大学生の生成AI利用は活発だが、依存対策や著作権保護への評価はどうか――。ICT市場調査コンサルティングのMM総研は、日本の大学に通う大学生や大学院生などを対象にアンケート調査を実施し、大学生のAI活用状況と利活用意識に関する調査結果をまとめた。調査は11月に実施し、利用率、満足度などの評価と大学での活用ルールや生成AIベンダーの権利保護などの方針に対する意見を尋ね、2463人の回答結果をまとめたもの。
生成AIは便利だが、技術発展だけを優先し、既存の秩序や考え方を後回しにはしない方がよいと考える大学生も多いという調査結果が明らかとなった。OpenAI社が9月に発表した動画・画像生成AI 「Sora2 」の著作権保護方針について尋ねると、OpenAI社の方針に反対する大学生は37%で、賛成を10ポイント上回った。利用者の本音を交えた議論なきAIの活用推進に懸念が残る結果となった。回答全体を通じて大学生の本音は「その技術的卓越度と相反して日本社会、経済に与えるインパクトをよく吟味し活用を推進すべきだ」という示唆が垣間見える。

大学生世代の生成AI活用状況をみると、無料版を主体とする個人向け生成AIの利用は進むようだが、大学側のルールやAI整備は遅れていることが明らかとなった。PC利用はBYODを中心に進み、生成AIの利用率は78%、便利と感じる比率は93%に達するなど、大学生は日常的に生成AIを利用していることがうかがえる。しかし大学のルール整備は59%、学内AIの整備は11%にとどまり、現時点ではBYOAI(Bring Your Own AI:大学生個人が個人向けAIを学内に持ち込む)の状況となっているとみられる。

生成AIのような革新的技術を大学生が利活用するには学内ルールの整備が欠かせず、それが利用拡大の後押しとなりそうだ。生成AI活用ルールがある大学に通う学生は、ルールがない大学に通う学生と比べ、課題作成や論文作成、学習や論文執筆の支援など質問したすべての項目で活用比率が高いことが明らかとなった。

今後の活用意向でも大学がAI活用のルールを定めた方が、大学生は積極的に生成AIを活用する傾向にありそうだ。「授業や課題提出で生成AIを積極的に活用したい」 が49%、「就職活動で生成AIを活用することは重要だと思う 」が51%、「大学生のうちに生成AIのスキルアップをしておきたい」 が66%など、いずれもルールがある大学に通う学生の活用意向はルールがない大学に通う学生を10ポイントから20ポイント近く上回る結果となった。また大学に公認の生成AIがあった方がよいという学生もルールがある大学では53%と過半数を占めた。

生成AIの急速な利用拡大によりAIベンダー間の普及競争も激化し、権利保護方針などのスタンスに違いや変化がみられる。「大学教育の情報基盤整備戦略では、BYOAI状態からAIガバナンスをより利かせる段階に来ている」とMM総研は考える。今回の調査では、大学が運用管理やAIベンダーの利用規約を選定評価に組み込みAIを取捨選択しても、学生のAI活用意向を削がないのではないかと推測される結果となった。実際、学生側の意識として生成AIベンダーの著作権保護方針の賛否と活用率にほとんど差が生じなかった。

今回の結果を受け、調査を実施したMM総研は次のように分析をまとめている。
「大学生は技術性能や機能を優先するのか、モラルや社会秩序などへの配慮を優先するのかという意向によらず、生成AIを新しい技術として受け入れ、活用する姿勢だ。一方、BYOAIのみの運用では、情報漏えい対策や権利保護、また将来的には評価への活用などを続けることは難しい段階に来ている。特に多くの研究成果や著作物を取り扱う大学教育現場は、大学が保有する情報資産を適切に守りながらAIを活用する戦略が求められ、製品規約やその背景にあるAIベンダーのコンテンツ著作権保護やモラル対策などへの方針をよく比較検討して利用判断することが必要だ。学生の意向を踏まえると、現在はAI活用定着に向けBYOAIに頼らない基盤戦略を整備し、大学運営にとっても、学生にとっても『安心・安全なAI活用と情報基盤運用』を目指す好機である」。
<調査概要>
調査手法:インターネットによるアンケート(サンプル抽出は無作為)
実施時期:2025年11月
調査対象者:全国の国立、公立、私立大学に通う大学生、大学院生、博士課程に在籍中の学生
回答数 2463人※一部回答含む