英語のまま理解して発信できる力育む―立教大学経営学部・松本茂教授

実践的な英語力を身につける授業とは

  立教大学経営学部国際経営学科は、ビジネスの場で国際的に活躍するための英語コミュニケーション力を目指して、英語で専門科目を履修するカリキュラムを提供しており、国際的に活躍している卒業生も多い。同学科の松本茂教授に、初等中等教育におけるグローバル人材育成に向けた取り組みの必要性について聞いた。

英語は「企業語」実践力が必須に

グローバル人材育成
立教大学経営学部
国際経営学科
松本茂教授

  ビジネスの現場において英語でコミュニケーションを図ることはきわめて多く、英語はいまや「企業語」となりました。企業にとってグローバル人材育成は急務であり、「実践的な英語運用能力」が求められています。

  文部科学省も大学の国際通用力を向上させ、産業界の要望に応えるべくグローバル人材の育成に取り組んでいます。平成24年度は新たに「グローバル人材育成推進事業」及び「大学の世界展開力強化事業〜ASEAN諸国等との大学間交流形成支援〜」を実施します。

  本学部の国際経営学科では、プレゼンテーション、会議、交渉を英語でも行える人材の育成に向け、専門科目(経営学)の7割の講義は100%英語で行っており、試験もレポートも英語です。読む課題は講義1回あたりで高校の英語の教科書1冊分の量がありますから、一文一文を日本語に訳していては間に合いません。英語のまま理解できる力が必要です。そこで、初等中等教育では、英語で考え、英語で意見を言える力の基礎固めをしていただきたい。具体的には、英文を読み、その概要を英語でまとめ、自分の意見を英語で発表するなど、プレゼンテーション、ディベート、ディスカッション、エッセイ・ライティングなどの活動を授業に取り入れること。そして、これらの活動をきちんと評価し、それを評点に組み込むことが必要です。

  ディベートは、生徒が英語を使って主体的に考え、英語でやり取りをする機会を提供しやすい手法です。「食生活について英語で話し合う」ことは難しくても、「給食を廃止して弁当にすべきである」といったテーマであれば、中学生でも考えを構築することができ、「英語で考え、発言する」授業を展開しやすくなります。

  このような学習体験が高校を卒業するまでにある程度できていれば、大学ではもっと早い段階で英語を使って専門科目を教えることができます。

高等学校のグローバル化もっと積極的に
英語のまま理解して発信できる力を育む

英語をリアルに 使う機会を増やす

  英語の授業は教科書を使ったバーチャルな世界ですから、実際に英語を使うリアルな場面の設定が必要です。リアルな場の提供として海外研修は大変有効ですが、渡航期間や人数が限定されてしまうという欠点もあります。

  そこで注目したいのが、テレビ会議などのICTを活用したコミュニケーション体験です。同年代の海外の子どもたちとテレビ会議システムなどを使って話したり、メールをやり取りしたりすることで、自分の英語が通じた、知らなかったことを英語で知ることができたという体験は、その後の学習のモチベーションに大きく貢献します。また、テレビ会議等では、英語を聞き取れたか、伝わったかどうかがすぐに分かりますから、どの技能を強化しなければならないかも実感できます。

  さらに、「苦労してまで日本を離れたくない」という内向き志向の若者にICTを介してリアルなコミュニケーションを体験してもらえば、「海外に行ってみたい」という自信が芽生えるなど、可能性が拡がるはずです。

  テレビ会議が行える部屋を各学校1室でも用意できれば、海外協定校と日常的に接触して教育の質の向上につなげることができます。

  例えば、日本では理科や数学を英語で教えることができる高校教員はまだ少数ですが、テレビ会議を授業の中に組み込んで週に1回は海外の高校における理科の授業に参加する、動物園とつないで生物の学習を英語で行う、ということもでき、英語で他教科の内容を学ぶことが可能になります。

海外交流学習 成功のポイント

  テレビ会議などによる交流授業を成功させるためには、交流先にとってもメリットがある指導計画が必要です。

  例えば千葉県立長生高校(3面参照)では、「科学研究を英語でプレゼンする」ことを到達目標にして、テレビ会議を活用してオーストラリアの高校と共同授業を開発中です。生徒の英語力が多少拙くても研究内容のレベルが高いので、相手方の高校生にとっても勉強になり、メリットがあります。

  このような学習体験は、受験にはマイナスだと考える方もいるようですが、長生高校の注目すべき点は、大学進学実績も伸びており、学校側が自信をもって大学側に送り出せる生徒を育むのにプラスになっていることです。

  また、この他にも海外の姉妹校の生徒とiPadを使ってコミュニケーションを体験するプログラムを展開している学校もあると聞いています。交流先が日本語や日本文化の学習を行っていれば、こちらから提供できるコンテンツもありますし、交替で日本語、英語と言語を変えてコミュニケーションをとることもでき、双方にとって学習効果も期待できるでしょう。

  ただ、懸念されるのは日本の教育予算の少なさです。いまや大学ではほとんどすべての教室にプロジェクターか液晶パネルが設置され、かなりの数の教室でテレビ会議システムを使用できるようになっています。ところが高校においては、こういった機器の整備の遅れが目立っています。英語教育を改善していくためには、新しいシステムの活用も重要なポイントです。

  高校では、新学習指導要領が実施されるまでのあと1年間でしっかりと準備をする必要があります。グローバル人材育成には、中高、大学における英語教育のさらなる改善が欠かせません。先進的な取り組みの普及を願っています。(談)

 


■【グローバル人材育成】世界に雄飛する人材育成を強化する

 

【2012年5月7日号】

関連記事