3月27日、岡山市内で第119回教育委員会対象セミナーを開催した。
安藤明伸教授・広島工業大学は生成AIの教育活用について、山本朋弘教授・中村学園大学教育学部はGIGA2期の個別最適な学び・協働的な学びの質的向上について講演。愛媛県教育委員会はメタバースを活用した不登校支援、岡山市立平井小学校は端末とクラウドを活用した授業改善、岡山県立岡山芳泉高等学校は生成AIを活用したアクティブ・ラーニング型授業と校務効率化の取組を報告した。
広島工業大学 安藤明伸教授
広島工業大学の安藤明伸教授は生成AIの教育利用について講演。「これからの子供たちはAIが当たり前の社会で育つ『AIネイティブ』となる。普及前後の変化を比較できる唯一の世代である大人の責任は大きい」と話す。
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文部科学省は2024年12月に「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」を公表。教育現場における生成AIの活用をより具体的に位置付けた。
人間中心の原則など基本的な考え方が深化し、場面や主体に応じたより詳細な留意点や教育委員会向けの視点も盛り込まれている。
情報活用能力の育成強化についても言及され、生成AIの仕組みを理解し、学びに活かす視点や、将来使いこなすための力を意識的に育てていくことの重要性が示された。また検索エンジンのように日常使いする方向性も示唆されている。
情報活用能力の一部として、早い段階から発達に応じた生成AIの科学的な理解を促すことが求められる。
生成AIにはChatGPTのような対話型のテキスト生成のほか、音楽や画像の生成など様々な種類がある。さらに同じテキスト生成AIでもそれぞれ異なる特性や強みを持つ。
情報活用能力育成のためには、1つの生成AIのみを扱うのではなく、例えば複数の生成AIを同時に使用できる「ChatHub」のようなツールを活用して比較する経験が必要だ。
また、ツールによって年齢による利用規定や強みが異なるため、ツール・対象学年・具体的な活用などを整理した体系表を作成すると活用が進むだろう。
子供たちが生成AIと健全に付き合っていくためには、各生成AIの利用範囲の中で、できるだけ早期から大人の立会いのもと生成AIに触れ、その仕組みや特徴について多様な気づきを得る機会を提供することが必要だ。
中学・高校段階で予備知識なくAIに触れたり、十分なリテラシーを持たないまま社会に出たりすると、適切な活用ができない。生成AIの普及が進み活用が日常化する中で、「使わせない」ことによる責任について、今一度考えなければならない。
子供の利活用においては、生成AI自体を学ぶ場面の設定が前提となる。教員が授業でデモンストレーションを行い、「誤答やハルシネーションがある」「質問の仕方によって異なる回答が得られる」といった生成AIの特徴を実践的に示すことだ。
加えて、簡単な学習モデルの作成や、それを利用したプログラムの構築を通じて「AIはプログラムで動く」という仕組みへの気づきを促す。これは著作権や倫理的な視点について考えることにもつながる。
子供たちが自身の得意なことや好きなことについて生成AIに質問すると、誤答やハルシネーションに気づきやすい。
さらに、異なる聞き方を試すことは質問力の向上につながる。プロンプトを精緻化することで、「何となく分からない」状態から「何が分からないのか」を具体的に言語化できるようになり、理解が深まる。
こうした特徴を利用して、自由進度学習など主体的な学びに効果的に生成AIが活用される事例も増えている。
生成AIの進化によりプログラミングを学ぶ必要性について疑問視する声もあるが、むしろ生成AI時代だからこそ、プログラミングの知識がますます重要になる。
本学の講義ではプログラミングに生成AIを活用しているが、知識のある学生は具体的な指示ができる一方、知識がない学生や自身の意図を言語化できない学生は、曖昧な指示によって高度なコードが生成され読解できないなど、やりとりの精度に大きな影響がある。
プログラミング教育の手引きでは、コンピュータを「魔法の箱」にしないために、「プログラミングで動いている」という仕組みへの気づきを促すことが示されている。
同様に、生成AIについてもデータ・モデル・プログラムによって動く確率的なものであるという仕組みを子供たちに気づかせるような取組が必要だ。AIを人間のように錯覚し感情移入してしまう「イライザ効果」の危険性もある。科学的な理解に裏打ちされた形で理解することが欠かせない。
「Teachable Machine」は、画像・音声・ポーズのデータを用いて機械学習モデルを作成し、AIの仕組みを体験できるツールだ。
じゃんけんのグー・チョキ・パーの写真を学習させてモデルを作成したところ、「グー」の写真に対して「パー」の可能性が95%と判定された。これは学習データの偏りによるバイアスの影響を示している。
さらに「グー」の写真に「それはグーです」と返すか、「それはパーです」と返すかはプログラムのコマンド1つで変更可能であり、開発者の設計や意図が結果を左右するためだ。
どのようなデータを学習させるか、どのような設計を施すかによってAIの振る舞いは大きく変わる。こうした仕組みについての科学的な理解を体感的につかむ体験が求められる。
広島市立牛田中学校では、理科の授業で生成AIを活用し、生徒が作成したまとめを添削。視点を広げる効果があった。英語科では英作文の添削に利用したものの、プロンプトを上手く書けず混乱を招いたり、生徒の文章と全く異なる文章が出力されるなど教員の意図とのミスマッチが課題となった。
2024年度の日本教育工学協会(JAET)全国大会では、リーディングDXスクールでの生成AIの役割について報告があり、次のように整理された。▼創造・発想(アイデア出し、物語作成)▼文書作成(たたき台の作成、校正・添削)▼データの処理・分析(画像情報の読み取りを含む)▼学習・問題解決支援(問題文作成など)▼対話・コミュニケーション(英会話、ディベート)
全体の傾向として、生成AIの概念構築とリテラシー育成を前提に実践が行われていた。
【第119回教育委員会対象セミナー・岡山:2025年3月27日】