【フューチャースクール推進事業】一斉授業から協働学習へ

デジタルとアナログは使用目的で使い分ける

 総務省「フューチャースクール推進事業」文部科学省「学びのイノベーション事業」の連携により、学習者用端末やネットワークを始めとするICT環境の授業活用における協働学習や必要とされる環境条件についての実証実験が進んでいる。3年目と最終年度を迎えた小学校では、一斉学習、個別学習、協働学習のモデルと、それに必要なICT環境が明確になってきている。2年目を迎えた中学校では、一斉学習におけるICT活用は定着しつつあり、今後は協働学習におけるより高次の学びのモデルを検証する段階に入る。同様に2年目を迎えた特別支援学校でも、ICT活用の有用性が明確になっている。
■FSガイドライン・成果報告書=http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/future_school.html

【小学校】徳島県東みよし町立足代小学校

【中学校】横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校


 

【小学校】徳島県東みよし町立足代小学校

 10月26日、徳島県東みよし町立足代小学校で2年生音楽と4年生算数、6年生社会の授業が公開された。同校はICT活用歴が長く、様々なICT機器やアプリケーションを活用しており、「授業目的を明確にしてデジタルとアナログを使い分ける」授業展開が多く見られた。

【2年 音楽】透過GIFを重ねて表示する

フューチャースクール推進事業 フューチャースクール推進事業

(左)電子黒板、TV、学習者用PCを活用(右)人物関係についてまとめる

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(左)気持ちを込めたいか所にしるしをつける(右)自分の考えを発表する

  音楽「曲の気分を感じて歌う」では、お互いの気持ちを共有し歌への思いを深め気持ちをこめて歌うために電子黒板(IWB)や学習者用端末等が活用されていた。同学年の児童は1年生の頃から学習者用端末や電子黒板に親しんでおり、2年生の1学期からは音楽の時間にも電子黒板等を使っている。

  児童は、課題曲の歌詞が表示されている学習者用端末画面上に、クラスのみんなと声を合わせて歌いたいと感じた歌詞部分にしるしをつけていく。児童の学習者用端末画面は一覧で電子黒板に表示され、各自の発表の際には電子黒板をクリックして自分の書き込み画面を見せながら、なぜその箇所を歌いたいかについて説明した。

  最後にみんながマルをつけた箇所を一斉に表示。多くの児童がラインをひいた線は、太く濃く投影されている。この不思議な仕組みは、児童が学習者用端末上でマルをつけた歌詞が「透過GIF」で保存されているため。それをフリーソフトで読み込み、重ねて表示するという仕組みだ。

  それぞれの児童が歌への思いを共有したことで、歌詞に気持ちが込められている様子がよくわかる合唱になった。

  また、大きな張り紙に作成した歌詞上には児童が描いた絵などを貼り込んでおり、一層の効果を発揮していた。

【4年 算数】理解・定着でICT使い分け

  4年生の算数「垂直と平行と四角形」では、ノートの記述やフラッシュ教材を使って前時の振り返りを行った後、デジタル教科書を提示して新しい課題に取り組んだ。授業者は、並行な線は交わらないことについてはデジタル教科書の図版が動く機能を使って、定規を使いノートに図を書く方法は実物投影機を使って説明するなど、ICT機器の特性を踏まえて使い分けている。

  図形概念の理解や発表活動などについては電子黒板などを使っているが、知識として定着するためには「書く」作業が重要であることから、ノートに記録すべき内容は板書にまとめるなど、目的によってそれぞれをはっきりと使い分けていた。

【6年 社会】歴史上の人物に深く寄り添う

  6年生の社会は、「明治の国づくりを進めた人たち」。歴史上の出来事について知るだけではなく、それぞれの出来事について歴史上の人物がどのような立場でどのような意見を持ちどう判断したのかを整理、それについて意見を交流し自分の考えをまとめていく。

