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教育ICT

授業改善を伴うICT活用で学力は向上する 義務教育で「学び方」「学ぶ意欲」を育む<東北大学大学院 東京学芸大学大学院 教授 堀田龍也氏>

2023年11月7日
第100回教育委員会対象セミナー・熊本

教育委員会対象セミナーを10月3日に熊本市内で、10月13日に金沢市内で開催。堀田龍也教授・東北大学大学院・東京学芸大学大学院、大久保紀一朗講師・京都教育大学教職キャリア高度化センター、4つの教育委員会と3つの小学校、中学校、高等学校が登壇し、次のフェーズに向けたICT活用について報告した。


東北大学大学院 東京学芸大学大学院 教授 堀田龍也氏

東北大学大学院 東京学芸大学大学院 教授 堀田龍也氏

堀田教授は「次の学習指導要領についての審議が本格的に始まる。学び方や学ぶ意欲を身に付けさせなければ義務教育は失敗である。教員が教えるべきは内容知だけではなく方法知=汎用的な学び方であり、子供に育むべきものが学習意欲である」と話した。

…◇…◇…

ICTで学力は上がるのか」とよく言われる。ICTの操作に完全に慣れ、学び方として機能するようになれば、当然ながら学力は上がる。

GIGA環境の配備後、どこの自治体も頑張って端末を使っているが、例え利活用が増えたとしても、授業観が変わらないと、学力向上につながらず、昔のやり方の方が良いと戻ってしまう。

しかし授業観が変わっていれば「端末がないとできない」学びが可能になる。

例えば端末にワークシートを配布して皆に同じことを端末でさせたがる教員は多い。

初期段階は良いが、その後、自己決定できる選択肢を増やすことが重要だ。教員がやりすぎてしまうことのアンチテーゼがGIGA環境である。

昨年度の全国学力・学習状況調査によると「主体的・対話的で深い学び」に向けた授業改善を行っている学校ほどICTの活用頻度が高く、平均正答率が高かった。新しい時代の授業観に変われるかどうかがGIGA環境の成否を決める。授業改善を伴わないICT活用は学力向上にはつながらない。

授業改善で育むべきものが学び方や学ぶ意欲である。これを身に付けさせなければ義務教育は失敗である。

授業改善のポイントは、子供たちがこれからの社会で生きていくときに、今のうちにしておかなければならない経験は何かを考えること。OSが異なる学校に転校しても、就職してからも、使えるようなICT活用の経験が重要。「今日はたくさん思考した」ことではなく、「今日学んだ方法を次の時間に使える」ことが重要だ。

身に付けるべき学び方とはどのようなものか。

例えば春日井市の中学校は、教員が単元目標や1時間の流れをクラウド環境で生徒に示し、それに基づいて学習課題を生徒が決め、教科書からキーワードを抜き出して整理・構造化・言語化して友達に説明してふり返るという流れをほぼ毎時間行っている。教科書の次は資料集、インターネットと生徒自身が選択して情報量を増やしている。

このような授業を繰り返すと1年後にはほぼ1時間の学びを子供に任せることができるようになり「学び方を身に付けた」と言える。学習の蓄積も増えるため、過去の学び方をどんどん参照できるようになる。

学び方が身に付くと、端末を持ち帰り、家庭でも同じように学ぶことができる。すると学校に行くことが必ずしもたった1つの正解ではないことに気付く。端末で子供同士が関係を構築することもある程度はできる。子供によっては学校に行くことの心理的ハードルが高い場合もあるが、端末でつながっていれば学校に戻るハードルが低くなる。

■最も重要な学びに向かう力

学びに向かう力は最も重要なものである。

子供自身がさまざまな学習リソースを選択する学び方は、教員の説明以上にリアリティがあり、子供の興味・関心を引き出すものだ。

教員は、子供それぞれの多様な気付きや発見が他者に認められる喜び、意見を共有して視野を広げる喜びを提供する役割が求められる。そこに教員主体の説明は必須ではなく、むしろ阻害になる場合もある。

チャット等で友達の学習内容が可視化されていると、思いつかないときに参照したり、学習課題への迫り方が似ている人と相談したりと視野が広がり子供の選択肢が増える。困った時にいつでも参照できることは安心感にもつながる。チャット活用はクラウド活用の重要な観点である。

答えが1つだった時代には友達の意見を見ることはカンニングを意味した。しかし、答えが1つではない課題に対し立ち向かわねばならない時代に、自分なりの取り組み方をそれぞれが評価し合う時代になり、子供たちが他者の良い点を見つける力、取り入れて自らの考えを更新していく力を育むためにはむしろ推奨されるべき学習過程である。

■なぜGIGAなのか

知識や技能を活用するためには、人に説明したり、過去の学びと比較したりすることが大切。しかし子供1人ひとりが主体的に学ぶ支援は教員1人では難しい。そこを解決するツールが端末でありクラウド。これからの学習基盤である。

コロナ禍で需要が増したオンデマンド配信は今後も学校教育に生かしていきたい部分だ。いつでもどこでも見ることができ、早送りやスロー再生、わからないところを繰り返し見ることもでき、選択肢が広がる。

クラウド前提になると授業研究や公開研究も変わっていく。

静岡県吉田町は町内の全小中学校職員が参加する町ぐるみの授業研究を実施しており、クラウドを使って最新の指導案や座席表、子供の端末の画面を共有。授業へのコメントは端末上の付箋ツールに記入し、授業後の協議会は付箋の整理から始まる。教育委員会では、SNSで授業や研修の内容、自由な感想や意見を随時発信しており、教員の授業へのメタ認知や他自治体との連携につながっている。こうした教育委員会の柔軟性もこれからの時代に重要だ。ICTを活用していない人に合わせるのではなく、活用していない人が活用するようになるシステムを作っていくことが求められている(関連3)

■リアリティの概念も変わる

1人ひとりの力を伸ばすことが目標の時代に、かつての授業観に囚われていないだろうか。ネット上の情報はリアリティがない等の意見も聞くが、縄文時代の土器もインターネットで画像を検索すれば複雑な模様が一目でわかる。

理科の実験を動画で記録しておくことも身の回りにメディアが多くある現代人にとっては当然の感覚だ。見返して整理したり、集中して観察したり、プレゼンテーションに使ったりすることができる。

今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太方針2023)では、ICTの利活用を日常化させること、学びの変革つまり授業スタイルを変えていくこと、そのために情報活用能力の育成や校務の改善が必要であることが示され、公教育の必須ツールとして11台端末の更新を着実に進めることが明記された。

次期学習指導要領では、11台端末があり、情報活用能力が身についていることが前提で進むことになるだろう。

【第100回教育委員会対象セミナー・熊本:2023年10月3日 】

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年11月6日号掲載

 

  1. 熊本市教育委員会 教育センター副所長 吉田潔氏
  2. 山江村教育委員会 教育長 藤本誠一氏
  3. 東北大学大学院 東京学芸大学大学院 教授 堀田龍也氏
  4. 熊本市立五福小学校 校長 小田浩之氏
  5. 熊本県立第二高等学校 教諭 染森千佳氏
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