中学校に導入―多摩市教育委員会

  多摩市では、「持続可能な開発のための教育(ESD=Education for Sustainable Development)」を推進しており、市内の全小中学校がユネスコスクールの加盟校となっている。環境問題や国際理解などについて考え、立ち向かい、解決するための学びであるESDを推進するにあたり、議論を深めることや異なった視点からの考えを知ることを目的に、多摩市教育委員会では平成23年度からTV会議システムを導入。市内の学校であれば事前に申込を行えば使えるようにした。

  TV会議の選定のポイントは、セキュアな環境で運用管理ができること、ソフトのインストールが不要でWebブラウザからログインするだけで使えるなどの簡易さ、ネット回線のみで活用でき、機器を問わず世界中と交流に使える等。これにより多摩市の学校では地域の課題であれば地域の方と、海外との関わりがある課題であれば海外の方とTV会議を使い時間・距離の制約を飛び越えて、つながりを作り、考えを深める学習を展開しているという。

初任者研修や特別授業で活用―岐阜県教育委員会

  全県でTV会議の活用が開始したのは今から約10年前。初任者研修や生徒実習などでの活用が進んでいる。

  全県の初任者研修は1会場に入りきれないことから、TV会議システムを活用、県内5〜6箇所に参加者を分散させることで、一度で行うことができるようになった。学校周辺の施設でできるので交通費・教員の負担軽減にもなる。

  生徒実習では、教育センターから講師がTV会議システムを使って放送する。昨年は4校同時開催で、高校の情報「2次元CG入門」、工業高校「情報技術基礎」、家庭科の「テーブルコーディネート」などを授業カリキュラムの一部として行った。大学教授が研究室からTV会議システムを活用して、専門授業を配信する活動も行っている。

災害対策でTV会議 佐賀県が実証実験

  佐賀県教育委員会は、5月に開催した「教育フェスタ2013」において、大規模災害や新型インフルエンザの発生等により、通常の学校活動が機能しないときを想定した遠隔授業・情報伝達の実証研究を行った。当日はTV会議システムを活用して県内3か所(県立武雄青陵中学校、県立致遠館中学校・高校、教育情報化推進室)と東京都内の4か所をつなぎ、様々な生活環境におかれた生徒達に通常の授業内容を提供、学習機会を保障する「授業保障」と、学校の機能が停止した場合を想定し、教育委員会等の遠隔地からの学習情報提供により生徒の学習を保障する「学習保障」のデモ授業が行なわれた。

高知県教育委員会

  高知県では、平成22年度から県内の小中高特別支援学校がWeb会議システムを活用できるようにした。高知県教育ネットワーク内での活用が中心で、中山間地域の小規模校など、県内児童生徒の交流が主な目的。

鹿児島県総合教育センター

  南北600キロメートルに学校が存するという県の実状を踏まえ(1)交流学習、(2)遠隔授業、(3)遠隔研修等でTV会議システムを活用。特に離島・へき地校では「顔の見える交流ができる」「教材やデータを提示し合うことで成果が上がる」など好評を得ている。

福島県教育委員会

  平成22年から県内の小中高で活用できるように整備。県内校同士の交流が中心。東日本大震災直後は、各地域に避難したサテライト校の職員会議などにも利用された。

  現在は、特別支援学校や中山間地域の学校で活用されている。

【2013年9月2日】

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