英語力の強化を全面的に支援―文部科学省・国際教育課課長 中井一浩

“使える英語”を身につける ― 新学習指導要領は着実・確実に推進を

グローバル人材育成
文部科学省
国際教育課
中井一浩課長

  日本における英語力の向上は、グローバル人材育成の重要な要素として、教育分野のみならず、すべての分野に共通する課題とされている。今、求められる英語力とは何か。そのためにどのような教育改善に取り組んでいるのか。文部科学省初等中等教育局国際教育課の中井一浩課長に、初等中等教育段階における「グローバル人材」育成推進に向けた取組みとして、英語力向上のための施策の方向性等を中心に話を聞いた。

  「長らく訳読中心であった英語教育から、実際に使える英語を身につける英語教育へと方向転換していく必要があります。今求められているのは、グローバル化した社会で求められる国際共通語としての英語力。すなわち、相手の意図や考えを的確に理解できる能力と、積極的にコミュニケーションを図り、速やかに、かつ論理的に必要なことを発言できる能力です。新学習指導要領は、そのような英語力を向上させるための基本を示しており、指導要領に示された英語教育を着実・確実に推進することが必要」と中井課長は話す。

  新学習指導要領では、小中高を通じてコミュニケーション能力を育成し、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度や、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能をバランスよく育成することなどが盛り込まれている。指導語いは、中高を通じて2200語から3000語に充実し、高校の授業は、日本語を使わずに生徒の理解に応じた英語を用いた授業を基本とすることを明示している。

  さらに、新学習指導要領を踏まえ、生徒の英語力向上のための具体的な成果をあげるべくまとめられた提言が「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」(平成23年6月「外国語能力の向上に関する検討会」審議まとめ)だ。各提言の内容と、その実現のための方策などについて聞いた。

【提言1】生徒に求められる英語力について、その達成状況を把握・検証する

  国や教育委員会、学校は、英検やGTEC for STUDENTSなどの外部検定試験を活用し、生徒に求められる英語力の達成状況を把握・検証する。各学校段階において達成される英語力は、中学校卒業段階で英検3級程度以上、高等学校卒業段階で英検準2〜2級程度以上。現状では、これらの達成状況はそれぞれ約3割程度となっており、底上げを図る必要がある。

  また、生徒の英語力の水準向上や教員の指導・評価の改善を図るため、各学校の実態に合わせた達成目標を「CAN‐DOリスト」の形で具体的に設定するためのガイドブックの作成に着手する。

【提言2】生徒にグローバル社会における英語の必要性について理解を促し、英語学習のモチベーションを図る

  我が国経済社会のグローバル化に伴い、大学や企業等での英語の必要性が高まる一方、生徒が英語の必要性を感じる機会が少ないという指摘がある。生徒が将来英語を使って活躍する場面を具体的にイメージできるようにするため、海外修学旅行において現地法人の工場や支社を訪れたり、英語で行われている大学の講義を受講する機会を設けたりするなど、英語学習のモチベーション向上につなげる。

  また、姉妹校など海外の学校との国際交流を推進し、英語を使う機会を充実や同年代の若者と英語を通じて切磋琢磨する経験を積むことも重要である。

  さらに、外国語運用能力の強化やコミュニケーション能力の向上にも資する高校生の海外留学の促進等を図ることも重要である。特に、平成24年度予算では、海外に原則1年間留学する国内の高校生に対して、1人40万円の留学支援金を支援する事業の対象人数を300人に拡充するほか、新たに、高校生などに国際的視野を持たせ、海外留学への機運を高めさせるための取組を行う都道府県の支援を行うこととしている。

  この他、スピーチ大会やディベート大会など英語に関するコンテストへの生徒の参加を推進する。

英語力の強化 全面的に支援

【提言3】ALT、ICT等の効果的な活用を通じて生徒が英語を使う機会を増やす

  国は、ICTを用いた海外との交流学習・協働学習、デジタル教科書・教材の活用など、ICTの効果的な活用に関する情報を教育委員会や学校に提供する。

  また、教育委員会や学校は、ALTや民間人材を活用したイングリッシュキャンプなど、生徒が集中的に英語に触れる機会を設ける。教育委員会は、ALTの雇用・契約形態の見直し等適切な対応を行うとともに、優秀な外国人教員や海外経験を積み高度な英語力を持つ日本人英語教員の採用を進め、600人の採用を目指す。

【提言4】英語教員の英語力・指導力の強化や、学校・地域における戦略的な英語教育改善を図る

  教育委員会は、地域の英語教育の拠点となる学校(拠点校)の形成等を通じ、戦略的な英語教育改善を進める。

  平成24年度予算では、各都道府県に拠点校を設け、新学習指導要領の着実な実施や、英語の使用機会の大幅な拡充等の取り組みを支援する。

  前回のSELHi(英語教育重点校=Super English Language HighSchool)が学校単位の取り組みであったのに対し、今回は教育委員会単位とすることで、学校間の連携や人事異動の配慮など総合的に地域の英語力強化にあたることができる体制作りを目指す。