  児童は前時までに、明治の国づくりを進めた人物から1人選び、その人物について分担して調べており、それぞれの人物の関係図を学習者用端末上で作成している。「地租改正」や「大日本帝国憲法」「選挙権」など明治改革での出来事について、それぞれの人物がどのような意見を持っていたかを学習者用端末上で整理していった。さらにそれについて自分はどのように考えどう判断するかについて意見を交流した。

  ワークシートには、自分の調べた人物が「選挙権」などについてどのような意見を持っていたか、それについて自分はどう思うかについてまとめていた。

  授業では、児童が調べた内容は紙にまとめ、関係図の作成は学習者用端末を活用。作業の段取りは教室前方上段に設置したデジタルTVに提示。電子黒板は今考えるべき課題について提示し、児童の意見のまとめは板書を使うなどの使い分けをしていた。

産みの苦しみ 今後の喜びに―中川斉史教諭

  中川斉史教諭(足代小学校)は、研究発表「足代らしさ、三好らしさを意識した教育の情報化への取組み〜足代小学校のこれまでを振り返る〜」で、実証校としてのこれまで3年間の取組みをまとめた。

  「3年間様々なトライ&エラーで取り組んできた。当初、普通教室で学習者用端末を使って学習を進めるため、教師の指示を理解し操作できる基礎が身についていないと本来の目的である学習活動に至らないと考え、学習者用端末ならではのスキルを探った。結論としては、学習者用端末ならではのスキルというものはほとんどなかった。必要なのは、『1年生から普通教室で自分専用のPCを持つ』という部分に着目した、情報モラルを含めたスキル指導」と語った。本指導プランは冊子「タブレットPCを考慮したコンピュータースキル指導プラン」にまとめられている。

  視力への影響も心配していたが、「3〜6年生のFS開始後にさかのぼった経年調査では、視力Aに位置する児童の割合は、全国、徳島県より多かったので安心している」と話す。

  児童アンケートの結果も紹介した。それによると、キーボードについては90%以上が必要と回答。文字入力に関してはタッチデバイスでは不満があるようだ。

  「紙のノート代わりに使うならどのアプリか?」に対してはパワーポイント、コラボノート、ジャストスマイルの回答が多い。必要と思われる機能として、「ページ毎の区切りがサムネイル表示される」、「ペン描写が簡単」、「保存が不要」など。

  「テクノロジーは何かを生む一方で、別の何かを阻害するかもしれない。大切なのは、そのバランスだ」(トルグリオ氏)の言葉を紹介し「3年間の産みの苦しみを今後の成長の喜びにつなげたい。可能性、チャレンジ、そして子どもたちの能力を伸ばすものにしていきたい」と結んだ。

学習者用端末 前提の指導法を―玉川大学大学院 堀田龍也教授

堀田龍也教授  堀田龍也教授(玉川大学)は、公開授業について解説した。

  「足代小学校では学校生活の中で自然にICTが活用されている。学習者用の情報端末が学校に入ってきた時に子どもにどんな能力が必要なのか、端末がいつでもあることを前提に力を伸ばすためにはどのような指導法が良いか。諸外国を見てもカリキュラムが話題になっており、今後、情報端末を学習で使うときの指導方法や指針は絶対に必要になる。同時に、従来からの学習指導や学習規律、生活指導は一層大切。足代小学校がまとめた冊子はカリキュラム化する際に役に立つ」と語った。
「FSもラストスパート。教師が使い、児童が使って初めて分かったことがたくさんある。そのノウハウや課題を企業や他の学校がいかに活かしていくか。また、子どもの側にはどのくらいの情報活用能力が必要になるのか。それについては今年度から調査が開始する」

  「日本が義務教育にかける予算の8割は地方財政で賄っている。地方交付税交付金で国から地方にお金が行き、地方の判断で使う事になる。そのため、ICTが整備されるか否かは地方の判断が大きく影響する。地方の教育委員会、管理職やリーダーなど教育の方向性を示される方々が、いかにICTが子どもたちの学力を向上させるかについて正確に理解し、未来を考えた整備に着手してほしい。どこも財政難。自治体の理解が非常に重要」と結んだ。

【2012年12月3日】

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