ICT市場調査コンサルティングのMM総研は、全国の公立小学校・中学校・高校における教員向けの生成AI環境状況についての調査結果を公表した。調査は2025年11月から12月にかけて実施し、生成AIツールの利用有無や利用形態、利用する上での課題や重視ポイントなどを尋ねた。全国の47都道府県と1741市区町村の教育委員会を対象に実施し、1333団体から回答を得た。
教育委員会が「教員が校務などで生成AIを利用している」と回答した割合は、合計では56%、公立小中学校は55%、高校は91%となった。いずれも半数を超えたが、特に校務DXと教員の負担軽減の観点で都道府県教育委員会の取り組みが先行しており、結果として公立高校教員の利用率が高い状況にあると分析する。例えば、東京都は2025年5月から都立学校すべての教職員・児童生徒が利用できるAI基盤を整備した。宮城県は2025年3月に「生成AI活用研修ガイドブック」を発行。大阪府は2025年12月に教員含む行政職員の負担軽減を目的とした「大阪府行政AIエージェントコンソーシアム」を立ち上げるなど、2025年は自治体でも利活用関連の発表が盛んであった。

同総研が実施した過去の調査をもとに小中学校教員の生成AI利用率の推移をみると、2025年度に入ってから急激に伸びていることがわかる。
OECDが2024年3月に学校教員を対象に実施したアンケート調査「国際教員指導環境調査(TALIS)」では、小中学校教員の生成AI利用率は日本が16~17%と、OECD平均の36~37%に遅れをとっていた。文部科学省は2023年度から継続して生成AIパイロット校を指定し、生成AIの検証をしてきた。2025年度には実証から面展開が進み、利用率の上昇に影響を与えたと考えられる。実際に、生成AIを利用している教育委員会はStuDX StyleやリーディングDXスクールなど文部科学省Webサイトで情報収集している比率も高く、利活用を後押ししているとみられる。

教育委員会としての生成AIツール利用方針は、Google Workspace for Education(以下GWS)やMicrosoft 365 Education(以下MS365)に標準搭載された生成AIを利用すると回答した自治体が68%と多数を占め、「都道府県が提供するAIを利用」が13%と続いた(データ2-1)。他方で、個人版などのChatGPTは1%にとどまった。複数の教員向け調査から、教員個人は手軽さもあり無償版のChatGPTの利用も多いと推測されるが、教育委員会は教員が個人用の生成AIアカウントを持ち込むBYOAI(Bring Your Own AI)運用を抑制し、教育用クラウド上で管理する生成AIツールを利用してもらう方針とみられる。

GWSやMS365 は、GIGAスクール構想で全国の教育委員会が端末と一体で整備したクラウドの教育用アプリケーションである。このほかにMS365は教員の校務用として自治体が別途配備したクラウドとしても普及している。特に教育用のクラウドは、データ保護とプライバシー、年齢とアクセス制御、モニタリング機能など教育環境に適した生成AIのセキュリティ対策機能を標準で備えていることが高い利用率の背景にあると考えられる。よく授業で利用する教育用クラウドとしてGWSが69%、校務用ではMS365が53%という回答結果となった。


教育委員会が教員に生成AIツールの利用環境を整備する際に重視する項目として「文部科学省の生成AIガイドラインへの準拠」が69%と多数を占めた。自治体が整備している生成AIに関する文章や研修資料を参照すると、その多くで、利用する生成AIツールと利用方法には政府ガイドラインへの準拠が必要となるとの考えが記載されている。教育委員会は、無償版の個人向け生成AIツールでは組織的な利用管理を想定しておらず、ガイドラインに準拠した運用が困難であると判断していると考えられる。

生成AIの利用にあたって「課題あり」との回答は81%にのぼった。上位の課題に大きな差はなく、「セキュリティ対策(42%)」「著作権侵害のリスク回避(41%)」「利用のためのルール整備(39%)」「ハルシネーション(誤った情報が生成される)リスク(37%)」などへの対応が求められているが、「生成AIに詳しい人がいない(36%)」「教育での事例やノウハウなど情報が足りない(30%)」といった状況にある。教育委員会は安心安全な利用環境を整備するために多様な課題に直面しており、安全性の観点からGIGAスクール構想で普及したクラウド上での活用が増加していると考えられる。

今回の結果を受け、調査を実施したMM総研・研究部長の中村成希氏は次のように分析をまとめている。
「教員の働き方改革とGIGAスクール構想を支えるツールとして、生成AIの活用余地は大きい。今後は授業での活用に向け、アナログ教材との使い分けや用途別コントロールなどの運用ノウハウの蓄積が重要ではないか。校務での利用率急上昇は、GIGAで整備したクラウド教育アプリとの連携によるところが大きいと考えられ、安心安全な利用には、教育組織の管理・制御が鍵となろう」。
また、今後の生成AI利活用について、以下のように展望している。
「文部科学省はガイドラインで年齢一律禁止を避け、小学校低学年から活用の道筋を示した。発達段階を考慮した慎重な見極めを促し、情報モラルを含む能力育成が期待される。授業で高い利用率となったGWSや、校務でのMS365は追加費用なく生成AIを利用でき、教育組織はこのような状況をうまく活かせる可能性がある。多様な教材やツールを、自らの意思で取捨選択できることを大前提としてクラウド基盤を活用することで、利用シーンによって教育環境に対して標準的な生成AIと、利用シーンに最適化したAIを使い分けるなど、より戦略的な運用が期待できる」。
<調査概要>
調査手法:電話による聞き取り、一部e-mailやFAXによる調査票の送付・回収を併用
実施時期:2025年11月〜12月
調査対象者:校:全国の都道府県47の教育委員会 / 小中学校:市区町村1,741の教育委員会(1,738団体)
回答数 1333団体(都道府県34、市区町村1299)※一部回答含む