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教育ICT

学校全体がダイナミックに変容 探究を核とした新カリキュラムへ~芝浦工業大学附属中学高等学校 パナソニック教育財団特別研究指定校

2021年11月1日

パナソニック教育財団特別研究指定校として2年目を迎える芝浦工業大学附属中学高等学校(東京都)は、2021年4月から中学校が共学となり、探究を核とした新カリキュラムが始動している。同校ではこれまで、新しい教育観に基づいた探究活動や探究型授業「Global Communication」の開発、STEAM×デザイン思考×PBLの共通理解、新たな評価方法の確立に取り組んできた。新カリキュラム開始に至るまでの取組は、これから「探究的な学び」を取り入れたいと考えている学校の参考になるだろう。同校の取組について金森千春教諭に聞いた。担当アドバイザーは稲垣忠教授(東北学院大学)。同校の生徒は1人1台の情報端末(SurfaceGo)を所持している。

相互評価でもICTを活用

相互評価でもICTを活用

SHIBAURA探究室には稼働式の机椅子60組、電子黒板と大型プロジェクター、スピーカー、生徒が各班で活用できるプロジェクター8台を設置して「探究」の場を設定

「STEAM×PBL×デザイン思考」を共通理解

■初年度は教職員の意識改革

新カリキュラム策定に向け、研究助成1年目である2020年度は探究活動のプロトタイプ作成に取り組んだ。

2021年度の中学1年生から実施する探究はIT(Information Technology)GC(Global Communication)2本立てとし、成果目標を「生徒が、オーナーシップをもって創造的に探究活動に取り組む」「生徒が、自主的に学校生活の様々な場面や活動で、社会活動においても、探究学習の手法を応用して社会課題に挑む」こととした。

20204月、プロジェクトチームを立ち上げ、ITには情報科、数学科、理科、英語科の4名、GCには国語科、数学科、社会科、英語科の4名をコアメンバーとして「探究チーム」を組織。

毎週の職員会議で15分ほどの短時間研修を地道に行い、職員全体の新しい教育観醸成に取り組むと共に、稲垣教授から紹介された図書や教員の参考になりそうな図書を30冊程度購入して職員室に常設。意識変容につなげた。

20208月の教員研修では、映画「Most likely to Succeed」を全教員で視聴し、5人程度の小グループで「探究活動を通してどのような教育をしたいか」をテーマに「どのような生徒を育てたいか」「どのような教員でありたいか」「どのような学校になりたいか」について討議。

遠隔で、担当アドバイザーの稲垣教授による講演「HIGH TECH HIGHの実践に学ぶインストラクショナルデザイン」も行った。

■有志教員が幅広く体験

探究GCに向けて、東京メトロやスカイダック(水陸両用バス)等、豊洲地区の学校外の企業・団体と交渉。企業や団体が協力的なことを体感し、社会のリソースを活用して探究GCプログラムを組み上げたいという気持ちにつながった。教員は、各種ワークショップや豊洲地区のスポットツアー等を体験。コアメンバー以外の教職員の体験は、探究活動への理解や意識の変容につながり、効果的であった。

20211月、2021年度探究の授業を担当する教員が確定。具体的に2021年度の授業プログラムを想定した準備が主にオンライン会議で始まった。「活動の質」、「思考の質」を高められるように、単元デザインシートを利用して1学期の授業設計を行った。

■探究GCの評価方針を決定

探究における評価は、「生徒が自己成長できるような形成的評価(ルーブリック評価)」を成果物に対して実施することとした。探究GCでは、毎回自分の気づきを言語化して書き留めておくようなフォームを作成。稲垣教授の『思考×表現ルーブリック』や『学習評価ハンドブック アクティブラーニングを促す50の技』(東京大学出版会)を参考に、「態度×思考×表現ルーブリック」を策定した。なおこのルーブリックは20214月、実際にカリキュラムが始動する中で微修正を行っている。

ルーブリックは自己評価用と相互評価用を用意

■「探究スキル表」も策定

2月、2021年度探究で使用する教科書『学びの技 14歳からの探究・論文・プレゼンテーション』(玉川大学出版部)のスキルと、稲垣教授の「情報活用能力体系表」のレベル3(中学校)を参考に、本校独自の「探究スキル表」を策定。STEAM教育、言語技術(ランゲージアワー)のほか、各教科で獲得するスキルを明確にした。

ファシリテータ研修や小中高生向けの研修を経て、2021年度実施前に同校の生徒が実際にゲーム体験後のワークショップを通じてどのような効果があるかを知るため、高校3年生にプロトタイプを緊急事態宣言が明けた後に実施する予定で作成。結局できなかったが、プロトタイプは、2021年度に海外で教育旅行が実施できなかったとしても同様のグローバルな探究や学びが国内でできるのかを考えて作成した。

