• StuDX Style
    教育委員会対象セミナー
    KKS 学校教材 学校教材をお求めの方
    JBKジュニア防災検定
  • ブックレビュー
    都道府県別教育旅行リンク集
    おうちミュージアム
最新ニュース

健康診断の検査項目の意義やプライバシーの配慮などについて討議~「学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会」第1回目を開催

2025年5月27日

児童生徒が抱える健康課題が多様化・複雑化している中、健康診断の検査項目や学校医の確保など保健管理について現状を把握し、その在り方などを検討するため、文部科学省初等中等教育局 健康教育・食育課は「学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会」を4月18日に設置。第1回目となる検討会が5月19日に開催された。座長は聖マリアンナ医科大学予防医学主任教授の髙田礼子氏。

第1回目の検討会の様子

■健康診断の検査項目やプライバシーへの配慮などを検討

「学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会」(以下、検討会)では、①健康診断の検査項目の意義やプライバシーへの配慮などの実施方法、②保健管理に係る教職員の負担、③学校医の確保、④その他必要な事項など、学校における保健管理に関する課題について現状把握や分析を実施。2026331日まで検討会を設置し、各委員から意見を聞いていく。

 

■多様化・複雑化する児童生徒の健康課題

肥満・痩身、生活習慣の乱れ、アレルギー疾患、メンタルヘルスの問題など、現代の児童生徒は多様な課題を抱えている。そうした心身の不調の背景には、いじめ、児童虐待、貧困などの問題が関わっていることから、児童生徒が抱える健康課題は多様化・複雑化しており、個に応じた継続的な指導・支援の充実が求められる。現在、学校では養護教諭が中心となり、子供たちの健康課題に対して個別的な対応が行われている。

 

■健康診断は毎学年630日までに実施

学校保健安全法に規定される健康診断は、①就学時の健康診断、②児童生徒等の健康診断、③職員の健康診断の3つが挙げられる。このうち児童生徒等の健康診断については、実施時期、検査の項目、対象学年、方法および技術的基準などが定められており、毎年630日までに行われる。その際、健康診断を受けることができなかった児童生徒に対しては改めて受ける機会を確保する。

 

■学校医の確保やプライバシーの保護などに向けて通知を発出

文科省は健康診断の実施に当たって留意すべき事項について、2024918日に事務連絡を発出。学校医の確保については、各地域の医師会などと連携して確保に努め、困難な場合は医療機関などに委託するなど対応するよう求めている。健康診断における児童生徒のプライバシーの保護については懸念される一方、着衣の状態では正確な検査・診察が困難になることが問題となる。そこで学校医と相談して共通理解を得た上で、児童生徒や保護者の理解を得ることが求められる。

 

■他の教育が業務を分担することで養護教諭の負担を軽減

文科省が2022年度に実施した「教員勤務実態調査」では、前回調査の2016年度と比較して、教員の働き方改革が進んだこともあり、平日・土日共に、すべての職種において在校等時間が減少。養護教諭も例外ではなく、平日の在校等時間は小中学校ともに9時間53分となり10時間を切った。また、養護教諭等の業務支援に関する取組では、すべての校種において「校内の他教職員との業務分担・連携」が最も高く、周りの教員に業務を分担することで養護教諭のみに負担がかからないよう配慮するケースが見られた。

 

■都道府県により大きく異なる学校医数

学校保健安全法では、「学校には学校医を置くものとする」「大学以外の学校には学校歯科医および学校薬剤師を置くものとする」と規定されている。1校当たりの学校医数は、小学校2.81人、中学校2.77人、高等学校2.52人となるが、1人の医師が複数の学校を兼務しているケースもある。また、学校医数は都道府県により大きなばらつきがあるのが問題となっている。

 

■ヒアリングなどを行いながら健康診断の在り方などを検討

こうした現状を踏まえて検討会では、「学校における健康診断の今日的意義の再確認」、「児童生徒の健康課題の変化や学校医の確保などを踏まえた健康診断の実施項目や実施方法」、「プライバシーなどを配慮した健康診断の在り方」、「養護教諭や学校医などの負担軽減」などについて話し合われる。また、医療関係団体、教員、保護者などへのヒアリングを必要に応じて実施する予定。


<検討委員会のメンバーが考える保健管理の課題>

第1回目の検討会では、議論の進め方や着眼点などを含め、各委員が考える保健管理が抱える課題について次のように述べられた(50音順)。


【女子栄養大学栄養学部教授 遠藤伸子氏】

この検討会では健康診断に加えて、健康観察の実施方法などについても討議してほしい。日常的な健康観察は教員が行うことになっており保健管理の重要な要素である。通常、朝の健康観察は担任が行い、その結果から心身の健康に課題がある児童生徒を把握して健康相談や保健指導にあたることが養護教諭の役割となる。

