京都市立桃陽総合支援学校

 桃陽総合支援学校は、本事業により1人1台のタブレットPC(以下TPC)や全普通教室へのインタラクティブ・ホワイト・ボード(以下電子黒板)の配備、校内全域の無線LANなどを構築。

  併設する病院分教室(院内学級)などにもICT環境を広げ、病弱特別支援学校として特有の課題に対する実証研究を行っている。

特別支援教育のフューチャースクール効果

フューチャースクール

リモート顕微鏡を使って微生物を観察する生徒

フューチャースクール

顕微鏡は分教室のTPCから操作できる

  同校では「入院治療しながら学べる学校」として、無線LANの干渉等多様な制約がある病院内環境におけるICT整備の課題整理及び検証や、児童生徒の状況を踏まえた入力支援・TPC等の研究・開発など、特別支援学校ならではの研究課題に取り組んでいる。

  1年の実証を経、テレビ会議や1人1台のTPCを活用した交流活動における児童生徒の心理的な教育効果は極めて高く、病気療養中の児童生徒や家族が闘病生活に向けて励まされる点については、特筆すべき成果があったという。

  また、小児科学会・医療情報学会や全国小児がん親の会から実践報告の依頼など、想定外の研究成果がある。医療関係者との連携等による今後の全国的な拡がりも期待される。

リモート顕微鏡で分教室から操作・観察

  2年次である今年度は、1年次の成果及び課題を踏まえ、校内、分教室内及び本校と分教室双方向それぞれでの使用環境を踏まえた検証や、ICTを活用した自学自習の習慣の形成、分教室在籍児童生徒の孤立感等の課題解決を図る活用方法等に取り組んでいる。

  同校と分教室の間で協働学習を行うための「テレビ会議システム」は3拠点以上の複数参加者による会議ができ、アプリケーション共有機能により同時に教材を提示することもできる。前籍校との交流学習や京都市以外の外部との交流学習を前提とし、サーバは京都市教育ネットワークセンターに設置している。

  4月の着任式・離任式や、金環日食観察、児童生徒会選挙ではこのテレビ会議を活用。分教室の児童生徒も学校行事に参加することができた。

  また、理科(中1)の授業では、京大分教室と本校をテレビ会議システムで結び、前年度開発したリモート顕微鏡を使って微生物の観察を行った。理科室で担当教員が微生物のプレパラートを作る様子をリモートカメラで配信。生徒は分教室のTPCから操作ができるリモート顕微鏡を使ってミジンコ・ゾウリムシ・ミドリムシ・ミカヅキモ・アオミドロ・クンショウモなどを観察した。分教室からピントを合わせることや視野を動かすことができるので、顕微鏡観察をしているという実感・臨場感を持つことができるという。

  分教室には生物を持ち込むことができないため従来はこのような観察ができなかったが、「学びのイノベーション事業・フューチャースクール推進事業」により可能になった。

  平成23年度の報告書から、「学びのイノベーション事業」・「フューチャースクール推進事業」それぞれの成果についてまとめる。

学びのイノベーション事業

  京都大学医学部附属病院の協力を得、年度末にすべての分教室及び病室(病室は京大のみ、府立医大は今夏からの予定)に無線LAN環境を構築。これにより、病院既設のネットワークを活用する「京大方式」と、京都市教育委員会のネットワークを活用する「府立医大方式」2種類の無線LAN環境を活用できるようにした。ネットワークを活用し、本校と分教室間における理科実験システム「リモート・サイエンス・ラボ・システム」を開発、テレビ会議システムを活用した分教室と前籍校との交流授業等を実施した。

  災害時等の対応としては、実証校体育館が避難所となることを想定したデジタルテレビ及びTPCの移動・活用に関する訓練も実施。

  導入したデジタル教科書(提示用)・教材(「ラインズeライブラリ」、「みんなの学習クラブ」、「デジタルドリルシステム」、「デジタル教科書」(国語、社会、算数、家庭、地図帳))のTPC等での活用方法を検証。各教材はASP方式、各種デジタル教科書は校内サーバ方式だ。自学自習用のアプリケーションがスムーズに利活用できるようになれば、病院内の限られた学習環境においても個に応じた学習を自ら進めていける可能性があるとしている。

  前籍校との交流活動や京大病院における分教室と病室との交流等、テレビ会議システムを活用した本校と分教室との授業も実施。本校と分教室の児童生徒が端末PCを介して双方向で実験に関わる理科実験システム「リモート・サイエンス・ラボ・システム」は、病弱教育特別支援学校だけでなく、他校種への汎用性も期待できる内容であり、次年度以降の取組の充実が期待できると報告されている。

フューチャースクール推進事業

  ICT環境の構築に際しての課題を抽出・分析した。

  例えば、各病院との調整を含む無線LAN構築や設計、ICTを利用する児童生徒が次々に入れ替わるという条件においての運用面の課題、児童生徒用TPCの配備台数についての配慮点などを明らかにした。

  無線LAN接続のネットワーク環境も良好で、双方向通信(テレビ会議,協働学習ソフト、リモート・サイエンス・ラボ・システム)において、高負荷の通信を行っても問題点はなかった。なお、無線LANに無用な負荷をかけずに安定した学習活動を行うために、たとえばテレビ会議用のPCを有線LAN接続するなどの配慮を行っている。

授業公開は12月と2月

  最終年次である平成25年度は、病状によりベッドから離れることのできない児童生徒に対する「ベッドサイド授業」における指導方法・コンテンツ開発、授業以外における孤独感の解消及び学ぶ意欲の向上につながるICT機器の活用方法等について検証していく予定だ。なお今年度は以下の公開授業を予定している。○第1回(毎年度実施している実践研究発表会)平成24年12月7日○第2回(本事業実証校として実施する公開授業)平成25年2月15日


 

 

【2012年7月2日号】

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