鹿児島工業高等専門学校は鹿児島県霧島市にキャンパスを置き、全国高専に先駆けて、Well-being(学生一人ひとりの多様な幸せ)を実現させるための教育活動に力を入れている。
さらに2026年4月より、現在の5学科から「創造デザイン工学科」の1学科3類5コース制へと改組。創造デザイン工学科では、ものづくりの技術に加え、AI、プログラミング、リベラルアーツ、デザインなど幅広い知識とスキルを学ぶ。「改組によって、従来の学科の枠を超えて『総合知』と『DX推進力』を育む教育・研究体制を整えます。また、5年一貫の早期専門教育の特長を生かし、デジタル技術と工学専門知識を高度に融合させる力を育成します」(徳永仁夫副校長)

授業の様子
これまでも、自治体や企業と連携し、農業や観光、防犯など地域課題の解決に向けたDX実践教育を展開してきた。学科改組により、こうした取組をさらに発展させるとともに、複合・融合的な専門知識と素養を持つ人材を育成する教育体制を構築する。
「学生の学びの姿勢を『教えてもらう』から『自ら考え、自ら学ぶ』にすることで、急速に変化する現代社会に柔軟に対応し、新しい価値を創造する人材育成につながると考えます」
改組後のカリキュラムでは、全学生に「次世代型モノづくりリテラシー」を身につけさせる。これは、プログラミング、AI、IoT、データサイエンスなどの知見を課題解決に適用させるための基礎的な力のことで、入学直後から卒業までシームレスに育成していく。
さらに、次世代型モノづくりリテラシーと、各学生が専門分野で培った知識・技術とを複合・融合させる力を涵養し、実社会での課題に対応できる柔軟な思考力と実践力を育成する。
同校の教育活動の1つに「STEAM事業」がある。現在は、18種類の出前型の教育講座を開設し、小中学校からの要望に応じて、教員や学生が出向いて授業を実施している。これまで実施したなかから、特に好評な授業を3つ紹介する。

出前講座の様子
■すごいぜ!マイコンプログラミング講座~IoTバギーカー~
マイコンモジュールを使ってバギーカーを動かす回路を配線し、WiFiとブラウザを使った遠隔操作のプログラミングに挑戦する。動かすだけでなく、動作原理についても理解してもらえる授業を意識している。
■インターネットとの付き合い方~
インターネットの正しい利用の仕方など、サイバーセキュリティーについての講演。学生主導で小中学生に伝えたいテーマを考え、興味をもってもらえるよう工夫している。参加学生は、サイバーセキュリティーボランティアとして鹿児島県警の委嘱を受けて活動している。
■光のふしぎ
光や紫外線など、太陽からの電磁波について学び、分光した光を観察できる「光の万華鏡」を工作する。グループワークとして、クイズにチャレンジしたり、観察した光の特性について発表したり、クラスメートと共に考える時間を共有する。
小中学生からは「楽しかった」「わかりやすかった」「理科がもっと好きになった」、小中学校の教員からも「生徒が熱心に聞いていた」「積極的に参加していた」など好評だ。
STEAM教育支援室長の池田昭大氏によると、参加した学生からは、もっと小中学生に向けた講演を行いたい、自分自身も知識を深めることができた、説明する力やコミュニケーション能力の向上を感じたという声が届いている。本事業は学生の教育面でも大きく役立っているようだ。
徳永副校長によれば、近年の高専生は興味・関心の対象が多様化しているという。「機械工学科では、単純に機械やモノづくりだけに興味がある学生は少なくなりました。タイパなどの言葉に代表されるように、効率を重視する傾向もあります。時間や労力を前提とした作業を好まない学生が増えている印象です」
近年は生成AIが急速に社会に普及し、学生の学び方も変化してきている。
「生成AIの登場によって、学ぶことの意義やモチベーションの変化を感じています。一方で、気候変動や人口減少、地域格差など世界規模の喫緊の課題に直面しており、持続可能なWell-beingな社会の実現が強く求められており、高専生が果たすべき役割はますます重要になります。課題解決につながる基盤的な力を育成する教育・研究をさらに推進し、学生が主体的に学び、複雑で多様な社会課題に対応できる力を身に付けられるよう支援していきたい」と語った。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年11月17日号