新型コロナにより健康観察にICTを活用する学校が見られたが、コロナが落ち着いてからは多くの学校で旧来の形式に戻っている。健康状態を書いて申告する方式では毎日の作業が大きな負担となる。ICTを活用して効率よく健康観察データを回収することで、心に問題を抱えた児童生徒の早期発見につながったケースもある。心の問題を直接に相談できない児童生徒の増加を考えると、ICTの活用も必要だと考える。


【狛江市教育委員会教育長 柏原聖子氏】

新学習指導要領の改訂に伴い、グローバル化やデジタル化などを持続化するためには健康管理や保健管理が見逃せない問題となる。保健管理の出発点は子供たちが自らの健康管理をできるようにすることにある。それを踏まえて、心の問題に焦点を当てる必要がある。また、健康診断は630日までに実施することになっているが、それが妥当なのかも考えていきたい。デジタル化については教育DXが進む中、新たな保健管理の在り方も視野に入れて考えるべきと思われる。


【聖マリアンナ医科大学予防医学主任教授 髙田礼子氏】

健康診断の項目については、健康診査が満たすべき18の要件から学校健診を評価する上でも不十分な部分が指摘されている。生活習慣病など将来を見据えた健康管理や疾病予防が重要と提言されているが、そうした点も見据えて、健康診断の検診項目を検討してほしい。厚労省の「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関わる検討会」では、一般健康診断の目的を踏まえ、健康診断の項目を検討する上での要点や着眼点を設定して検診項目の追加等の検討を進めている。学校健診においても、学校保健における目的を十分に捉え、今後の検討課題を見据えて着眼点を設定することが望ましい。


【東京都中部学校経営支援センター支所長 田中妙美氏】

養護教諭や学校医、保護者からの意見を取り入れるため、ヒアリングを実施するのは良いことだと思う。ヒアリングでは健康診断を実施する意義について、その必要性を抑えた上で、診断項目や実施方法を精査することが望ましい。

2024年122日に文科省から「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施のための環境整備について」という通知が発出された。プライバシーの問題は学校としても喫緊の課題であり、特に内科健診については学校も苦慮している。通知文書でも学校医と相談し、プライバシーに配慮した上で健診を行うよう求めている。健康診断で下着を着用するかどうかは学校によっても異なるが、学校、学校医、保護者の間で共通認識を図る必要があると思われる。


【全国養護教諭連絡協議会会長 辻野智香氏】

小学校における健康観察では朝のホームルームで児童一人ひとりの顔を見ながら健康状態などを把握して、記録簿を保健室に届ける。集まった全校の記録簿を養護教諭が確認し、集団感染の兆しや児童の状態などを管理職に伝え、問題のある児童は前日までの様子と合わせて、その日の対応を確認する。一方、コロナを機に導入された11台端末に児童が健康状態を入力することで健康観察が行える学校もある。これにより担任や養護教諭、管理職が管理画面から児童の状態が把握できるなどデジタル化も進んでいる。

以前は電話や連絡帳で児童の欠席を伝えていたが、デジタル化によりスマートフォンから欠席連絡が入れられるようになった。また、宿泊行事前や水泳指導前などの保健調査も従来は紙媒体で実施していたが、携帯の端末で集計して個別対応につなげている。近年はスクール・サポート・スタッフが配属されたことで働き方改革が進んでいる。保健管理のスリム化が実現すれば保健教育や組織活動の活性化につながり、いじめや虐待の防止につながることが期待される。


【(公社)日本薬剤師会常務理事 富永孝治氏】

学校においては学校環境衛生基準に則り、定期検査と日常点検が行われており、定期検査は学校薬剤師が学校に赴いて実施。日常点検は検査結果を学校薬剤師が把握し、改善すべき点があれば学校管理者に報告する。なお、検査結果などついては学校保健委員会と結果を共有し、学校保健計画を作成する上での課題を検討する。子供を取り巻く生活環境は大きく変化しており、身体だけでなく心の問題にも対応することが求められる。時代に即した保健管理を進めることで、子供たちの健康課題の解決につながることが望まれる。


【(公社)日本学校歯科医会専務理事 長沼善美氏】

健康診断において歯科検診は11本の歯を診るため、他の検査よりも時間がかかる。歯科検診は検査項目も多いため、健康診断における養護教諭の負担も大きくなっている。負担を軽減するため校務支援システムの導入も進められているが、その移行にも時間がかかる。それを解決するため学校のDX化に向けて調査研究を実施し、健康診断の結果を素早く事後措置に結び付けることが理想である。検診ソフトなどを校務支援システムに取り入れることで改善につながると思われる。今後は校務支援システムが導入されたので、それを活かした健康診断が行われることが望まれる。


