●自殺をほのめかす相手に、何ができるか (2006年11月08日)
自殺をほのめかす相手に、周りの人間は何ができるのだろうか。
平成14年度に厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)によって研究された「WHOによる自殺予防の手引き」 というレポートがある。このレポートは、WHOが2000年に出版した6種の冊子のうち、一般医、プライマリケア従事者、 メディア関係者向けの手引き書の訳となる。
今回は、このレポートの、自殺を意図している人への対処法の部分を中心に紹介していくことにする。今回は、自殺に対し、 こう考えている人に読んでほしいところ。
「自殺は何の前触れもなく生じる。自殺について語る人は滅多に自殺しない」
「自殺について質問すると、かえって自殺行動を引き起こす」
「いったん症状が改善すると、二度と自殺の危機は起きない」
「自殺は、非難すべきものである」
「自殺は、破産、試験の不合格、性的虐待といった個人的な問題が原因である」
■元の文章
WHOによる自殺予防の手引き(PDF)
今回の文章は、基本的に引用です。「WHOによる自殺予防の手引き」の内、主に対処法の部分をコンパクトに、 シンプルに編集したものとなっています。ここで紹介されている方法を見て、さらに詳細なことを知りたくなった場合や、実際にこれらの方法を使用しなくてはならない事態が起こったときには、絶対に手引き本体を確認した上で、 それでも気軽に使用しようとは思わないでください(榊原)
■自殺に対する誤解、事実
誤解:自殺について語る人は滅多に自殺しない。
事実:自殺する人普通前もって何らかのサインを発している。
自殺をするとほのめかすような場合は真剣に受け止めるべきである。自殺した人の40~60%は、
自殺する以前の1ヶ月間に医師のもとを受診しており、その多くは一般医のもとを受診している。
誤解:自殺について質問すると、かえって自殺行動を引き起こしてしまう。
事実:自殺について質問するとしばしばその感情に伴う不安感が和らいでいく。
安心し、理解されたと感じる。
誤解:いったん症状が改善すると、二度と自殺の危機は起きない。
事実:いったん改善してエネルギーが戻ってきて、
絶望感を行動に移すことができるような時期にしばしば自殺が生じる。
以下の二つは、主に報道機関に対してのものである。
誤解:自殺は、非難すべきものである
事実:自殺に関連した事実のみを扱う。自殺以外の他の解決法に焦点を当てる。
誤解:自殺は、破産、試験の不合格、
性的虐待といった個人的な問題が原因である
事実:単純化した原因を報道してはいけない。破産、試験の不合格、
性的虐待といった個人的な問題を解決する方法として自殺を報道すべきではない。
■自殺の基礎的データ
○人口動態的データ
・2000 年には世界中で100 万人が自殺した
・頻度は、40秒に1度。未遂は3秒に1度。
・既遂自殺者は男性に多く、未遂自殺者は女性に多い。
・自殺は、若年者(15~35 歳)と高齢者(75 歳以上)に多い。
・どの国でも、若年者における「自殺」は3位以内の死亡原因である。
○周りへの影響
・自殺が起きると、1件当たり少なくとも6人が影響を受ける。
・学校や職場で自殺が起きると、数百人の人々に影響を及ぼす。
○原因
自殺はさまざまな要因から生じる問題であると今では考えられている。すなわち、生物・遺伝・心理・社会・環境要因が複雑に関与して生じる。
自殺に関連する要因には、以下のような個人的かつ社会人口動態的要因がある。
・精神障害(うつ病、アルコール依存症、人格障害)
・身体疾患(末期で、激痛を伴い、進行性の疾患:たとえば、AIDS)
・自殺未遂歴
・自殺、アルコール依存症、他の精神障害の家族歴
・離婚、死別、単身生活者
・社会的な孤立
・失業、定年退職
・幼児期の死別体験
○トリガーとなるライフ・ストレス
自殺を決行する以前の3ヶ月間に、人生におけるストレスに満ちた出来事を経験していることが多い。
・対人関係上の問題。例:配偶者、家族、友人、恋人との不仲。
・拒絶。例:家族や友人との離別。
・喪失体験。例:経済的喪失、死別。
・職業上の問題。例:失業、定年退職、
・経済的な問題。
・社会変動。例:急激な政治・経済上の変化。
