【指導者用デジタル教科書】専門科目や教職講座でICT活用学ぶ―和歌山大学教育学部

指導者用デジタル教科書
学生同士で電子黒板とデジタル教科書
の模擬授業
指導者用デジタル教科書
プロジェクターや書画カメラ、電子黒板、
モバイル端末を整備した
授業シミュレーション室

 和歌山市内小学校には、国語科を始め各教科のデジタル教科書やデジタル掛図等が導入されている。同学の学生たちは入学当初から市内各校を見学しており、デジタル教科書活用の場面に触れる機会が多い。和歌山大学教育学部附属教育実践総合センターの豊田充崇准教授に、デジタル教科書を始めとしたICTをどのように学生らに教えているのかについて聞いた。

模擬授業で経験重ねる

  和歌山大学教育学部附属教育実践総合センターでは、デジタル教科書を始め各種のICT機器を活用した教科指導の実践的力量を向上させるために、「普通教室におけるICT活用環境」を学内に再現し、極力教育現場と同じ機材・教具・空間的な雰囲気の元で「授業シミュレーション」ができるようにしている。

  普通教室でのICT活用は、これまで以上に提示教材の視認性や黒板との連動を考慮する必要があり、各種トラブルにも対応しなければならない。そういった点でも、このような教室で事前にシミュレーションしておく必要性があると考えている。

  実際の授業におけるデジタル教科書活用場面については、1・2年次に附属校や市内公立校で行う「教育実習入門(一日体験実習)」の際にほとんどの学生が参観する。

  共通指導としては、主として2・3年生向けの「教育の方法・技術」(教職専門科目)でデジタル教科書を取り上げている。受講者が100名程度と多いため、デジタル教科書の特徴やその利点を紹介、操作の実演にとどまっている。より詳しく学ぶ機会として、以下の専攻科目や教職講座がある。

■デジタル教材研究(専攻専門科目)=教育実践学専攻者の専門科目(2〜4年生対象)。

  教材設計から実際の教室内での活用方法までを学ぶ。

  デジタル教科書を元に、デジタル教材に必要な機能やどういった提示方法が適しているかなどを検討する。最終的には、実際の授業で活用できるデジタル教材を作成できるようになることが目的であり、フラッシュ型教材から動画クリップなども自作する。

■教師のためのICT活用(県教委連携科目)

  教育実践学・児童教育コース等の専門科目(2〜4年生対象)。既存の各種デジタル教材を活用して、より教科の目標達成に寄与できる授業を実践できるようになることが主な目的。デジタル教科書を始め各種教育用デジタルコンテンツ、実物投影機、デジタルカメラ等のICT機器が効果的に活用できる授業場面を見極め、実際に指導計画を立て模擬授業を実施する。

  当科目は和歌山県教育委員会との連携事業として位置づけられており、学生の模擬授業の際には学内に指導主事を招聘し、教育現場に即した実践的な授業評価をお願いしており、学生同士の慣れ合いになりがちな模擬授業に緊張感と現実味を与える役割を果たしている。

■教員採用試験対策の教職講座(自主参加講座)

  和歌山大学教育学部の学生の約8割は地元和歌山と大阪府下の教員採用試験を受ける。文科省の統計上、和歌山県と大阪府は電子黒板設置率が全国トップレベルであるため、電子黒板始めデジタル教材等を採用後すぐに授業で活用できることは本学卒業生のアピールポイントになる。そこで、採用試験対策の1つとして、電子黒板+デジタル教科書の活用講座を設定。放課後の自主参加講座にもかかわらず、多くの学生が受講している。講座終了後も何度も操作習得に通う学生もいる。

学生たちは意欲的

  学生たちは、多様な機能と各種コンテンツが豊富なデジタル教科書に興味を示し期待を抱いている。操作習得もそれほど難しくないため、将来教職に就いたときに、勤務校に環境が整ってさえいれば、活用していきたいという強い意欲を持っている。既に実習校の担任がデジタル教科書を日常的に活用している学級では、実習生がすべき授業準備の一端ともなっており、教育実習や教職に就く前段階からデジタル教科書の機能や特徴を把握しておくことは、その後の授業設計や教材準備に大きく影響する。

指導のポイント

  まずは機能・操作の習得だが、この点での困難さはほとんどない。その次の段階として、デジタル教科書は優れた教材であるだけに、提示するだけでも子どもの反応は良く、これさえあれば授業がうまくできるように錯覚してしまうこともあるため、そのような誤解を持たせないような指導が必要だ。授業の進行上、重要なのは、デジタル教科書を活用しながらの発問の設定や児童生徒の発言のつながりを持たせること、板書やノート指導等にあるということに気付かせる必要がある。

  デジタル教科書は瞬間的に画面を表示できる即時性や音声・映像・アニメーション等の情報の多様性がある。一方、一覧性や柔軟性(掲示物の張り替え等)は黒板には及ばない。そこでデジタル教科書の活用によって、黒板の有用性を改めて理解させることができ、双方の利点を生かす授業場面をイメージさせている。デジタル教科書の活用指導は、「ツールに頼るのではなく、ツールを活かす授業」を考えさせるいい機会であると言える。

  実際の授業では、黒板上の板書と画面との組み合わせが重要なポイント。デジタル教科書活用以外に考えるべきことについては、模擬授業で経験を重ねていくことで授業力を高めていくことができる。学内で事前にできることは最大限学内で済ませておき、実習中は、現場でしかできない、学べないことに注力したい。

  特にデジタル教科書などICT活用に関しては学内で指導可能な場面が多いことから、教育実習の事前指導にも組み込む時期がきているのではないかと考えている。

  さらに、現場の教員に、操作方法だけではなく、それ以上の活用アイディアを提案できる学生も出てきた。実習生や若手教員はベテラン教員から授業ノウハウを学び、若手はICTの活用方法を提案してみるといった、一種のトレード関係がもっと広がってもいいのではないだろうか。

 

 

 

【2012年6月4日号】

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