3月27日、岡山市内で第119回教育委員会対象セミナーを開催した。
安藤明伸教授・広島工業大学は生成AIの教育活用について、山本朋弘教授・中村学園大学教育学部はGIGA2期の個別最適な学び・協働的な学びの質的向上について講演。愛媛県教育委員会はメタバースを活用した不登校支援、岡山市立平井小学校は端末とクラウドを活用した授業改善、岡山県立岡山芳泉高等学校は生成AIを活用したアクティブ・ラーニング型授業と校務効率化の取組を報告した。
中村学園大学教育学部 山本朋弘教授
山本朋弘教授はAI時代の個別最適・協働的な学び、GIGA2期に向けたポイントや主体的な学びにおける教員の支援について講演した。
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生成AIの教育利用が進んでいる。埼玉県久喜市の小学校では、4年生の児童が新1年生への学校紹介の際にAIを使い、「新1年生は校庭という漢字を知っているか」と問いかけたり、校庭の魅力について調べたりしていた。子供たちは、図書館やインターネットに加え、生成AIという情報収集の手段を広げている。
生成AIの利用には慎重な姿勢も求められる。ユネスコの報告書では生成AIを確率的オウム(stochastic parrot)と表現している。これは、オウムが言葉の意味を理解せずに音を模倣するように、AIもデータから確率的に文章を生成するに過ぎないという指摘だ。純粋に新しい価値や意味を創造するのは、あくまで人間であり、子供たち自身が新しい価値や意味を生み出す学びが、今後ますます重要になる。
AIはデータ利活用との関係も深い。AI型ドリルなどの進化は目覚ましく、とりわけビッグデータの活用に注目が集まっている。しかし、ビッグデータだけが価値ある情報ではない。子供たち1人ひとりの変化など、スモールデータをどのように捉え活用するかが、これからの教育現場では問われるだろう。
文科省はこども家庭庁の事業「こども・若者意見反映推進事業(通称:こども若者★いけんぷらす)」の一環として、次期学習指導要領についての子供たちの意見を募った。学び手の声を聴き、それを活かす取組は、今後当たり前に行われるべき重要な観点だ。熊本県高森町や佐賀県武雄市でも、授業研究会に子供たちが参加し、授業の内容や自身の学びの変容について意見を述べる場が設けられている。
文科省の調査によると不登校の理由として「やる気がでない」と回答した割合が最も多く、中教審への諮問においても主体的に学びに向かうことができていない子供の存在が課題として挙げられている。端末活用が導入期を経て活用期・発展期へと移行している今、学習者主体の学びが求められている。
一方でICT環境の整備は進んだものの、授業スタイルそのものは従来の枠組みから脱却できていない点も指摘されている。様々な学校を支援してきた中で、授業観・学習観の転換が大きな壁となっていることを実感している。
主体的に学べない子供と自分の力でどんどん先に進む子供の共存にどう対応するか。学びの中で自らの問いを立てる力の育成をどう進めるか。ただ情報を集める「結果集め」にとどまることなく分析・考察に達するための支援など、これらの問題の解決がGIGA2期の重要なポイントとなる。
個別最適な学びの第一歩は、学習ツールや学び方、誰と学ぶかを子供自身で選び、自ら決めることだ。これはすでに多くの学校で実践されている。
学習内容や課題の自己選択・自己決定は、レベルが一段階上がる。学習内容を自ら決めるには、課題を明確に把握し、結果を見通す力が必要になるためだ。これが不十分だと見当違いの方向に進んでしまう。この段階に達している学校はかなり進んでいるといえるだろう。
子供が自分で学習ペースを決めることはさらに難易度が高い。単元とも関わってくるため子供に委ねるのは容易ではないものの、授業以外の活動まで含めて柔軟に取り組んでいる地域や学校の事例が報告されている。
福岡教育大学付属小倉小学校では、個の選択・決定に関する学習内容や学習方法の難易度を学年ごとに整理し、低学年は学習ツールや表現の仕方、中学年は学習形態、高学年は活動の順序や時間配分と、段階的に自己選択・自己決定の範囲を広げている。端末を活用しながら、発達段階に応じて学校全体で取り組むことがポイントだ。