・辱めを受ける。
・他者の自殺を経験する(身の周り、報道など)
■自殺をしそうな人の心理状態
どのような問題であっても自殺の危険の高い人の感情や思考は世界共通のものである。以下の3点が特徴的。
1. 両価性
生きたいという願望と死にたいという願望の間を激しく揺れ動いている。実際には死にたいわけではなく、むしろ、
人生に満足していないと言うべきである。適切な援助が差し伸べられれば、生の願望は増し、自殺の危険は和らいでいく。
2. 衝動性
自殺は衝動的な行為でもある。他の衝動と同様に、自殺衝動も一過性のものであり、数分あるいは数時間しか続かない。
この衝動性はごく日常的な不快な体験から引き起こされるのが一般的である。そのような危機的状況を解決するか、
あるいはしばらく時間をかせぐことで、自殺の願望を減らすのに助力できる。
3. 頑固さ
自殺の危険が高まると、思考・感情・行為が非常に幅の狭いものになっていく。常に自殺のことばかりを考え、
問題を解決する他の方法を考えられなくなってしまい、ひどく極端な思考に陥ってしまう。
■自殺をしそうな人を、どう見分けるか
○行動レベル
・疲れやすい
・注意が集中できない
・睡眠障害(睡眠不足・過剰睡眠)
・身体のさまざまな部分に、漠然とした痛み
・通常の活動に興味を失う。
・原因不明の体重減少、体重増加。
・イライラして落ち着きがない。
・決断が下せない。
・物忘れ。
・死や自殺を繰り返し考える。周りに表明する。
・引きこもりがちな行動を認め、家族や友人と良好な関係を持てない。
・精神障害/身体疾患。
・アルコール依存症。
・不安障害、パニック障害。
・不安・焦燥感、厭世的態度、抑うつ感、無力感などに現れる性格変化。
・食事や睡眠パターンの変化。
・自殺未遂歴。
・最近の重大な喪失体験。例:死、離婚、別居など。
・自殺の家族歴。
・個人的な事柄を突然整理しようとしたり、遺言状を用意する。
・遺書。
○感情・思考レベル
・悲哀、抑うつ 「死んでしまいたい」
・孤独感 「なにもできない」
・無力感 「もう耐えられない」
・絶望感 「私は負け犬だ。皆の迷惑になる」
・無価値感 「私がいないほうが皆は幸せだ」
■働きかけの方法 ~ 危険度別
低:具体的な計画がない。
・心理的にサポートする。
・絶望的な感情に働きかけ、喪失感、孤独感、無価値感について率直に話す
・自殺以外の他の方法で問題を解決できるかという点を本人が語るように助力する
・精神保健の専門家や医師に紹介する。
・定期的に会い、接触を保つ。
中:計画を立てているが、直ちに自殺するつもりはない。
・絶望的な感情に働きかけ、本人の本来持っている力に焦点を当てる。
・死に対する複雑な感情に焦点を当てる。自殺の危険の高い人が感じている両価的な感情に目を向けて、徐々に生の願望を強めていくようにする。
・自殺以外の他の方法を探る。それが理想的な解決策でなかったとしても、患者が少なくともそのうちのひとつを試みるように、
自殺以外の方法を探る
・接触を保つ。
・自殺しないという約束を本人から取り付ける。
・精神科医、カウンセラー、医師に紹介し、できる限り早い段階で予約を取る。
高:はっきりとした計画があり、方法も手にしていて、
直ちに自殺する危険がある。
・その人と一緒にいる。けっして一人にしない。
・穏やかに話しかけ、薬、ナイフ、銃、殺虫剤などを取り除く。
・自殺しないという約束をしてもらう。
・精神保健の専門家や医師に直ちに連絡し、救急車を呼び、入院の手配をする。
・家族に連絡し、協力を得る。
■働きかけの方法 ~ 傾聴
最も重要なのは、誠実に相手の訴えを傾聴すること。絶望感を少しでも和らげるための重要な一歩となる。
事態を改善する希望があることを伝えるのが目的となる。
○基本的条件を整える
1. ふさわしい場所を探す
他人の目を気にしないで、静かに個人的に話しができる適当な場所を探す。
2. 十分な時間をとる
自殺の危険の高い人というのは、自分の背負ってきた重荷を下ろすのに多くの時間がかかる。話を聞く人は、十分な時間を与える必要がある。
○傾聴をするときの態度
冷静で、率直で、相手の立場を思いやり、受け入れ、一方的な判断を下さないといった態度が大切。
・相手の訴えに真摯に耳を傾けるとともに、冷静な態度を保つ。
・相手の感情を理解しようとする。