  拠点校では外部検定試験を活用した生徒の英語力の把握・分析も行い、全国的な取り組みを推進する考えだ。

  さらに新学習指導要領に基づく授業の具体的なイメージや言語活動の在り方などの情報を提供するために平成22年度に作成・配布した授業実践事例DVDについて、今年度も作成・配布を予定している。

  生徒の英語力向上を図るためには英語教員の英語力・指導力の強化が極めて重要であることから、英語教員に少なくとも求められる英語力を、英検準1級、TOEFL(iBT)80点、TOEIC730点程度以上とし、外部検定試験の受験を促すとともに、国や教育委員会は英語教員に求められる英語力についての達成状況を把握・公表する。

  さらに、国際バカロレアレベルの教育を実施する学校やスーパーサイエンスハイスクールなどの先進的な取り組みも推進する。

  平成24年度予算では、国際バカロレアの理念を生かしたカリキュラムの趣旨を踏まえたカリキュラムづくりを行う学校を指定し、国際バカロレアの趣旨を踏まえたカリキュラムや指導方法、評価等に関する調査研究を実施するために必要な経費を計上している。

【提言5】グローバル社会に対応した大学入試となるよう改善を図る

  「聞く」「話す」「読む」「書く」を総合的に問う入試問題の開発・実施を促すとともに、AO入試・一般入試等におけるTOEFLやTOEIC等の外部検定試験の活用を促す。

 

グローバル人材育成 世界展開力強化 大学で2事業5年間

  文部科学省は今年度、大学学部においてグローバル人材の育成強化を図るモデル事業(約40件)、大学とASEAN間でコンソーシアムを形成し単位互換などを図る事業(約10件)を行う。実施期間はいずれも5年間。6月上旬まで申請を受け付け、9月に採択結果を公表する予定だ。3月28日に行われた本事業の会合では大学のグローバル化策について以下のような意見が出た。▽留学が就職にプラスになるように就職環境の改善を徹底する必要がある▽海外に出て交渉し、交渉に負けない能力を育成するには、パワフルなエリートを育てる教育が必要▽大学の留学生係でありながら、英語ができない事務職員も多い。事務職員の能力の高度化も重要▽大学別ではなく、へき地からも個人でグローバル人材に応募できるようにし、海外に送り出すスキームを作ることが大切。

◇ 国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策 ◇
提言1 生徒に求められる英語力について、その達成状況を把握・検証する
○国や教育委員会、学校は、積極的に英検やGTECforSTUDENTS等の外部検定試験等を活用し、生徒に求められる英語の達成状況を把握・検証する。○国は、国として学習到達目標を「CAN‐DOリスト」の形で設定することに向けて検討。中・高等学校は、学習到達目標を「CAN‐DOリスト」の形で設定・公表し、達成状況を把握する。
提言2 生徒にグローバル社会における英語の必要性について理解を促し、モチベーションを図る
○教育委員会や学校は、生徒が将来英語を使って活躍する場面を具体的にイメージできるようにするため、例えば以下のような取り組みを行う。・英語を使って仕事をしている人の話を聞く機会を設ける・海外修学旅行において現地法人の工場や支社を訪れる。それを映像化したDVDを教材として活用する・英語で行われている大学の講義を受講する機会を設ける○国や教育委員会、学校は、海外の学校との英語による国際交流を推進する。海外の高等学校へ留学する生徒に対し支援、3万人規模に増やす
提言3 ALT、ICT等の効果的な活用を通じて生徒が英語を使う機会を増やす
○国は、ALTの活用実態を把握する。教育委員会は、ALTの雇用・契約形態の見直し等適切な対応を行う○教育委員会は、外国人教員や海外経験を積み高度な英語力を持つ日本人英語教員の採用を進め、600人の採用を目指す。○国は、ICTを用いた海外との交流学習・協働学習、個別学習におけるICT教材の活用、授業におけるデジタル教科書・教材の活用など、ICTの効果的な活用に関する情報を教育委員会や学校に提供する。
提言4 英語教員の英語力・指導力の強化や、学校・地域における戦略的な英語教育改善を図る
○国は、英語教員に求められる英語力についてその達成状況を把握・公表する。○教育委員会は、英語教員の採用にあたり、外部検定試験の一定以上のスコアの所持を条件とするなど、英語教員に一定の英語力を求めるようにする。○教育委員会は、地域の戦略的な英語教育改善のための拠点校を250校程度を目指して形成する。○国は、国際バカロレアレベルの学校やスーパーサイエンスハイスクールなどの先進的な取り組みを推進する。
提言5 グローバル社会に対応した大学入試となるよう改善を図る

 


■【グローバル人材育成】世界に雄飛する人材育成を強化する

 

【2012年5月7日号】

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