佐世保工業高等専門学校(佐世保高専)は1962年、機械工学科と電気工学科の2学科で開校した九州初の第1期校だ。
2025年度入学生から、これまでの電子制御工学科、機械工学科、電気電子工学科、物質工学科(各学科定員40人)を、情報系教育を強化した「情報知能工学科」、「機械制御工学科」、「電気電子工学科」、「化学・生物工学科」(各学科定員45人)に改組。社会ニーズに合わせた情報系基盤技術教育プログラムを全学生が履修可能な形で開設、新たな教育体制・教育課程を整えた。
特に「情報知能工学科」は新学科とも呼べるもので、プログラミング技術や人工知能などの知識だけでなく、高度な情報処理システムを構築するための知識が身につけられる。
ほかの3学科についても情報系を強化した。「機械制御工学科」は生産の基礎となる機械工学系科目に加えて、ロボットを自在に動かすための制御系科目をさらに充実。プロダクトデザインからシステムコントロールまで一貫して学ぶ。
「電気電子工学科」は再生可能エネルギー、半導体デバイス、情報通信技術を幅広く学び、産業と社会を支える工学分野に関する専門知識と技術を身につける。
「化学・生物工学科」は情報系、特に計算科学を強化。化学や生物学の知識や実験技術に加え、最新の分析機器を活用した解析力や考察力を身につける。
25年度から始まった「DIGI+(でじたす)特別選抜」は、工学、デジタル技術、情報を活用しながらものづくりできる素養をもった中学生を、各学科5名人の計20人特別枠で選抜。入学前からデジタルやAIなど先端分野の教育を行う。25年度の合格内定者を対象に入学前教育として24年10~12月、デジタル情報教育講座(全4回)を実施した。
第1回は化学・生物工学をテーマに「たんぱく質の立体構造予測」の講義、第2回は電気電子工学をテーマに「半導体製造や半導体を使った回路の組み立て」を体験、第3回は情報知能工学をテーマに「マイコンを動かすプログラムや、じゃんけんの手の形でLEDを制御するAI」などを作った。
最終回の第4回は機械制御工学をテーマに「CAD/CAMによる工作機械の制御とPLCによるドローンの制御」を行い、先輩である高専学生のサポートのもと、課題に取り組む。

「DIGI+(でじたす)特別選抜」の合格内定者を対象にした入学前デジタル情報教育講座
佐世保高専は19年に全国高専に先駆けて「EDGEキャリアセンター」を立ち上げ、地域自治体、企業、社会人、起業家と様々な問題解決型学習を行いながら、学生にキャリアデザインやアントレプレナーシップを身につけさせている。
EDGE(エッジ)とは Enhancing Development of Global Entrepreneur の頭文字だ。
佐世保市のふるさと納税型クラウドファンディング事業の助成金や企業・団体・個人からの寄付金を原資とし、コンテストや国際研修に係る費用を助成することで、資金面からも学生の挑戦を後押ししている。
25年7月には、起業について学んでもらおうと「アントレプレナーサロン」を開催し、本科1年生から専攻科2年生までの学生30名が参加した。
講師は同校卒業生で長岡技術科学大学大学院生の永江健太郎氏だ。在学中に起業し、ビジネスコンテストで受賞した経歴を持つ。現在は学業のかたわら、理系に特化したマンツーマン指導のオンライン塾を経営している。
サロンでは永江氏による講演が行われ、その後、「誰のどんな悩みをどう解決するか」という観点からグループワークを行い解決策を発表した。学生からは、起業アイデアを生み出すきっかけを学ぶことができたと好評だった。

2025年7月に実施した「アントレプレナーサロン」
佐世保高専の情報知能工学科の教員によれば、近年の高専生の特色として、プログラミングの技術がすでにあり、強い興味をもつ学生が多くなった印象だという。
将来に対する意識も高く、自らの進路を主体的に考え、起業や将来像を具体的に描いている学生が増えた。
23年度には、文部科学省の「大学・高専機能強化支援事業」に採択され、高度情報人材の育成を進めてきた。高専は大学と同じ高等教育機関だが、高専には高専の役割がある。その一つが社会と連携した教育実践であると考えている。
今後も佐世保高専は「EDGEキャリアセンター」を中心に「モノづくり」も「コトづくり」もできる学生の育成に力を入れていく。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年12月8日号掲載