いま高等専門学校(高専)が企業や教育関係者の注目を集めている。この連載では全国の高専の取組や魅力について紹介していく。第1回の今回は、高専の概要や特色についてお伝えする。
高専は、中学卒業後の5年間、専門教育を一貫して行う教育機関だ。全国に国公私立合わせて58校(国立51校・公立3校・私立4校)あり全体で約6万人の学生が学んでいる。
15歳から20歳まで大学受験を経験することなく、5年間にわたり集中的に専門教育を施すことで高度な知識や技術を持つ人材を育成するために設置。誕生は1962年だ。戦後の日本の経済発展を支える科学・技術に対応できる技術者育成の要望が産業界から高まった形で設立された。
各学校には、機械工学科、電気工学科、電子制御工学科、情報工学科、物質工学科、建築学科、環境都市工学科などの工業系の学科を中心に設置。船員養成のための商船学科を設置する学校もある。また、工学系を基礎としつつ、複数分野を組み合わせた学科を設置している学校もあり、近年はビジネス系学科も増えている。
1、2年生は一般科目(国語、数学、英語など)を中心に学ぶが、学年が上がるにつれて専門科目が増え、5年生では授業のほぼすべてを専門科目が占める。授業は実習・実験を重視しており、大型の実験設備や最新の研究・試作設備が教育内容に合わせて設置されている。
学生が日ごろ学んできた成果を発揮し、全国の高専生と競い合う「ロボットコンテスト」「プログラミングコンテスト」「デザインコンペティション」「体育大会」などの大会が毎年開催されており、技術の進展とともに新しいコンテストも創設されている。
そのうち「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」通称「ロボコン」は1988年に始まり、2024年で37回目を迎えた。「プログラミングコンテスト」は、情報処理における優れたアイデアと実現力を競う大会だ。「デザインコンペティション」は、構造デザイン、空間デザイン、創造デザイン、CADおよび3Dプリンタによるデザインの4部門で構成される。
「英語プレゼンテーションコンテスト」は、英語でのプレゼンテーション能力の育成が目的。ものづくりや科学技術に関するテーマが多いのは高専のコンテストならではだ。「ディープラーニングコンテスト」は、ものづくりの技術とディープラーニングを活用した作品を制作し、生み出される事業性を企業評価額で競う。技術力だけではなく、事業性も審査対象としている点が、ほかのコンテストと比べて大きな特徴になっている。
コンテストに参加した高専生は、日ごろ培った知識と技術を基に、企画から製作、実演までチーム一丸となって取り組む。技術者にとって必要な知識やスキルを駆使して臨むコンテスト参加は、学生にとって成長の場となっている。
高専では5年間(商船学科は5年6か月)の教育課程を「本科」と呼ぶが、卒業後さらに専門的な知識・技術を身につけたい学生に向けて、2年間の「専攻科」がある。これは1992年に設けられた。専攻科の卒業生には大学と同じ「学士」の学位が授与される。2023年度は本科卒業生の15%が専攻科に進学した。
大学へ編入する学生も多く、本科卒業生の25%が大学へ編入する。特に長岡技術科学大学と豊橋技術科学大学は、専攻科の設置前に本科卒業生の進学先として創設された経緯があり、本科卒業者の多くが進学している。
高専の卒業生は産業界から高い評価を得ている。卒業生の就職率は、国立高等専門学校機構によれば毎年ほぼ100%で、求人倍率(ひとりの学生に何社が求人を出しているか)は20倍だ。
いま各高専では、特色あるカリキュラムで、社会ニーズや地域に貢献できる、実践的かつ創造的人材の育成に力を入れている。15歳からの早期情報セキュリティ教育で、飛び抜けた能力を持つ情報セキュリティ人材や、社会ニーズに対して自ら課題を発見し、現場から得られる膨大な情報をIoTの活用によって分析し、課題解決できる高度なロボットエンジニアの育成などがその例だ。
また、近年は女子の入学者が増えている。2010年は9359人だったが、23年は1万2718人と36%近く増加した。女性の理工系人材が少ないことが産業界や教育界でしばしば問題となっているが、高専は理系分野の女性人材を数多く社会に送り出しているのだ。
23年4月には、名刺管理サービスを提供するSansan株式会社の寺田親弘社長が中心となり、徳島県神山町に私立の「神山まるごと高専」を開学した。テクノロジーとデザインに加え、起業家育成に重点を置いた全寮制の高専だ。
IT人材不足が課題となっていることもあり、社会の高専への期待は、これまでになく高まっているように感じる。次回から高専教育の具体的な取組について紹介する。
(蓬田修一)
国公私立高専合同説明会(KOSEN FES)2025が東京6/15、大阪7/13に開催される。参加は事前申込が必要。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年5月19日号