GIGAスクール構想第2期の整備が全国で始まっている。単に端末を更新するのではなく、GIGA1期で生じた課題を解決したり新しい学びを実現しやすくしたりするためのバージョンアップが求められている。東広島市教育委員会(小学校33校・中学校15校)ではGIGA2期の端末更新を先駆けて実施し、今年度から活用をスタートしている。県内で唯一、児童生徒用端末としてWindowsOSを継続して利用しており、GIGA2期の国庫補助対象にもなった予備機についてはGIGA1期から約10%程度確保していたという同市の調達の進め方と考え方、GIGA2期におけるバージョンアップと支援について、東広島市教育委員会学校教育部指導課の徳満謙三参事と教育総務課の引地陽介主任主事、新谷裕貴主査に聞いた。
教育総務課の引地陽介主任主事、学校教育部指導課の徳満謙三参事、教育総務課の新谷裕貴主査。手前は東広島市の観光マスコット『のん太』
――GIGAスクール環境第2期において東広島市が実現したい学びについて教えて下さい
2025年度の本市の目標は、ICT機器を子供は「日常的」に活用すること、教職員は「より効果的」に活用することとしています。これまで積み上げてきた教育実践にICTをミックスすることで子供たちの力を引き出し、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供を誰一人取り残すことなく資質・能力を確実に伸ばすICT環境を整備したいと考えています。
――東広島市のGIGAスクール構想に関する整備の流れについて教えて下さい
東広島市ではGIGAスクール構想による情報端末配備を2020年12月に行っています。年ごとに授業活用が進むにつれて端末に係る課題がいくつか生じていたこともあり、早期に入れ替えようと2024年4月、先行して1学年(小学校3年生)のみ情報端末の入れ替えを実施。このタイミングでWindows10から11にバージョンアップを行って検証しました。
残り8学年分の端末については2024年度に予備機と合わせて調達し、今年度から活用が始まっています。
このほか大型提示装置は市として全普通・特別教室に配備済で、定期的に更新。ネットワーク環境についても2022年度までに概ね終了しており、現在は校内どこでもWi-Fiを利用できる環境にあります。
――GIGA1期、2期ともにWindowsOSを選択した理由を教えて下さい
理由はいくつかあり、1期と2期では理由も異なります。
最も大きな理由は、多くの企業・大学・高校で使用されるのはWindowsPCであるという点です。小中学校から慣れることで情報活用能力の育成につながるであろうと考えました。
また、本市では2018年度から、校務用兼指導用PC、大型提示装置、無線環境を利用した授業が広く行われており、教員の実践や教材が蓄積されていますので、児童生徒用端末も同じOSである方がその後の活用がスムーズであろうと考えました。
さらに校務DXを進めるタイミングで2023年度から教員用端末にMicrosoft365Education A5を導入しており、Student Use Benefit(学生使用特典) を利用して児童生徒用端末のOfficeライセンスを整備できること、児童生徒用端末も教員用端末もMicrosoft Intuneで管理できる点がメリットであると考えました。
GIGA1期で生じた起動や動きの速さ、アップデートなどの懸念点も指摘されていましたが、これについては、端末スペックの向上で対応することとしました。
――端末の予備を予算化することは一般的に難しいと聞いています。予備機を導入した理由を教えて下さい
本市ではGIGA1期から予備機を整備しています。
児童生徒全員に端末を配備した場合、故障や不具合、破損は必ず起こります。その場合、保守サービスを調達して対応する、もしくはスポット修理を行う、保護者負担や動産保険での対応といった選択肢があります。本市はそれを、予備機で賄うという考え方で調達することとしました。
修理を依頼した際に代替機が当日学校に届くことは難しいだろう、それならば最初から予備機を学校に配備して即交換できるようにしよう、と考えたのです。
故障等は年間3%程度ではないかと予測したものの、5年間分の15%程度を予算組みすることは難しく10%としました。各校に配備した予備機は毎年、調査して各校で一定の数になるよう調整していきました。
予想通り4年を経て予備機の在庫がほぼなくなったこともあり、児童生徒端末1学年分を前倒しして整備することとしたのです。この1学年分は国庫補助を利用できませんでしたが、予備機が残り少なかったため、やむを得ない選択でした。
GIGA2期では予備機について、児童生徒用端末数分の15%が上限として積算されていますので、迷わず15%分を配備しました。今後の児童生徒数減を考慮すると若干余裕がありますが、余った場合も様々な活用を想定しています。
――文部科学省のGIGA2期の方針が出る前に端末配備を行ったことで、結果的に県の共同調達には不参加になりましたが、それによるデメリットがあれば教えて下さい
GIGA2期では共同調達が前提となり、広島県ではChromeOSとiOSについて共同調達することとなりましたが、本市はGIGA1期から教員も児童生徒もWindowsOSを利用しており、予備機が不足したことから先行して配備。これを前回と同じOSとしたことで、結果的にオプトアウトになりました。
先行配備の端末についてはスペックの向上を図っており、その後文科省から公表されたGIGA2期の端末の最低スペック基準と比較するとCPUやメモリ、ストレージ内容などが同等でした。
また、GIGA1期から予備機を約10%整備している点は本市の大きな特長ですが、2期では予備機が補助対象になり、かつ予備機以外での日常的な活用も想定されていることから、本市の整備方針は正解であったと改めて感じています。
結果的に共同調達には不参加になりましたが、整備したい内容が明確であったこともあり、不参加であったことについての大きなデメリットは感じていません。ただし先行1学年分の端末にGIGA2期の国庫補助を利用できなかった点はデメリットといえます。
