米子高専は1964年に開校。これまで60年間にわたり、地元および全国で活躍する技術者を輩出してきた。2021年4月には、学科編成をこれまでの5学科から1学科(総合工学科)・5コース(機械システムコース、電気電子コース、情報システムコース、化学・バイオコース、建築デザインコース)に改組し、学際的な人材の育成に取り組んでいる。
25年に大阪・夢洲で開催された大阪・関西万博のパナソニックグループパビリオン「ノモの国」において、米子高専の学生がSTEMA教育の一環として開発したライトアップ演出制作支援システムを使い、小学生や全国の高専生とともにパビリオンのファサード(建物外観)のライトアップ演出に携わった。
システム開発の際、プログラミングツールは小学生が普段使っているScratchを採用。時系列に光演出と音声を配置して直感的に作業できるタイムライン機能を実装し、使いやすくするために制御するパラメーター数も厳選するなど、分かりやすさと使いやすさを優先したユーザーインターフェースを考えた。
照明装置はパナソニックが開発した手のひらサイズのIoT照明ILLUME(イリューム)を使用。学生たちはこれまで、授業でILLUMEの光を制御するプログラミングは作成してきたが、パビリオンのファサードの面積は教室で模型やシミュレータを使って実習していた際の10倍ほど大きい。当初は実際にどうなるかイメージできず大変だったという。
こうした苦労の末、「キラキラ」「ワクワク」「メラメラ」など抽象度の高い光の表現を、小学生でも簡単にプログラミングできるシステムを開発した。

IoT照明を用いたライトアップ演出制作支援システムを高専生が開発した
25年1月、星野リゾートリゾナーレ大阪において、パナソニック ホールディングスが主催した「万博パビリオンをきみが演出!光のワークショップ ノモと、ヒカリと、モノガタリ」に、支援ツール制作者およびファシリテータとして米子高専生も参加した。このワークショップでは小学4年生から6年生まで約20名の子供たちが、高専生の指導のもと、パビリオンファサードを光と音で彩る演出を作成した。
「完成した照明演出は万博会場で実際にパビリオンを彩り、子供たちにとっても、高専生にとっても、とても感動的な体験となりました」(田中博美教授・米子高専総合工学科電気電子部門)

小学生は高専生が開発したシステムでライトアップ演出を制作した
同年9月には、全国高専生を対象に、パナソニックパビリオンの照明演出を創作するワークショップをオンラインで実施。全国7つの高専生が参加した。参加学生はそれぞれの地域の特色とパビリオンをリンクさせて物語を考え演出を作った。
「学生たちが作成した作品はいずれも非常にユニークで、かつ高専生らしいこだわりが随所にみられるクオリティの高い作品ばかりでした」
これらの作品も万博会場のパビリオンで繰り返し放映された。
「学生にとって、どうすれば子供も使いやすくなるかなど、ユーザー視点をイメージし、必要要件を学生なりに具体化して進めることができるようになったことは大きな成果です。何より、自分たちの技術・知識が誰かを幸せにするという体験は、新しい技術に挑戦する際に、学びの大きなモチベーションになります。演出を担当した子供たちや万博来場者の笑顔が見られた経験は、学生の自信につながったと感じています」
田中教授は昨今の高専生の特徴についてこう話す。
「着任当初の15年前に比べると、専門性に特化したいわゆる尖った学生の割合は、残念ながら減ってきているように感じます。一方で、興味の幅が広い学生は増えており、社会実装型の教育をうまく取り入れることで、専門性の深化を図れるチャンスが広がっていると考えています」
不確実なことが多いVUCA(ブーカ、変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代において、答えのない問いに対峙できる力が問われるようになった。一方で、AIの急速な発展により、人間の存在意義が問われる分野も増えてきている。
「このような激動の時代に生き残っていくためには、自分たちのアイデンティティをしっかりともち、人間にしかない感性を大事にすること。そして、高専が得意とするものづくりと組み合わせることで、世の中にない新たな価値観やモノを生み出せると思います。そのような唯一無二の人材を輩出し続けることができたらと思っています」と語った。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2026年1月1日号掲載