3月の教員研修会「探究する学びをデザインする!」では情報活用型プロジェクト学習についての講義、単元デザインシート作成ワークの説明を稲垣教授に受けた後、各教科3~4人の小グループで高校1年生の単元デザインシートを作成。単元デザインシートは確かな根拠をもとに授業を設計する魅力がある。

■新カリキュラム始動 Web会議も自主的に

2021年度から新カリキュラムが始動。

中学1年「SHIBAURA探究」を週2単位(隔週でITGC)設置。それぞれ2名の授業担当教員とオブザーバ2名を配置。オブザーバは生徒と一緒にプログラムを経験して担当者にフィードバックをすることでプログラムを客観的に改善する等、オブザーバの存在が探究プログラムについて全教員へ周知する足掛かりとなっている。

20215月は全教員対象にPBLについて研修。PBLを理論的に学び、その意義と効果を理解し、多くの教員が自らの教科・科目の授業設計に活用したり、PBLのアプローチを取り入れることが目的だ。

入学当初、タイピングに不慣れであった生徒も、技術科の時間でタイピングの練習を行う、湾岸企業訪問における企業への質問などをGoogleフォームで回答する、1学期の発表をGoogleスライドにまとめるなどでICTスキルも向上。中学受験塾などでオンライン授業を受講した経験がある生徒も多く、班の協働作業や打ち合わせで、自主的にZoom等を活用していた。

■生徒主体の公開研究会に

7月の公開研究会「探究DAY」は、初の学年全生徒によるハイブリッドの発表会となった。全生徒の発表と保護者へのオンライン公開のための準備は予想以上にタスクが多かったが、当日の司会進行は各クラスから1名、計4名の生徒に任せた。中学1年生には難しいのではないか、という懸念もあったが、生徒は自発的に司会台本を作成し、ZoomGoogleMeetで打ち合わせを行い、立派に務めを果たした。上手くできなかったとしても機会を与える思い切りの大切さを実感した。

2学期の探究GCを設計

9月からの2学期は江戸の伝統的工芸品をテーマとした探究GCを予定。アポイントも撮影やインタビューの許可も生徒が行う。コロナ禍で協力を得にくい状況ではあるが、断られても代案を考えて対応する経験も大切であると判断した。

■夏期休暇中の課題も探究型に

特別研究指定校となることで全教員に質の高い研修の機会を得た。徐々に各教科で探究的な学びを実践する上で、生徒のモチベーションと学びの飛躍が期待できるPBLについて学んだことは有効であった。

学校全体が、より学術的な裏付けを得ることでダイナミックに変容している。これも特別研究指定校に選出されたことによる効果だと強く感じている。

夏期休暇中の課題も、内容反復型や演習型の分量を減らし、生徒本人が興味をもったことを深堀りする探究型課題に変化した。また、講義形式の長机が置かれていた演習室をSHIBAURA探究室として整備。稼働式の机椅子60組、電子黒板と大型プロジェクターにスピーカー、生徒が各班で活用できるようプロジェクター8台を設置し、常に探究ができる場所として用意したことは、生徒にとっても教員にとっても追い風となった。

重要な成果“探究スキル表”
担当アドバイザー 稲垣忠教授・東北学院大学

同校では、生徒に探究させる前に、教員自身がさまざまな教育方法や実社会の課題を探究し、自身の授業観と向かい合い、2021年度から始まる新たなカリキュラムとして形にしていった。

「探究スキル表」は重要な成果の1つだ。生徒たちが主体的に探究を進める上で重要な技――目標設定・課題設定から情報収集、整理、論文・発表など7カテゴリ70以上の技が網羅。これらの技は色分けされ、主にどの教科で習得するのかが示されている。つまり、総合的な探究の時間における探究と、各教科での技の習得が一体として示されており、総合と教科をスキル面で橋渡しする地図としての役割が期待される。

これは生徒にとって、どこが課題なのか、得意な部分はどこなのかといった自らの学び方を自覚する地図にもなる。主体的に学ぶ姿勢を育んでいく上で、探究スキル表を生徒たちが活用する手法の開発に期待している。

7月の公開研究会「探究DAY」では、コロナ禍で多様な体験活動に制約がかかる中、学校周辺の豊洲の街歩き、水陸両用バスのスカイダックで海から街を理解するといった豊かな体験の機会を用意し、生徒たちの問いを引き出すことに成功していた。また、問いの追究の機会として、重工業メーカーのIHI、マルハニチロ、住友ゴム工業など、多様な工業が集積している豊洲の立地をいかしたオンラインによる講義と企業訪問を実施した。これらの活動は、昨年度に担当教員チームが自ら探究し、教材としての価値を十分に理解していたことに裏打ちされている。

生徒たちのプレゼンテーションはオンラインでの発表ではあったが、聞き手に対するアピールが明確なチームが目立っていた。

全教員が参加したPBL研修は、参加教員から多様なプロジェクトのアイデアが飛び出し、今後のカリキュラムの充実への期待がいっそう高まる機会となった。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年11月1日号掲載

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