・相手の訴えを受け入れて、尊重するというメッセージを非言語的に伝える。
・相手の意見や価値観を尊重する。
・誠実な態度で話をする。
・相手を心配していることを伝える。
・相手の感情に焦点を当てる。
・相手の立場を尊重する。
○傾聴をしつつ、会話の目的を達成する
傾聴の一方で、以下の目的が達成されるようにする
・相手の置かれた状況を真剣に受け止め、自殺の危険の程度を判断する。
・自殺以外の可能性を探る。
・自殺しないという約束をしてもらう。
・どのようなサポートが得られるか検討する。
・可能ならば、自殺に使われるそうな手段を取り除く。
・実際に行動を起こし、他者に知らせ、助けを求める。
・(自殺が生じる危険が高い場合)その人と一緒にいる。
○とってはいけない態度
・話題をそらそうとする
・説得する(もっと苦しんでいる人も居る、など)
・相手の話をしばしばさえぎる。
・ひどく驚いたり、感情的になる。
・忙しいと伝える。
・過度に保護的になる。
・干渉的になったり、あいまいな意見を言う。
・状況を無視する。
・狼狽したり、パニックになる。
・何も問題はないと言う。
・自殺してみろなどと挑発する。
・些細な問題だととらえる。
・誤った保証を与える。
・秘密にすると約束する。
・その人をひとりにしてしまう。
・質問攻めにする。
■働きかけの方法 ~ 質問
質問攻めにしてはならない。しかし、自殺の危険がどれくらい高いかを確認するために、質問していかなければならないこともある。特に、
自殺の計画を立てていて、その方法まで手に入れているかどうかを知ることは重要である。計画をすでに立てていて、具体的な方法(たとえば、薬)
を手に入れている場合、あるいはその方法がすぐに手に入るような場合は、自殺の危険は高いからである。
押し付けるような感じや強制的な感じを相手に抱かせないようにして、さらに詳しく質問をしていく。
○いつ質問をすべきか
・相手との信頼関係ができあがったとき。
・自分の感情を進んで話そうと思ったとき。
・絶望感や無力感といった否定的な感情について話し始めたとき。
○何を質問すべきか
1. 自殺するはっきりとした計画があるかどうかを確かめるためには、
・「人生を終わらせようとする計画があるのですか?」
・「どのようにそれを具体的に実行するつもりですか?」
2. 具体的な手段を手にしているかどうかを確かめるためには、
・「薬、銃、殺虫剤などを手に入れていますか?」
・「すぐにその方法が手に入るのですか?」
3. 自殺を決行する時期を決めているかどうかを確かめるためには、
・「人生を終わらせる計画をすでに決めてしまっているのですか?」
・「いつその計画を実行に移すつもりですか?」
4. その他の質問
・「悲しいのですか?」
・「あなたのことを誰も心配してくれていないと感じているのですか?」
・「生きていても仕方ないと感じているのですか?」
・「自殺したいと感じているのですか?」
・「すっかり絶望してしまったのですか?」
・「毎日が耐え切れないと感じているのですか?」
・「人生が重荷になってしまったと感じているのですか?」
■報道・周知の際に行うべきこと
マスメディア向けにまとめられたものだが、事実が起こったときの学校・教育委員会などの対応基準としても使用できる。
○すべきこと
・事実を報道する際に、精神保健の専門家と緊密に連絡を取る。
・自殺に関連した事実のみを扱う。一面には掲載しない。
・自殺以外の他の解決法に焦点を当てる。
・電話相談や他の地域の援助機関に関する情報を提供する。
・自殺の危険因子や警戒兆候に関する情報を伝える。
○してはならないこと
・遺体や遺書の写真を掲載する。
・自殺方法を詳しく報道する。
・単純化した原因を報道する。
・自殺を美化したりセンセーショナルに報道する。
・宗教的・文化的な固定観念を当てはめる。
・自殺を非難する。
・破産、試験の不合格、性的虐待といった個人的な問題を解決する方法として自殺を報道する
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投稿者 kksblog : 2006年11月08日 12:10
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