【金城大学看護学部准教授 子吉知恵美氏】

これまで乳幼児健診の結果を、学校にどうつなぐかの研究などを実施してきたが、現在は5歳児検診の研究を、こども家庭庁の研究班として取り組んでいる。地域の乳幼児健診においても医師の確保が課題となっており、地域差があることを実感している。学校現場においても学校医の不足など、さまざまな課題を抱えていることから、学校現場の状況に詳しい各委員の意見を伺いながら、私のバックグラウンドを踏まえて一緒に考えていきたい。


【熊本市立春日小学校校長 藤髙ちよ氏】

春日小学校でも4月から6月にかけて、健康診断を計画して実施している。健康診断は子供たちが学校生活を送るにあたって支障があるかどうかをスクリーニングして健康状態を把握する役割と、学校における健康課題を明らかにして健康教育に役立てるという役割がある。健康診断の結果に異状が疑われる場合、医師の診断に基づき、学校生活において管理を行っていく。健康診断において「児童生徒の心情やプライバシーへの配慮することが重要」との通知が文科省から発出されたが、現場での対応は十分にできていないのが現状である。学校医との十分な打ち合わせが不足したり、保護者などへの周知も課題がある。そうした課題を解消すべく養護教諭を中心に管理職も含めて対応している。児童生徒を預かる学校としては、子供たちの安全・安心が最優先事項であり、持続可能な保健管理の在り方を検討することが子供たちの将来にわたる健康づくりにつながると考える。


【浜松医科大学健康社会医学講座准教授 明神大也氏】

負担軽減に関しては、子供の数は減少しているが健康課題を抱える子供の割合は増えており、養護教諭をはじめとする教員の負担は増えている。そのため負担軽減に向けて、働き方改革を進めることが求められる。私が住んでいる地域には小児科が1つしかないため、1人で複数の幼稚園や学校を担当しているなど学校医の確保が難しい状況となっている。人口の構造の大きな変化に伴い、大都市圏を除いた多くの地域で外来の患者は減少している。そのため医療機関の減少が始まり、学校医や学校薬剤師の確保が、より困難となることが予測される。課題は山積しているが打開に向けて検討を進めていきたい。


【(公財)日本学校保健会専務理事 弓倉整氏】

課題の一つに学校医の高齢化が挙げられる。厚労省の資料では診療所の医師が後継者を決めずに、80歳で廃院すると2040年には関東で41%の診療所の医師がいなくなるとある。学校医が不足する中においても、しっかりと健康診断ができる状況にすることが求められる。内科の健康診断では、心臓音や呼吸器の聴診、皮膚の変化、胸郭および脊柱の変化を見ることになっているが、着衣の状態だと正しい診断が難しい。脱衣をしない健康診断で脊柱の側彎を見落として裁判になっているケースもある。プライバシーを優先するか、検診内容を優先するかは学校医を悩ませている問題でもある。

また、630日までに健康診断を行うこととなっているが、従来通りで良いのかは疑問の残るところである。学校基本統計もあるので身体計測の結果は630日までに必要だと思うが、すべての検査を630日までに行う必要があるのか議論を進めてほしい。


【(公社)日本医師会常任理事 渡辺弘司氏】

トップダウンで保健管理について決めても、現場が納得できるものでないと円滑な実施は望めない。また、健康診断に携わる人が共通認識を持っていないと脱衣のような問題が発生する。医師の立場としては着衣の状態では正確な検診ができないと考えるが、プライバシーの観点から脱衣による検診は難しいという意見もある。共通認識ができるような体制が取られるよう、円滑に情報を公開しながら検討会では討議を進めていきたい。

健康診断は実施したら終わりではなく、データを利活用して児童生徒のヘルスリテラシーを見つける体制が求められる。そのためにはクラウド型の校務支援システムを全国に導入し、医療データの連結が行われれば養護教諭の負担も軽減され、個人のヘルスリテラシーも向上すると思われる。

 

学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会(1)の開催について

  • フィンランド教科書
  • StuDX Style
    教育委員会対象セミナー
    KKS 学校教材 学校教材をお求めの方
    JBKジュニア防災検定
  • ブックレビュー
    都道府県別教育旅行リンク集
    おうちミュージアム
最新号見本2025年05月16日更新
最新号見本
新聞購入は1部からネット決済ができます

PAGE TOP