渋谷区教育委員会は「つくろう。ちがいを活かし合える、未来の学校」を掲げ、未来の学校づくりに向けて、公立中学校改革に本格着手している。老朽化した校舎の建て替えと並行して、教育内容の抜本的な見直しを進め、区立中学校の魅力化を図る。
目指すのは、一人ひとり異なるすべての子供たちにとって、学びたいと思える、最もふさわしい選択肢となる学校をつくり、本当の意味ですべての区民の学校を実現することだ。2026年度から新入生に向けた説明を始め、2027年度からは各校が選択した「特色」を軸にした新しい教育が本格化する予定。区立中学校改革に踏み切った背景と現在の進捗、今後の展望について、渋谷区教育委員会の柳田俊統括指導主事に聞いた。

柳田俊 統括指導主事
渋谷区では、私立中学等に進学する子供たちが多く、区立中進学率に低下傾向が見られている。柳田統括指導主事は「現状では全ての子供たちにとって最もふさわしい選択肢とは必ずしも認識されていない」と危機感を語る。
区はこれまでICT教育重点校、英語教育重点校などを設けてきたが、学校ごとに取組の深度に差が生じていた。また、各校の特色は時代の変化に合わせた見直しが行われてこなかった面もあった。
そこで渋谷区は、区立中学校の魅力をさらに高めるため、「主体的に未来をつくる力」を育むことを目的とした4つのテーマを設定。全8校共通の強みから発展させた内容で、ICT教育、英語教育、探究、地域クラブ活動、学校横断の学び、大学・地域・アカデミアとの連携といった共通基盤の上に、4テーマを位置付けている。各校が昨年度中に1つを選択し、特色づくりを進めている。
特色とそれに基づくカリキュラムは、5年周期で見直す予定。4テーマは次。
▼アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)
▼サイエンス・テクノロジー(Science & Technology)
▼グローバルコミュニケーション(Global communication)
▼アート・デザイン(Art & Design)
今年度は骨組みづくりの段階で、現在、以下の体制整備を進めている。
①特色推進チームと外部人材の配置
校内に「特色推進チーム」を設置。校長の補佐的な役割を果たす外部人材「特色コーディネーター」を週に1~2日常駐。管理職や教員の異動があっても特色が継続できる仕組みとするためだ。
②カリキュラムのリデザイン
各校の教育目標の上段に4テーマを位置づけ、学習指導要領に基づきつつ、総合的な探究の時間や各教科、特別活動に特色を反映。
今年度は区全体の進捗管理に外部コンサルタントが入り、各校の事業計画書の策定を進めている。
改革では、人材配置をはじめとするソフト面の充実を重視。校舎の建て替えについては別途進める。学校規模の適正化や小中一貫校化の検討、ラーニング・コモンズの設置など、ハード・ソフト両面から進め、来年度以降は外部人材との連携を通じて内容を深めていく。
渋谷区は探究的な学びを3年前から強化しており、都立高校推薦入試の合格率が3割から5割に上昇。募集枠の増加もあるものの、確実な成果が上がっている。柳田統括指導主事は「単に改革するだけでなく、一人ひとり違うすべての子供たちが、自分にふさわしい学びを選び、地域や社会とともに未来をつくることのできる学校にしていきたい。子供、保護者、地域の誰もが自分たちの学校だと感じ、ともに支え、育てていける区立中学校を目指し、本当の意味ですべての区民の学校を実現したい」と語った。
社会でホンモノのニーズをカタチにするしあわせメーカー広尾
■広尾中学校(アントレプレナーシップ)
大学教育のキャップストーンプロジェクト(実社会課題解決プロジェクト)をイメージし、企業からのリアルな課題に生徒が挑戦。実社会のフィードバックを受けながら改善するアジャイル型学習などを通して、社会の困りごとを自ら見つけ、多様な人と共創し、アイデアを実装までやり切る力を育む。失敗耐性・他者視点・価値創造力など10のコアスキルを身につけ、挑戦する自分を誇れる生徒を育成する。
はちやまSTEAM
■鉢山中学校(サイエンス・テクノロジー)
「Hachi Tech Studio(※)」を整備。最先端テクノロジーを活用しながら、生徒の興味に応じて科学者とともに学ぶ。観察・情報収集・実験・データ分析・試行を通して、自ら問いを立て、根拠をもって科学的に判断・発信し、失敗を重ねてもやり抜く力を3年間で体系的に育成する(※高性能PC等最先端の科学技術・デジタル機器を備えた学習空間)。
本物と出会い、未来をデザインする
■上原中学校(アート・デザイン)
アーティストやデザイナーなど多様なプロフェッショナルとの交流を通じて「アート思考=自分起点」で問いを立て、「デザイン思考=社会起点」で解決を考える。表現・対話・試行を重ね、自分に合った方法で思いや考えを作品や企画として形にし、社会へ発信する力と、自分らしい生き方を描く力を育む。
Sports×Technology×Educationで未来を創る
■代々木中学校(サイエンス・テクノロジー)
スポーツ科学とテクノロジーを活用し、学びと実社会の課題解決を往還する。世界的スポーツ科学機関やスポーツ関連企業の研究開発チーム、トップアスリートとも連携し、対話と協調を通して多様な他者と最適解・納得解を導き、新しい価値を生み出す「協調型問題解決力」を育成する。
つながりから突破へ
■原宿外苑中学校(アントレプレナーシップ)
地域・企業・大学・専門家と協働し、「教室の外に100人以上の先生がいる学校」を目指す。学校全体を「株式会社ハラガイ」に見立て、全生徒が企画・連携・実践・発信・改善のいずれかに参画。自分の考えを伝え合い、社会とつながり、失敗を恐れず一歩を踏み出して、学校や地域の課題から新たな価値を生み出す力を育む。
世界とつながり、ともに未来を拓く笹塚中学校
■笹塚中学校(グローバルコミュニケーション)
国内外での「アウェイ体験」を重視。地域の外国人コミュニティ・企業との連携(1年次)、国内外の学校との連携(2年次)、海外研修旅行での価値創造プロジェクト(3年次)を通して段階的に”アウェイ”へ踏み出す。多角的な視野とチャレンジ精神を身につけ、多様な文化や価値観をもつ人と対話・協働し、学びを自分の言葉で世界に発信して新たな価値を生み出す力を育成する。
問いを力に、世界へ 松濤中生
■松濤中学校(グローバルコミュニケーション)
国連関係講師・国際NPO・企業への訪問やグローバル・アントレプレナーシップスキルの習得を通して、世界の課題を自分事として捉え、課題発見→解決→価値創造を国際協働で行う。確かな英語力を武器に、異なる文化や考えを尊重して双方向に伝え合い、自ら問いを立てて未来に挑戦する行動力を育む。未来共創空間や松濤Worldサテライト(SWS)で、生徒が探究成果を世界に向けて発信する。
共創のアトリエ・本町
■渋谷本町学園(アート・デザイン)
Artists in Residence(※)を導入し、学校をアトリエ化。滞在アーティストと地域課題・修学旅行PJを共同制作し、商店街・町会など地域の困りごとを起点に作品や提案をつくる。小中一貫9年間でアート思考・デザイン思考を積み上げ、自分の思いやアイデアを多様な方法で表現し、相手を大切にしながら社会の価値へ変えて届ける力を育む(※アーティストが一定期間、学校や地域に滞在しながら創作活動を行い、子供たちと交流するプログラム)。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2026年10月26日号掲載