――GIGA1期と2期で端末の仕様書はどのように改善しましたか
まずGIGA1期と同様に文教モデルであること、低学年がキーボードなしでも利用できるようにデタッチャブルタイプであること 、さらに2期で追加した点は落下ガードがついていること、ペン内蔵であることとしました。なおペンについては、GIGA1期は教材費つまり各家庭の負担としていました。
また、GIGA1期はディスク容量の不足によりアップデートが走らない、起動や処理速度が遅いなどの課題があったため、2期ではメモリを8GB、ストレージは128GBとしました。
これらの仕様を満たす情報端末はWindowsOSでは当時、数機種しかなく、入札の結果 dynabook K70を配備することとしました。
第1期も dynabookでしたが、端末もバージョンアップし堅牢性が強化されており、落下による故障率はさらに下がりそうです。熱可塑性ポリウレタンで外周が囲まれていて落下の際も本体内部への影響が緩和されます。さらに端末そのものが机上から滑り落ちにくくなっています。児童生徒が誤って机にぶつかった際に端末が滑って落下する危険が低減されました。
東広島市で導入したWindowsPC
机が斜めになっても滑り落ちない
――GIGA1期と2期で教材ツールについての改善はありますか
紆余曲折はあります。GIGA1期ではオフライン環境でもできるデジタルドリルや授業支援ツールを導入していましたが、2期で見直し、学習eポータルと親和性があり、かつAI技術を活用したドリルを選定しました。授業支援ツールについては2期では調達していません。
また、1期ではGoogleJamboardをよく利用していましたが、提供が終了したことからその代替ツールについて情報収集をして検討した結果、無償ツールであるCanva を利用することとしました。
本市では児童生徒用学習ポータル「のん★デジ」を独自で構築しており、低学年用・中学年用・高学年用・中学生用・遠隔授業用などに分けて各種コンテンツ・ツールに 1 クリックで飛べるようにしています。クリスマスにはサンタ衣装のマスコットキャラクター(のん太)が登場するなど担当者が工夫を凝らしています。
また、教職員向けには授業活用できる東広島市教職育用ポータルサイト「デジ★コン」を制作し、指導者用デジタル教科書をすぐに利用できるようにしたり自己研修ができるようにしたりしています。
学習用ポータル「のん★デジ」。各種教材、お知らせ、ルール、マニュアル等が充実。取材時の東広島市観光マスコット『のん太』は、熱中症予防のコスチュームであった
教育用ポータル「デジ★コン」から指導者用デジタル教科書や教材にリンク
――ICT支援員などのサポート体制について教えてください
「授業支援」「環境整備」2種類のICT支援員を配備しており、重要な役割を担っています。
授業支援担当のICT支援員は現在5人体制で、全員が元教員の市職員です 。遠隔授業を含めた授業サポートや授業プランのアドバイスを担う役割で、昨年は研究校や、活用率に課題があると思われる学校に集中的に配備するなどしました。今年度は各校への巡回を強化するほか、依頼があったときに学校訪問する形で進めています。
遠隔授業は継続した取組で、広島大学と連携して実施している広域交流型オンライン学習を今年度は15回計画しており、6月には市外・県外の学校ともオンラインでつないで多文化共生の学習を実施しました。その他、オンライン社会科見学も引き続き行っています。
環境整備担当の ICT支援員は 旧補助金事業の名称のまま、GIGAスクールサポーターとして 業務委託で配備しています。7時間×週4回× 4.5人程度の頻度で 、授業支援のICT支援員と合わせると約11人体制です。
本市の小中学校は48校(小中学校併設の4拠点を含む44拠点)あることから、国の基準である4校につき1人の体制とするにはあと1人ほしいところです。次年度以降にこの基準をクリアしたいと考えています。
ICT支援員は毎月、教育委員会に集まり、教育委員会から最新情報を伝えたり、各校の取組や今後の予定を共有したり、課題とその解決方法を話し合ったりしています。教職員対象の調査でICT支援のサポート体制について満足度が高い傾向がみられるのも、毎月のミーティングの成果ではないかと考えています。
―― 子供の学びや教員の働き方についてどのような変容がありますか
学習系はGoogleサイト、校務系はMicrosoftのSharePointサイトでポータルを作成するなどクラウドツールの活用は確実に進んでいます。Teamsチャットによる連絡や情報共有が当たり前になり、教員への連絡のための校内放送がなくなったという声も届いています。保護者連絡のデジタル化や会議の効率化、ペーパーレス化も図られつつあります。
教員の生の声がチャットを通して教育委員会にも届くため、学校との距離感が近くなり迅速な対応や改善が可能になりました。
教員研修は、各校にGIGAスクール推進教員を決め、その教員を対象とした協議会を年5回実施するほか、希望教員を対象として先進的な授業を参観して協議する研修を年3回、講義・演習型の研修を年3回実施する計画です。
また、各校でオンデマンド型研修を実施することができるよう15分程度の短い研修動画を「デジ★コン」にアップしていく予定です。内容はデジタルドリルやCanvaなどを予定しており、1人1台端末をより活用できるようにしたいと考えています。
授業については大型提示装置を効果的に活用した授業のほか、単元内自由進度学習にチャレンジする教員も徐々に増えています。また、年3回タイピング大会を開催したり、「デジタルアート」「プログラミング」「プレゼンテーション」の3部門を設けた「ICT作品コンペ」を開催したりするなど、子供たちの意欲やスキルを上げる仕組み作りも継続することにより、児童生徒の情報活用能力の向上が図られつつあります。
東広島市教育委員会 第6次学校教育レベルアッププラン(R6~R10)
高美が丘小学校で2024年度実施した授業研究