函館工業高等専門学校は2025年9月、北海道大樹町と地域社会の発展と人材育成および学術の振興に関する包括連携協定を締結した。
函館高専が持つ技術力や研究力を生かし、大樹町の児童・生徒を対象にした出前講座や科学教室の開催、防災対策などを進める。
スペースポート(宇宙港)構想の推進や宇宙関連産業の振興にもつなげる考えだ。
函館高専の清水一道校長、大樹町の黒川豊町長(左から)
国立高専第一期校として1962年に設置され、すでに60年以上の歴史を持つ函館高専。「汝が夢を持て 大志を抱け 力強かれ」が校訓だ。同校には、次の3学科5コースが設置されている。
【生産システム工学科】機械コース、電気電子コース、情報コースの3コースを設置
【物質環境工学科】化学、バイオテクノロジー、材料などの分野
【社会基盤工学科】土木、建設、防災などの分野
学生は入学後の1年間は共通の専門基礎科目を学び、適性や興味を見極めたうえで、2年次から希望する学科・コースを選択する。
また、国際社会で活躍できる人材を目指し、「地域と海外をつなぐ高専」として、グローバルな視点を持った技術者の育成にも取り組む。
フランス、ベルギー、タイなど海外の教育機関との連携や、海外インターンシップ制度を充実。国際的な視野を広げる機会を学生に提供している。
2025年度からは、COMPASS5.0高専発!「Society5.0型未来技術人財」育成事業再生可能エネルギー(風力)分野の拠点校として、洋上風力人材の育成を目的とした「洋上風力履修プログラム」に取り組んでいる。
大樹町は帯広市の南約60㎞に位置する。人口は5200人余りだ。
今回の協定では、地域づくり・町づくり、産業振興、環境保全、防災対策、住民との協働、教育・人材育成など8分野で連携した。
函館高専では、津波防災、氾濫防災、農工連携などにかかわる教員が多数、在籍しており、出前講座を通して、大樹町が抱える課題解決やスタートアップ事業へつながる連携を図る予定だ。
大樹町は今から約40年前(1980年代)に「航空宇宙産業基地」の候補地とされて以来、官民一体となって「宇宙のまちづくり」を進めてきた。町のロケーションは、ロケットを打ち上げる東および南方向に海が広がり、広大な土地があるためロケット発射場の拡張性も高く、世界トップクラスの宇宙港の適地と言われている。
町内には、世界中の民間企業・大学研究機関などが自由に利用できる商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」が設置され、JAXAをはじめ企業や大学などが様々な実験を行っている。
2025年4月、同校に着任した清水一道校長は、就任前は室蘭工業大学大学院工学研究科の教授を務め、大樹町に本社を置く宇宙開発企業、インターステラテクノロジズ(IST)の人工衛星搭載用ロケット「ZERO(ゼロ)」のエンジン部品の共同研究にも携わった。
大樹町の小・中学校での出前授業に協力するなど、大樹町との縁が深く、今回の協定締結につながった。
宇宙分野では、まずは材料開発や機械工学分野での協力からスタートさせていく考えだという。
「函館高専における宇宙分野の本格的な教育・研究はこれからですので、3年計画で研究体制を構築し、特に材料開発分野に特化して進めていく予定です」と話す。
「高専では早い段階から専門的な講義と実験・実習を重ねて学ぶことから、ものづくり人材として非常に期待できると感じています。近年、高専全体におけるグローバル化の取組で、海外大学・高専との交流から得るものも多く、ますます高専生への期待が高まる時代になってきたと感じます」
また、「未来技術人財の育成」に力を入れている。
「これからの高専は、単に既存の技術を教えるだけでなく、Society5.0(超スマート社会)をリードする人材の育成が重要と考えます。具体的には、AI、IoT、ロボット、データサイエンスといった分野の教育を強化し、複数の分野を横断して課題解決できるクロスオーバー型人材の育成を目指す必要があると考えます」
高専は地域に根差した高等教育機関として、専門知識と技術力を生かしながら地域活性化に貢献することが期待されている。
出前講座を行う函館高専の学生“理系女子実験隊”
「学生の皆さんには出前講座はもちろん、先生方と一緒に課題研究に取り組んでもらい、その成果について、大樹町をはじめとする近隣の十勝管内に広める役目を担ってもらいたいと考えています。各分野の課題を抽出し、その課題を解決するための研究プロセスを習得し、プロトタイプの成果物をスピーディーに製作し、プレゼンする能力を身につけてもらいたい」と学生にエールを送った。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年10月20日号