グループ活動の人数などを教員が決めている場合は子供の主体性が十分に発揮されていない可能性もあるものの、多くの学校では座学から脱却し、子供が自由に移動しながら学習できる環境が整いつつある。
互いの考えを共有する他者参照やクラウド上での共同編集、チャットでの情報交換など「静かなる協働」は、子供の主体的な学びや協働的な学びの中で有効に機能している。これにより学びを深める子供の様子が多くの学校で見られるようになった。さらに他者参照を促進するためには色を使ったポジショニングなど教員の支援が必要だ。授業研究会を従来の集合型から共同編集へと移行している学校もある。
「わからないことが恥ずかしいから1人で学んでいる」子供もおり、協働的な学びでは、子供の孤立化や孤独化を防ぐことが重要になる。
2025年度の重要なテーマの1つは、子供主体の学びが進む中で教員がどのように関わるかである。自由進度学習や複線型の授業といった学習方法は広く研究されてきたが、方法論にとどまると学びが空洞化し表面的なものになりかねない。
そのため現在は「学びの本質」をテーマに、学びの質的向上や深い学びを追求する研究が進められている。端末活用においても同様に学びの本質に焦点を当てることが必要である。
主体的な学びは子供が自ら進めることに重点を置くが、内容の理解が伴わなければ深い学びにつながらない。すでに取り組んでいる学校ではこの点が課題となっている。本質的な学びへと高めることが求められており、これは教員主導の授業においても同様である。
主体的な学びにおける教員の支援を4つの視点で整理した。
1つめは子供の「ハテナ」を誘発することだ。子供が「なぜ?」と思わなければ自ら学びを進めようとはしない。そのため魅力ある課題設定や教材化が求められる。教科書の内容をそのまま提示するのではなく子供の興味を引き出す工夫が必要だ。単元のスタート時に魅力的な課題を提示すれば、それは継続される。そのためにも教材研究をしっかり行うこと、かつ教材がデジタル化されいつでもどこでも活用できるようにすることだ。
生活に関わる課題や文脈のある課題といった「真正の課題」も子供の「ハテナ」を誘発する。小学校2年の算数「はこの形」で、6年生へのプレゼントの箱を作ることを課題に設定した。学びがより具体的になり、子供たちの興味を引き出すことにつながった。従来の教材研究は授業中の子供の反応や教員の立ち振る舞いに焦点を当てることが多かったが、今は授業の前後や単元レベルでどう進めていくかが重要であることが見えてきた。
2つめは単元全体の見通しを持たせることだ。誰が・何を・誰と・どのように学ぶのか、学習計画を可視化し教員と子供が共有する。学ぶ相手に生成AIが組み込まれていたり、学びのガイドブックとルーブリックを組み合わせて子供が自分で学びを進められるようにしたり、学習計画表とふり返りをセットで活用する学校もある。ルーブリックは全単元で作成する必要はなく、有効に機能する単元を見極めた上で作成した方が良いだろう。
3つめはふり返りの継続化だ。多くの学校がふり返りに取り組んでいるが、学年や教科によってふり返りの視点が異なる場合も多く見られる。これらの形式を校内で統一すれば子供がスムーズに学習でき、さらに地域や学校間といった自治体レベルまで共有の幅を広げることが効率化につながる。福岡県春日市では調べ学習を支援する資料集をクラウドに集約している。市役所の職員も協力しており、外部人材を上手く活用している。これらは最近、「教える=教材」ではなく、「子供が学ぶ=学習材」という呼び方が広まりつつあり、子供と学習内容や学習方法をどうつなぐかに焦点が当てられている。
4つめは孤独化・孤立化させないことだ。自己決定・自己選択が進みグループを固定化しない分、本当に1人で学びたいと思っているのかそうでないのか見取ることが重要だ。子供同士の学びをつなぐ声掛けや支援をより意識する必要がある。
今求められているのは、教材を解釈したり創り出す力や子供の実態を把握する力といった教員の「見えない授業力」である。