
「航空産業人財育成プログラム」で実践的に学ぶ
1965年に設立した北九州工業高等専門学校は2015年度に1学科(生産デザイン工学科)5コース制に再編。2年後期から機械創造システムコース、知能ロボットシステムコース、電気電子コース、情報システムコース、物質化学コースに分かれて学ぶ。
同校は航空産業に従事する人材育成のため、2024年から「航空産業人財育成プログラム」を本格的に開始。航空関連企業と協力して実践的なカリキュラムを展開している。
「航空分野の全体像を学生の初期段階から実践的に学ぶ機会が国内では乏しく将来の人材不足も懸念されていたことから、航空関連7社とともに人材育成プログラムの検討を開始。航空技術や航空産業の魅力を現場から若者に伝え、次世代を担う航空人材の裾野を広げることを目指しました」(プログラム事務局)
プログラムは「学校で習得する理論」と「実社会での応用」との橋渡しとして次の3つで構成。
①話す(座談会)=参加企業の現役社員(高専OBなど)とともに小グループで「航空産業の仕事」「働くこと」について意見交換。将来のキャリアを考えるきっかけを提供
②学ぶ・考える(出前授業・ワーク)=エアライン、航空機・装備品・エンジンメーカーなどの専門家が航空機整備、設計、ジェットエンジンの基本、生産技術、ヒューマンエラーや安全品質など、専門知識や実例に基づく講義やワークを実施
③見る・体験する(フィールドトリップ)=出発前の飛行機の見学や航空機・部品メーカーの工場を見学。スケールの大きな現場や業務を肌で体感

北九州空港でのフィールドトリップ
プログラム内容を決める際に重要視したのは次の3点だ。
▼理論と実践のギャップ解消=学生が学校の座学や教科で学ぶ理論と実社会の技術や製品とのギャップを埋め、実践的に学べるコンテンツを提供。
▼学校ニーズに応じたプログラム=企業は高専のニーズに応じて座談会、出前授業、空港見学、工場見学などのプログラムを実施。学校教育への貢献を主軸とする。
▼専門分野の多様性とキャリア形成=電気、情報、化学系など航空系・機械系以外の学生にも活躍の場があることを伝えるとともに、現役社員との交流を通じて働くことへのイメージを深め、将来のキャリア形成の一助となるようにする。
座談会では現場で活躍する高専OBがエンジニアとしてどのような仕事を行っているかを伝えている。プログラムを受講した学生からは、座学では得られない「実務のリアル」に対する熱量の高い感想が寄せられている。
「学校の製造実習で体験するCADやデジタルマシニング技術がそのまま航空機製造の効率化や需要対応に生かされており、普段の勉強へのモチベーションが高まった」「バードストライクなどの不測の事態に対して『あえて予想通りに壊れるように設計する』という思想と、爆破実証実験のこだわりに圧倒された」「ボーイング787では主翼を始めとする35%もの製造シェアを日本企業が共同開発で担っていること、また部品輸送用に特別な飛行機が存在することなど、スケールの大きさに驚いた」「理系技術者の仕事は整備や製造だと思っていたが、最適な運航を采配する『総合職技術系』や、若手中心で開発が進む『空飛ぶクルマ』など、挑戦できるフィールドは想像以上に広い」
同校知能ロボットシステムコースの久池井茂教授は「学生たちはプログラムを通じて高専で学ぶ知識が航空産業の最前線のキャリアにどのように結びつくかを実感でき、自分の将来像を鮮明に重ね合わせることができているようです」と話す。
「航空産業は機械・航空系だけでなく、電気・電子、情報、化学、材料など幅広いバックグラウンドを持つ人たちが活躍している現場。プログラムを通じて多様な専攻分野の高専生に航空産業の魅力を知ってもらうことに、協力企業としても大きな期待を寄せています」(プログラム事務局)
久池井教授によれば、同校の学生は知的好奇心が高く、かつ工学的で本質的な問いを立てる力を持っており、プログラム担当企業の専門家も驚くという。「例えば『なぜ、特殊な形状の計測器で正確な速度が測れるのか』『なぜ各国で分業し開発リスクを分担するのか』といった、技術の背景にある論理的な理由や設計思想の本質を自ら鋭く探ろうとします」
トラブルシューティングやグループワークの場でも、討議を通じて安全と効率の「最適解」を粘り強く導き出そうとするタフさがあり、技術者としての高いポテンシャルがうかがえるという。
「高専に求められるのは、教科書上の工学知識を教えることに留まることなく、地域や日本の産業界と強固に連携し、社会課題を自分ごととして捉えて果敢に挑む力を育むことだと考えています。実験・実習を重視したカリキュラムを軸に、地域社会や国際社会から尊敬され、信頼される人財を力強く社会へ送り出し続けたい」と語った。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2026年9月28日号掲載