川崎市は現在、高等専門学校の新設に向け準備を進めている。
同市は長年にわたり鉄鋼、石油化学、発電、物流などの産業が集積している地域だ。近年は「新川崎・創造のもり」「キングスカイフロント」などの研究開発拠点も形成され、現在は550以上の研究開発機関が集積。市内全体でイノベーション創出の基盤整備が加速している。
今後も同市が研究開発・産業創造の拠点として発展するためには、将来を担う人材の育成が必要との認識から、高専の新設を目指すこととなった。
また、企業からは産業と融合した学び、大学からは基本的・専門的な学びといった、それぞれの強みを活かした教育機会を提供していくには、新たな手法が必要と考え、公立ではなく、企業や大学と共同で運営する高等専門学校とした。
新設高専については、川崎市や複数企業が資金を拠出し、新たな学校法人を設置することを想定している。
キャンパス予定地には市が市立高等学校改革の中で募集停止とする予定の川崎市立川崎総合科学高等学校(全日制3年生・定時制4年生)の敷地や建物を活用する方向で検討が進められているところだ。
川崎市では2028年9月頃の新設高専の設置認可申請、29年8月頃の認可取得を経て、30年度の開校を目指している。今後、学科構成、カリキュラム、入学定員、教職員数、設置・運営経費などを検討していく。

新設高専では「学びの先にある領域から逆算した内容」の教育を行っていく。
「高等学校の、特に普通科では、幅広い分野・科目の知識を積み上げ型で学んだ上で大学進学し、大学後期から専門性を高めることが一般的だと思います。新設高専ではこれから学ぼうとする知識や技術が、基礎的な学びの先にあるAI・データサイエンスや量子といった先端的な領域でどのように使われているのか知り、それを意識しながら基礎から実践まで学べる教育内容を想定しています」(川崎市)
最先端技術への理解を深めた上で、学生は興味関心のあるテーマを主体的に選択し、必要な知識と実践を積み重ねる教育を展開していく計画だ。
また「産学官連携型イノベーションハブ」の実現に力を入れていく。
企業(産)は資金提供や研究者の派遣、大学(学)は教員の派遣、川崎市(官)は職員の派遣や設置・運営にかかわる経費の補助などを担う。
産学官が連携して、イノベーションを生み出す人材を育成・輩出し、新たな価値を創出する場となることを目指す。
「企業や大学はそれぞれの強みを活かして学生に学びを提供し、学生はイノベーションが創出できる人材に成長し、それら活動の成果が企業や大学、ひいては社会全体に還元されることを期待しています」
企業から派遣された研究者と大学から派遣された教員との間で共同研究が行われたり、学生発のスタートアップを企業や大学が支援したりする環境づくりにも力を入れる。
「大学の若手教員が高専で教授または准教授として経験を積んだ上で大学に戻ることで、学生だけでなく、教員の人流も生まれるかもしれません」

昨今の中学生・高校生は、自分が興味や関心を持つ分野の情報に容易にアクセスできるようになった。自分の興味関心に基づく進路選択をする生徒も少なくない。
「その一方で、将来の進路に幅広い選択肢を持っておきたいというニーズも依然として大きく、それぞれの生徒が自身の進路に思い悩んだりしながら進路選択をしているものと思います」
川崎市では、最先端の科学技術に興味をもちながらも、これまで適切な選択肢がなかったために普通科高校に進学してきた生徒も一定数いると考えている。「そうした生徒に対して、大学への接続を確保しながら、自身の興味のある分野に没頭できる、新しい学びの選択肢を提供したいと考えています」
高専に育成が期待されている高度な産業人材には、大きく二つの方向性がある。「高度な技術で生産工程や製造現場を支える人材」「研究開発を担う人材」だ。
これまでの高専では、主に前者が多かったが、今後は研究機能を強化し、後者の人材をより多く輩出していくことも求められている。
「本市が目指す高専では、企業からは先端技術に触れる機会と社会課題を意識した実践的な学びを、大学からは情報技術を基礎に据えた基礎的な学びを取り入れていきます。これまでとは一線を画すアプローチで人材を育成し、人材育成を媒介としたイノベーションハブとなる高専を目指していきたい」と抱負を語った。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2026年10月26日号掲載