3月27日、岡山市内で第119回教育委員会対象セミナーを開催した。
安藤明伸教授・広島工業大学は生成AIの教育活用について、山本朋弘教授・中村学園大学教育学部はGIGA2期の個別最適な学び・協働的な学びの質的向上について講演。
愛媛県教育委員会はメタバースを活用した不登校支援、岡山市立平井小学校は端末とクラウドを活用した授業改善、岡山県立岡山芳泉高等学校は生成AIを活用したアクティブ・ラーニング型授業と校務効率化の取組を報告した。
愛媛県教育支援センター 長谷部真由美指導主事
愛媛県はメタバースを活用した不登校支援「メタサポキャンパス」を2023年度より運営。スタッフとして支援に携わっている長谷部真由美指導主事が取組を報告した。
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学校に通いたくても通えないことで苦しんでいる子供が増加している。不登校の子供たちの置かれている状況は様々だが、中でも、どこにもつながっていない、学びに接続できない状態が継続している子供への支援が重要と考えている。
学校内外の機関等で相談や指導を受けた児童生徒の割合について、本県は全国平均を下回っており、相談や指導を受けていない児童生徒が半数以上を占めるという実態があった。
そこで、全ての子供に教育機会を確保するために、本県では不登校の状態を分類しそれぞれに応じた支援を展開している。
例えば、登校はできるが教室に入れない子供に対しては、2021年度より校内サポートルームを設置し、支援を実施している。また、登校が困難な子供には「メタサポキャンパス」や民間のフリースクールと連携し、学校内外を問わず、個々の状況に応じた支援を実施している。
メタサポキャンパスはメタバース(仮想空間)上の学びの場として2023年度に開設。2025年3月12日現在、小学生45人、中学生126人の計171人が利用している。
学校への登校のみを目標とするのではなく、1人ひとりが自らの将来を見据え、社会的自立に向けたきっかけを得る場として運営。身近な大人が「支援者」として寄り添いながら、個々の状況に応じた支援を実施している。
メタバース空間はガイアリンクが提供する「ガイアタウン」を利用。児童生徒は各ルームやWebスクリーンなどを利用して自ら選択した学習活動に取り組む。また、多様な活動に参加することで人や情報とのつながりを深めている。
メタサポキャンパス内には指導主事4人をスタッフとして配置。愛媛大学教職員大学院生10人がキャンパスサポーターとして支援を行っている。開設時間は平日9時から16時までで、長期休業中も開設している。
メタサポキャンパスでは音声やチャット、エモート(ボタン1つでアバターが手を振ったり、お辞儀をしたりする機能)を使ってコミュニケーションを図ることができる。タイピングが苦手な子供でも簡単な操作で気持ちを伝えられ、アバターを介したチャットでのやり取りにより心理的な負担が軽減される。
入室時間や取り組む内容は子供たちが自由に選択できるが、活動しやすいよう基本スケジュールも提示している。スタッフがスピーチする「スタートタイム」、クイズやゲームなどを開催する「イベントタイム」をそれぞれ1日2回実施。参加者同士の交流が生まれ、人間関係が広がるきっかけになっている。
「チャレンジタイム」は学習活動の時間として位置付け。小学校4教科・中学校5教科に対応したICT教材「eboard」を利用できる。学びたい教科や単元を自由に選択し、8分程度の短い学習動画を視聴した後、ドリルやテストに取り組む。また、「えひめ学習動画プラットフォーム」は中学校1年の5教科に対応。動画にリンクしたワークシートで重要箇所を整理できる。
「桃太郎電鉄教育版」は小学生を中心に人気がある。ゲームを通じて得た知識をスタッフに教えてくれる場面も見られ、楽しみながら学んでいる。
2024年11月から開始した「スタディ道場」はキャンパスサポーターによる約30分間のミニ授業だ。スライドやカメラ機能を使って子供の興味・関心を高める授業を展開。「知らないことを知ることができた」と、授業後も積極的に質問するなど子供の学習の幅が広がっている。
このほか在籍校からの授業配信や自宅で準備した参考書に取り組む子供もおり、「1人では学習に集中できないがメタサポキャンパスなら安心して取り組める」との声が届いている。
スクラッチを使ったプログラミング講座など外部講師によるワークショップを月1回開催。作品づくりの楽しさや自分の作品が認められる喜びを感じている。
キャンパス内には子供が考えや作品を発信できる場も用意しており、付せんで感想を書けるようにしている。自分の「好き」や得意なことを発信し、他者から感想をもらうことは子供の自信につながっている。
メタサポキャンパスが居場所の1つとなり、少しずつ学校に通えるようになったり、目標が見つかり新たな世界に一歩踏み出そうとしたりする姿が見られる。メタバースは手段であり、支援者が児童生徒1人ひとりの存在を認め寄り添うことが大切であると実感している。
【第119回教育委員会対象セミナー・岡山:2025年3月27日】